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高齢進行がん患者の悪液質を集学的治療で予防・改善 日本初の臨床試験「NEXTAC-ONE」で安全性と忍容性認められる

監修●立松典篤 国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科
取材・文●半沢裕子
発行:2019年11月
更新:2020年1月

  

「第Ⅱ相試験の結果によって、さらに効果的な集学的治療が開発できるのではと考えています」と語る立松典篤さん

これまでエビデンス(科学的根拠)の極めて少なかったがん悪液質に対する集学的治療に関して、日本初の臨床試験「NEXTAC-ONE」が実施され、その安全性と忍容性が認められた。その結果を受けてNEXTAC-TWO試験の登録が2017年8月に開始され、2021年以降に結果が公表される予定となっている。がん悪液質を有効に治療するためには薬物療法だけでなく、栄養サポートや運動療法、心理社会的介入などを含む集学的な支持療法が必要という認識は、今日、世界的に共有され始めている。NEXTAC-ONE試験において運動プログラムを担当した国立がん研究センター東病院の立松典篤氏に、運動療法を中心にその概要と今後の展望について伺った。

NEXTAC-ONE(The nutritional and exercise treatment for the elderly patients with advanced non-small-cell lung and pancreatic cancer-one)試験=高齢進行非小細胞肺がんおよび膵がん患者に対する早期栄養および運動介入の安全性・忍容性試験

症候群として認識されるようになってきたがん悪液質

がん悪液質とは何か。2011年、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無を問わない)を特徴とする多因性の症候群」という定義が国際的コンセンサスを得ている。進行がんに多く見られる合併症で、がん患者の50〜80%が発症し、がん関連死の20%を占めると推定されている。

がん悪液質を引き起こす主な病態生理は全身性の炎症と考えられている。がん細胞やがんに対する生体反応が炎症性サイトカインを活性化させ、骨格筋量の減少、脂肪組織の分解、代謝異常などを引き起こす、たくさんの生体的過程が関わる複雑で複合的な症候群なのだ。症状としては体重や筋肉量の減少、食欲低下、貧血、倦怠感、身体機能の低下などが見られ、患者のQOL(生活の質)を著しく損なうと考えられている。

悪液質そのものは心疾患や腎臓病などの慢性疾患においても起こるため古くから知られていたが、こうした疾患の最終段階と考えられ、治療や研究の対象になることはなかった。近年、がん研究が進み、体内の分子レベルで何が起きているかが検証できるようになった結果、多数の生体異常が確認され、1つの疾患として再認識されるようになってきているというのが現状だろう。

NEXTAC-ONE試験の運動プログラムを担当した国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科の理学療養士、立松典篤さんは次のように語る。

「がんが進行して悪液質が発現してくると、身体機能が低下してQOLが悪くなり、抗がん薬治療の有害事象(イベント)が出やすくなる、結果としてがん治療がしっかり受けられず、治療成績も悪くなる、予後が不良になり入院日数が長くなるなど、非常に様々なデメリットがあると言われてきました。それに対して何かできるかというと、なかなか手の施しようがないというのが従来のイメージでした」

がん悪液質にはステージ分類、早期の介入が大切

しかし、がん悪液質が疾患として認識されるようになると、「運動や栄養、新規の治療薬、そして心理的介入などを行うと効果があるのではないかと世界的に考えられるようになりました。それも単独ではなく、複数組み合わせることが重要とされています」(図1)

■図1

2018年に日本がんサポーティブケア学会から翻訳版が発行された『がん悪液質:機序と治療の進歩』にも、「治療戦略では、がん悪液質の多次元的な性質を反映させる必要があり、集学的アプローチが必要であることが明らかとなっている。がん悪液質の治療の目的は、十分な摂食と適度な運動を提供し症状を緩和すること、悪液質に典型的な代謝および炎症過程を妨げること、心理的な問題に対処することである」と書かれている。

悪液質に関してもう1つ重要なのは、がん悪液質にステージがあることが明確に定義されたことだ。このステージ分類もまた2011年に欧州で発表され、今日世界中で共有されている(図2)。

■図2

「『前悪液質』、『悪液質』、『不応性悪液質』という形で病態が進行していきますが、不応性悪液質の段階に入ると、残念ながら治療やケアの効果が得られにくくなります。ですから、より早い段階で診断を行い、悪液質リスクの高い人たちを見つけ、早めに集学的介入を行うことが必要ですが、運動の分野でも患者さんに合わせた介入を組み立てるにあたり、このステージ分類に拠っています」

そこでいよいよ治療ということになるが、そのネックとなってきたのが、がん悪液質に対する集学的治療を検証した臨床研究が極めて少ないことだった。何しろ、高齢な進行がん患者が対象なので、そもそも体力的に脆弱(ぜいじゃく)なうえ、抗がん薬治療と並行して行われるため、様々な有害事象が起こりうる。臨床試験を組み立てることそのものが難しく、結果の解釈もまた難しい。

エビデンスを得るための臨床試験が世界各国で始まる

しかし、悪液質が1つの疾患として認識され、集学的治療の必要性が理解され、治療計画の基盤になるステージ分類も作られるという大きな流れの中で、今日、エビデンスを得るための臨床試験や解析が世界各国で始まっている。こうした試験の1つひとつが、がん悪液質に対する集学的治療の位置づけと可能性を確認するための地道な一歩になっているというのが現状と言えそうだ。

先行研究として注目されたのは、ヨーロッパで行われたプレメナック・スタディ(Pre-MENAC study)。悪液質リスクの高い人たちへの介入に関する最初の臨床試験で、化学療法を予定している進行膵がんと進行非小細胞肺がんの患者を、化学療法のみの群(単独群)と化学療法+運動・栄養・抗炎症薬投与群(併用群)に割り付けて比較したもので、がん悪液質の集学的治療の問題が浮き彫りになったという。

「登録候補対象者は400名もいたのに、実際に基準を満たして登録されたのは46名で、登録期間は3年にも及びました。結果も運動・栄養・抗炎症薬の3種類を全部できた人が12%、2種類できた人が24~40%。悪液質リスクの高い進行がんの患者さんにとっては複数の介入による試験自体、ハードルが高いことがわかりました」

そうした流れの中で、日本でも2016年8月からNEXTAC-ONE試験が開始され、翌2017年5月までに予定していた30名の登録を終え、同11月にすべてのデータ収集を完了した。

「静岡がんセンター呼吸器内科医長の内藤立暁先生が進行肺がん患者の経過を追跡したところ、化学療法により一定の患者さんの体重や筋肉量が低下し減少し、歩けなくなるなどの機能障害が出ることがわかりました。それを何とかしたいと日本サポーティブケア学会の悪液質部会でプログラムが立ち上がり、試験が行われることになりました」

静岡がんセンターのほか、国立がん研究センター東病院、京都府立医科大学付属病院、新潟県立がんセンター新潟病院の国内全4施設が参加した。

第一段階として悪液質リスクの高い患者さんを対象に

NEXTACプログラムのコンセプトは、①悪液質高リスクで高齢な進行がんの患者、初回化学療法開始と同時に介入する(予防的アプローチ)、②運動・栄養・生活について多職種で支援する(集学的アプローチ)、③患者が主体的に取り組めるよう支援する(教育的アプローチ)。③については日本のがん治療が外来中心という事情も考慮された。例えば運動療法では、理学療養士が患者に会うのは2週間〜1カ月に一度。患者が家でできる運動プログラムでなければならないので、「一緒にやる」より「支援して一人でできるようにする」ことが重要になる。

対象者は化学療法を行ったことのない進行性非小細胞肺がん患者(24名、80%)と進行膵がん患者(6名、20%)の合計30名。年齢中央値は75歳で、9割がステージ4または手術後の再発症例だった。全身状態(PS)が比較的よく、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group:米国東海岸癌臨床試験グループ)のPSで0~1、BI(Bathel Index:日常生活動作ADLを評価する評価法)で90点以上。試験期間を通じて支援の可能な家族または友人が少なくとも1名以上いるという条件を満たしていた。

高齢な進行非小細胞肺がんと進行膵がんの患者が対象になったのは、「悪液質リスクの高い方に対してどんな介入が可能かを見るため、悪液質になりやすいとされる肺がんと、消化器がんの代表として膵がんを選択しました」(立松)。

すべての対象者は介入前に身体活動量を測定し(T0ポイント)、初回の化学療法開始前にベースライン評価を行った(T1ポイント)。そして、T1から4週後に中間評価(T2ポイント)を、8週後に最終評価(T3ポイント)を行った。介入が行われるのは栄養療法、運動療法、生活様式介入の3つ。運動療法ではT1にトレーニング・プログラムの処方と指導、体調不良時の自己調整方法の指導を行う。T2とT3ではその修正とカウンセリングを行うが、T3は介入終了時なので、その後も運動を続けるかどうかは患者さんの主体性に任される。

栄養療法では食事指導と経口栄養補助食品の処方が行われた。生活様式介入は歩数計装着とカウンセリングで、患者が寝たきりや引きこもりにならないよう看護師などが生活指導を行った。

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