基礎知識:「かかるお金」と「かけるお金」 治療にはどれくらいかかる? 収入はどうなる?
がんと宣告されたとき、あなたの頭に浮かぶのは何だろう。生命への願望、周囲の人びととの関係、将来の心配――さまざまなことが頭をよぎるが、現実的な問題として、治療にはどれくらいかかるか? 収入はどうなる? という金銭的なことも大きい。
今回は「がんとマネー」について特集する。まずは基礎知識を、乳がん体験者で本誌コラムでもおなじみの黒田尚子さんに解説してもらう。
Q1 がんになったらどんなお金がかかるの?
大きく分けて3つのおカネがかかります。1つ目は病院に払う医療費です。それには診察、治療、手術、入院……などの費用があります。公的医療保険が適用できますので、国民健康保険や厚生年金保険加入者なら3割の負担となります。
2つ目は、病院に支払う保険適用以外の金額です。差額ベッド代や入院時の食事代の部分的費用、さらに先進医療を受けた場合の費用、診断書作成料などがこれに当たります。
3つ目は、病院以外に支払う費用。病院への交通費や宿泊費、入院時の雑貨や化学療法で髪が抜けた場合のかつら(ウィッグ)などです。
考え方としては、それが「かかるお金」なのか、「かけるお金」なのか分けて考えることです。自分の裁量次第で「かけるお金」であれば、工夫次第で節約も可能となります。
Q2 がん治療費の特徴はあるの?
がん治療費の特徴は「高額化」「長期化」しやすいことです。がん治療費は、がんの種類と進行度でかなり違ってきます。早期に発見できれば治療費は抑えられますし、治療面でも再発リスクを抑えられます。しかし、進行して再発してしまうと治療も支出も"エンドレス"という状況になってしまいます。とりわけ抗がん薬治療は、医療の進歩によって高い効果が期待できますが、その一方で高額化する傾向です。
治療が長期化するとともに、健康食品やサプリメントにお金をかけるがん患者も多く見受けられます。あるいは医師から「もう治療選択肢はない」と言われた患者さんが、民間療法を勧められ、数百万円支払ったという事例もあります。
Q1への答えにもつながりますが、「かけるお金」について一考することも必要です。
Q3 ではいったい、治療には平均ではどれくらいかかる?
日本医療政策機構内にあるがん政策情報センターが行った調査によると、最も費用のかかった年の治療に関する出費の平均は約115万円でした。内訳でみると、50万円未満が26%だった一方、500万円以上の方も3%近くいます。がん治療の費用は、個々の患者によってケースバイケースですので、平均額は参考程度にとどめておくべきです。なお、これは高額療養費制度などでの払い戻しがあったあとの金額ですが、あくまでも年間の費用であり、治療が長期化すれば、さらに費用負担は膨らむと推察されるでしょう。分子標的薬を使うかなど治療選択にも大いに関係しています。
Q4 治療費以外にかかるのは?
治療費以外に必要となった出費について、生命保険代理店などが調査したところ、年間の平均で約55万円という結果が出ました。お金がかかった内訳では、交通費・宿泊費が57%、定期検査費用54%、健康食品・サプリメント購入費39%などとなりました。治療中やその後のQOL向上のためにお金をかけるがん患者は多いと言えます。
ほかにも、体調不良などから外食が増えたり、治療の副作用を緩和するためのグッズを購入したり、入院中子どもや老親の世話を頼まなければならなかったりと、治療以外の出費もかさむことは覚悟しておいたほうがよさそうです。