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がん医療経済:これからのがん医療費を、マクロ的視点から考える ベストな医療を受けるため、限られた財源を有効に使うには

監修●福田 敬 国立保健医療科学院研究情報支援研究センター上席主任研究官
取材・文●柄川昭彦
発行:2013年7月
更新:2019年10月

  

「限られた中でどうやっていくか、その考え方の1つが『費用対効果』」という福田敬さん

がん医療の現場では、治療効果を高めるため、日夜、新たな技術や新薬の開発・導入が努められている。一方で、それは国民や患者さんの費用増加という問題にかかわってくる。より良い医療が安心して受けられるよう、この負担をどのようにしていくかが課題となっている。

技術の進歩によって上昇し続ける医療費

がんに対して、日本では年間どのくらいの医療費がかかっているのだろうか。国立保健医療科学院研究情報支援研究センターの福田敬さんは、次のように教えてくれた。

「病気別の医療費のデータがあります(表1)。平成22年の数字ですが、『新生物』で3兆4,000億円ほどになっています。この中には、がん以外に良性の腫瘍なども含まれるので、それを除くと、がんだけで3兆円ほどでしょう。医療費全体で約37兆円ですから、かなり大きな部分を占めていることになります」

そして、その国民医療費は年々増え続けている(図2)。増加幅は年によって差があるが、最近は1年に1兆円のペースで増加しているという。

なぜ医療費は増加するのだろうか。

「患者数が増えていることも関係していますが、最大の原因は医療技術が進歩したこと。新しい薬が誕生したり、新たな術法が開発されたりすることで、それまでよりも医療費がかかるようになっています」

医療技術の進歩は好ましいことだが、それによって医療費が膨らんでしまう問題を、どう考えればいいのだろう。医療費のことを考えると、もう医療は進歩しないほうがいいのではないか、という極論もあるだろう。しかし、それはやはりおかしい。

■表1 上位5傷病別医科診療医療費

傷病分類 平成22年度 平成21年度
推計額(億円) 構成割合(%) 推計額(億円) 構成割合(%)
医科診療医療費
総数 272,228 100.0 262,041 100.0
循環器系の疾患 56,601 20.8 54,350 20.7
新生物 34,750 12.8 33,494 12.8
呼吸器系の疾患 21,140 7.8 20,369 7.8
筋骨格系及び結合組織の疾患 20,263 7.4 19,505 7.4
内分泌、栄養及び代謝疾患 19,828 7.3 18,700 7.1
その他 119,646 44.0 115,624 44.1
65歳未満
総数 116,532 100.0 112,352 100.0
新生物 14,605 12.5 13,936 12.4
循環器系の疾患 13,934 12.0 13,296 11.8
呼吸器系の疾患 12,389 10.6 12,215 10.9
精神及び行動の障害 11,402 9.8 11,063 9.8
腎尿路生殖器系の疾患 8,477 7.3 8,346 7.4
その他 55,726 47.8 53,497 47.6
65歳以上
総数 155,696 100.0 149,689 100.0
循環器系の疾患 42,668 27.4 41,054 27.4
新生物 20,146 12.9 19,558 13.1
筋骨格系及び総合組織の疾患 12,954 8.3 12,435 8.3
内分泌、栄養及び代謝疾患 11,717 7.5 11,093 7.4
腎尿路生殖器系の疾患 10,913 7.0 10,955 7.3
その他 57,299 36.8 54,593 36.5
注:1)傷病分類は、「ICD-10(2003年版)準拠」による
    2)「その他」は、上位5傷病以外の傷病
出典:「平成22年度国民医療費の概要」厚生労働省
■図2 国民医療費・対国内総生産及び対国民所得比率の年次推移

出典:「平成22年度国民医療費の概要」厚生労働省

問題にすべきなのは医療費だけではない

「医療費だけを考えると、そうなってしまいます。そうではなく、もっと大きく経済的疾病費用について考える必要があるのです」

経済的疾病費用とは、その病気によって生じる社会的な費用のことで、直接費用と間接費用に分けられるという。直接費用とは、つまり医療費のこと。そして、間接費用には、死亡費用と罹病費用がある。

「死亡費用とは、その病気によって寿命を全うせず、早く死亡したことによる損失額のことです。早期に死亡することによる社会的損失を推計したものですね。罹病費用は、病気になったことで、具合が悪くて活動できなくなったり、治療を受けるために仕事を休んだりすることで生じる損失。医療費だけではなく、死亡費用や罹病費用といった費用も考慮して、がんの医療を考えてみるといいですね」

そういったマクロな視点で、がん医療全体をみていくことも必要なのかもしれない。

大きな経済的損失を生むがんによる死亡

■図3 罹患によるコスト(全体)経年変化と内訳(割引率3%)出典:「がん対策の費用の分析」福田 敬

がんの医療費は上昇を続けているが、がんによる経済的負担はどう変化しているのだろうか。福田さんはそれに関する研究を行っている。

「少しデータが古いですが、平成11年、14年、17年と、3年おきに経済的疾病費用を推計してみました。医療費だけでなく、死亡費用や罹病費用も、公になっているデータを使って推計しました」

その結果を示したのが次のグラフである(図3)。

「まず平成17年のデータを見てください。医療費は2兆5,000億円ほどかかっていますが、死亡費用は6兆5,000億円です。つまり、医療費が高くなったといっても、がんで死亡することによる損失のほうが、それよりもはるかに大きいのです」

この研究では、罹病費用は5,000億円ほどで、意外と少ない。これには理由があって、通院や入院で仕事を休んだことによる損失額しか入っていないからだという。

「本来なら、体調が悪くて仕事ができないという損失もありますし、家事のように賃金をもらわない労働の損失もあります。データがないため、それらを加えてないので、過少推計になっていることは明らかなのです」

つまり、死亡費用と罹病費用を合計した額は、実際にはこれよりかなり大きくなる。がんは、社会に大きな経済的損失をもたらすのである。

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