腸内細菌、歯周病菌が大腸がんの進行にも関与⁉︎ 大腸がん再発予防は善玉菌を減らさない食事とリズム感ある生活で
がんになりにくい食習慣としては食物繊維をとる、赤身の肉を減らす、節酒をするなどが薦められている。これらは大腸がん治療後にも重要と考えられている。また最近では、腸内の善玉菌を減らさないことや、腸内でも悪玉菌として働く歯周病菌も、がんの進行に関わっていると考えられている。さらに、善玉菌の代表であるビフィズス菌はみずからB1、B2などのビタミン類を生成し、主に乳酸と酢酸や酪酸を作ることにより、様々な病気予防に役立っている。つまり、腸内フローラをいい状態に保つことは、大腸がんの再発予防に役立つと考えられる。その詳細は?
善玉菌が減ると日和見菌が悪玉に変身
人間の大腸には様々な細菌が棲みついており、複雑な腸内フローラ(菌叢:きんそう)を形成している。その菌の種類は1,000種類以上、便1gあたり約1兆個にも上り、人間の大腸内に生息する細菌を集めると、総重量は1.5Kgにもなると考えられている。便のほとんどは食べ物のかすと思いがちだが、実は人間の便の半分近くはこれらの細菌というから驚く。
順天堂大学名誉教授・特任教授の佐藤信紘さんは、「このうち、善玉菌と呼ばれる細菌は10~15%、悪玉菌と呼ばれる細菌はほんの数%で、残りの80%くらいは善玉でも悪玉でもない日和見(ひよりみ)菌と言われています。しかし、善玉菌、悪玉菌、日和見菌はいつも変わらず常在しているのではなく、たがいに接触しながらクロストークしていると考えられています。そして、善玉菌が減ってくると日和見菌が悪玉菌に変身し、腸内細菌のバランスが崩れ、腸内細菌の多様性が失われてしまいます。その結果、悪玉菌により便秘や下痢などの症状だけでなく、様々な病気が引き起こされたりします」
そこで大事なのは善玉菌をキープすることで悪玉菌が増えないようにすることだが、善玉菌の中でも重要な働きをすると推測されているのがビフィドバクテリウム属の細菌、いわゆるビフィズス菌だ(写真1)。
佐藤さんは順天堂大学でビフィズス菌の働きを調べる研究講座を開設しているが、「ビフィズス菌は母乳を飲んでいる赤ちゃんのお腹にとても多く、加齢とともにどんどん減ります。0歳~104歳の日本人367名の腸内菌叢を次世代シークエンサーで調べたところ、乳児では全体の半分くらいを占め、子どもでも20%近くを占めていますが、60〜70歳になると数%になり、80歳くらいになるとほとんどいません。そして、私たちは腸内にビフィズス菌が多くいれば、大腸がんや、悪性化を防いだりできるのではないかと考えています。現在、そう考えている研究者は世界的にたくさんいます」(図2)
細胞ががん化し、悪性化する過程に腸内細菌が関与
佐藤さんはその機序を以下のように説明する。
「そもそもがんとは、正常細胞の遺伝子の変化が積み重なって、ついにがんになると考えられます。また、人にもよりますが、比較的穏やかながんから次第に悪性度の高い、転移しやすいがんになると考えられます。大腸がんは早期なら手術で切除しますが、がんを発症した人たちには『がんになる手前まで変化した細胞』がまだある可能性が高いと思います。それが悪性化しないよう予防することが重要だと私たちは考えています」
「そんな中、最初の遺伝子変異、次の遺伝子変異……というように各段階の遺伝子変異には、それぞれ異なった菌が働いているらしいことがだんだんわかってきたのです。p53遺伝子、RAS遺伝子など、今日ではがんを抑制したり促進したりする遺伝子が次々解明され、そうした遺伝子の変異ががんを増殖させることがわかっていますが、悪玉菌はこの遺伝子変異を促しているようなのです」(図3)
「そこで、最初の遺伝子変異に働く、つまり大腸がん発症に関わる菌をやつける抗菌剤の開発が競って行われていますが、菌は1つではなく、しかも人により異なる菌が働いているため一筋縄ではいきません。それでも少しずつ解明が進み、昨年は大阪大学のチームが大腸がんの発がんの早期や進行期に関連する細菌を発見し、世界的に話題になりました」
これは大阪大学大学院医学研究科教授の谷内田真一さんのチームが、多発性ポリープ(腺腫)や大腸がん患者の凍結便を集め、*メタゲノム解析(検体の中の細菌群集からDNAすべてを抽出し、次世代シークエンサーでゲノム配列を解析しどんな菌がいるか、またその機能を調べる)*メタボローム解析(糖やアミノ酸など体内にある数100種類の代謝物質がどれだけ含まれているか、質量分析計を使い一気に調べる)を行った研究で、昨年(2019年)6月、米国科学誌『Nature Medicine』に掲載された。それまで、進行した大腸がんに特徴的な菌はすでに特定されていたが、前がん病変であるポリープや、ごく早期の大腸がんである粘膜内がんの発症に関連している菌について解明されたのは初めてのことという。同時に、病気の進行(病期)に伴う腸内の代謝物質の変動も調べ、大腸がんが発症する際の腸内環境も明らかにされた。
具体的には、大腸がんと関連する菌を大きく2つのパターンに分類することができたという。1つは進行大腸がんで増えることがすでにわかっている菌で、粘膜内がんの病期(0期)から増え、病気の進行とともに多くなる。菌の種類としては主にフゾバクテリウム・ヌクレアタムやペプトストレプトコッカス・ストマティスなど。もう1つは多発ポリープや0期のみで増える菌で、アトポビウム・パルブルムやアクチノマイセス・オドントリティカスなど。すなわち、こちらは大腸がん発症の初期にかかわっていると推察された。
一方、ビフィズス菌の仲間は0期で減り、酪酸という有用な物質を作り出す菌類は0期から進行大腸がんまで、一貫して減少していたという。この研究ではさらに腸内に増えていた酸やアミノ酸も解析し、これらの物質の有無でがん診断ができるモデルも開発している。
腸内のビフィズス菌ががんの進行を抑制する効果を持つことは、動物実験ではあるが、シカゴ大学のトーマス・F・ガジュウスキー氏の研究グループにより、『サイエンス』誌に報告されている(2015年)。同じマウスでも飼育施設によってがんの進行に差があったことから、原因を調べたところ、ビフィズス菌の占有率に違いがあったことがわかったという。そこで、がんの進行の早いマウスに遅いマウスの腸内菌叢を移植したところ、がんの増大が抑制されたというのだ。
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