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米国臨床腫瘍学会(ASCO)2008レポート
続々と出てきた分子標的治療薬、アービタックス、イレッサ、アバスチン等の新しい成果
「ターゲット症例に対するターゲット治療」の時代の幕開け

取材・文:菅野守 医学レポータ
発行:2008年8月
更新:2014年3月

  

第44回米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次学術集会が、2008年5月30日~6月3日の5日間にわたりイリノイ州シカゴのマコーミックプレイスで開かれた。ASCOは世界最大規模をほこる国際的ながん専門学会。最近は、毎年世界中から3万人を超える参加者があり、最新のがん研究の発表、討議の場となっている。ここでは、さながら「ターゲット症例(高い効果が期待できる選ばれた患者)に対するターゲット治療(分子標的治療)」の時代(ノースカロライナ大学のマークAソシンスキーさんの発言)の様相を呈する臨床腫瘍学の最前線から、注目の研究報告を紹介する。

分子標的治療薬アービタックス関連演題に注目が

肺がんと結腸・直腸がんの領域では、標準的な化学療法と分子標的治療薬であるアービタックス(一般名セツキシマブ)の併用療法に関する研究が大きく取り上げられた。

アービタックスは、イレッサ(同ゲフィチニブ)やタルセバ(同エルロチニブ)と同様に上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)をターゲットとする薬剤だが、作用の仕方が異なるため効果や副作用の特徴にも違いがみられる。また、イレッサやタルセバは経口薬だが、本薬剤は点滴静注で投与される。これに対し、アバスチン(一般名ベバシズマブ)は血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)という別の分子をターゲットとする注射薬である。

これら2種類の分子標的治療薬は下流のシグナル(信号)伝達経路が同じであることから、併用による効果の増強が期待されている。

分子標的治療薬は特にバイオマーカーを指標とした治療戦略が重要とされるが、今回のASCOにおけるアービタックス関連演題ではEGFRの発現状況やKRAS遺伝子型に基づく検討が注目を浴びた。

なお、アービタックスは日本では進行結腸・直腸がんに対する承認がすでに決定していると報じられており、本稿が発行されるころには正式な承認を受けていると予測される。

肺がん

アービタックスの上乗せ効果を確認

今回、肺がんの領域で最も注目を集めた臨床試験(FLEX試験)は、進行非小細胞肺がん(ステージ3B/4)に対する1次治療としての標準的な化学療法[シスプラチン(商品名ブリプラチンなど)+ナベルビン(一般名ビノレルビン)]にアービタックスを併用することで上乗せ効果が得られるか否かを検討したもの。オーストリア・ウィーン医科大学のロベルト・ピルケルさんが報告した。

本研究は、対象をEGFR発現例に限定している点が特徴だ。化学療法+アービタックス併用群と化学療法のみの群の治療効果を比較したところ、生存期間中央値(参加者が生存した期間の真ん中の値)はそれぞれ11.3カ月、10.1カ月、1年生存率は47パーセント、42パーセントと、統計学的な有意差をもってアービタックスの上乗せ効果が証明された。

また、人種別の解析では、両治療群を合わせた全体の生存期間中央値は、白人が9.6カ月、アジア人が19.5カ月と大きな差がみられたが、各人種の治療群別の解析では白人は有意な上乗せ効果(併用群10.5カ月、化学療法単独群9.1カ月)を認めたものの、アジア人はむしろ併用群で短い傾向が認められた(それぞれ17.6カ月、20.4カ月で、統計学的な有意差はなし)。

全体の奏効率(腫瘍が消失あるいは半分以上縮小した症例の割合)は上乗せ効果(併用群36パーセント、化学療法単独群29パーセント)を認めたが、無増悪生存期間(治療後から再発までの期間で、病態の進行がない生存期間のこと)は両群ともに同じ(4.8カ月)であった。重篤な副作用としては、発熱性好中球減少、ざそう様皮疹、下痢などが併用群で有意に多かった。

以上により、パーカーさんは「プラチナ製剤を基本とする化学療法にアービタックスを併用する治療法は、EGFR陽性の進行非小細胞肺がんに対する新たな標準治療である」と結論している。

この演題のディスカッサント(口演発表の後、その研究の背景や意義の解説を担当する当該分野の専門家)を務めたハーバード大学医学部のトーマスJリンチさんは、重篤な発熱性好中球減少の頻度が高かった点に触れ、「厳重な注意が必要だが、それが原因で敗血症や治療中止例が増えてはいないため許容範囲」と評価した。また、臨床的に意味のある延命効果が得られたとはいえ、それが1.2カ月にすぎないことについては、「有効なバイオマーカーを新たに開発するなど、より大きな効果が得られる症例を選び出す方法が確立されれば、この治療法の意義はいっそう大きなものとなるだろう」としている。

なお、白人に比べアジア人の生存期間が優れていた原因としては、2つの治療群ともにEGFR遺伝子変異を持つ症例や非喫煙者がアジア人で多いなどの背景因子の影響を指摘している。とはいえ、日本人としては、アジア人ではアービタックスの上乗せ効果が確認できなかった点が気になるところだ。

イレッサは腺がんの維持療法として有効

先の臨床試験のデータからもわかるように、分子標的治療薬は効果や副作用に大きな人種差がみられることが多い。現に、アジア人では有効性が高いにもかかわらず白人では延命効果が示されなかったイレッサは、米国では原則的に使用禁止となっている。

また、イレッサは化学療法と同時に併用した場合にも上乗せ効果が示されなかったが、化学療法を行った後に維持療法として投与すると有効ではないかとの期待が持たれていた。

いわば日本の胸部腫瘍医の使命ともいえるこの課題の解決を目的に進められたのが、西日本胸部腫瘍臨床研究機構による臨床試験(WJTOG0203試験)だ。同機構を代表して愛知県がんセンター呼吸器内科の樋田豊明さんが報告を行った。

本研究は、進行非小細胞肺がんを対象に、化学療法を3コース行った後に維持療法としてイレッサを投与する群と化学療法のみを行った群(3~6コース)を比較したもの。化学療法は、プラチナ製剤〔シスプラチン、カルボプラチン(商品名パラプラチン)〕とタキサン系薬剤、イリノテカン(商品名カンプトなど)、ナベルビン(一般名ビノレルビン)、ジェムザール(一般名ゲムシタビン)の2剤併用レジメン(治療内容)が用いられた。

その結果、生存期間中央値はイレッサ群13.68カ月、化学療法単独群12.89カ月と、臨床的に意味のある差は確認できなかった。 そこで、腫瘍の組織型別の解析を行ったところ、腺がんではイレッサ群15.42カ月、化学療法単独群14.33か月と、統計学的有意差をもってイレッサ群が優れたが、非腺がんでは有意な差は認めなかった(9.17カ月対7.69カ月)。

さらに、他の背景因子に基づいて解析したところ、腺がんの喫煙者においてイレッサ群の生存期間中央値(13.64カ月)が顕著に延長していた(化学療法単独群は10.03カ月)。

なお、無増悪生存期間は、維持療法群で有意に延長(イレッサ群が4.60カ月、化学療法単独群が4.27カ月)していたが、奏効率は両群で同等(それぞれ34.2パーセント、29.3パーセント)であった。副作用は予想の範囲内であり、十分に管理可能であった。

樋田氏は、「化学療法施行後の維持療法として逐次的にイレッサを投与する方法は、進行非小細胞肺がんの腺がん例に有効であり、なかでも喫煙者の治療法として有望である」と結論した。

ディスカッサントのドイツ・デュースブルグ-エッセン大学のウィルフリド・エベルハートさんは、「今後は、維持療法が有効な症例をより的確に選び出せるようになるだろう。現時点では、日本人の腺がん例にはイレッサによる維持療法がよいと考えられる」とコメントした。


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