がん看護専門看護師 山田みつぎの
副作用はこうして乗り切ろう!「感染症」
感染を怖れるあまり、やりたいことを諦めて、家に閉じこもっていませんか? 抗がん薬治療で抵抗力が落ちる時期は、おおよそ前もってわかります。その期間はポイントをおさえて対処。なるべく普段通り、気持ちよく過ごしましょう。大切なのは、正しい知識です。
白血球はいつ減少するのか
私たちの体の中には、健康なときも常に、たくさんの菌(常在菌)がいます。普段は、これらの菌が病原菌にならないよう、血液中の白血球が見張ってくれています。同時に、外から入ってきた病原菌とも戦ってくれているのです。ところが、何らかの原因で白血球が減少したとき、その働きが衰えて抵抗力が低下し、感染症にかかりやすくなってしまいます。
抗がん薬はその最たる原因。抗がん薬が体内を巡る過程で、血液を作り出す骨髄機能そのものを低下させ、白血球が急減するのです。とはいえ、抗がん薬投与日から逆算すると、白血球が急減する時期をあらかじめ把握できるので、対策を立てることができます。
大切なのは、抗がん薬の種類によって、白血球が減少する程度や時期が違うこと。まず、自分の抗がん薬が、投与後何日目から白血球が減り始め、少ない状態がどれくらい続き、いつから回復していくのか、を知りましょう(図1)。
投与後7日目から下がり始め、12日目から14日目が最も低く、そこから徐々に回復していく、というのが通常ですが、抗がん薬の種類によって違うので、必ず主治医や薬剤師に確認してください。
白血球減少の時期がわかったら、その時期は、とにかく予防です。とはいえ、考えすぎると家から一歩も出られなくなってしまうので、ポイントをおさえて正しく対処してほしいと思います。
皮膚を清潔に保つ
予防の要は、自分の体をきれいにすること(常在菌をできるだけ減らしておく)、そして外から菌を入れない。この2点です。
多くの感染症は、皮膚や粘膜にいる常在菌が引き金になりますから、毎日の入浴やシャワーで皮膚を清潔に保つよう心がけてください。無理なときは、お湯で濡らしたタオルで、体の汚れを優しくふきとります。そのとき、決してゴシゴシこすらないようにしましょう。肌だけでなく、衣類の交換も忘れずに。また、尿や便が出た後は、温水洗浄便座などで陰部を洗い、清潔にしておくことが大切です。
工事現場には近づかない
外から菌を入れないという観点からいうと、アスペルギルスというカビ菌の一種が怖いので、工事現場や解体現場には近づかないでください。カビ菌からの肺炎は、あっという間に重症化します。とはいえ、たとえ、カビ菌からの肺炎になってしまっても、ほとんどは治療でよくなりますが、体力消耗を考えても、できるだけならないにこしたことはありません。
また、生花、土、とくに花瓶の水は雑菌の温床です。ぬいぐるみも要注意。あとは、ペットですね。金魚を家の中で飼っていたら、水槽の水。鳥は羽、猫は爪が要注意です。猫に引っかかれて、ざっくり傷ができてしまい、そこから感染して*
私が担当していた患者さんで、正月に肺炎で緊急入院された方がいて、おそらく年末の大掃除でハタキかけをして、埃を吸いこんだことが原因と考えられました。埃は大敵。埃を舞い上げるハタキはやめて、濡れ雑巾や市販の住居用ワイパーなど、掃除方法を工夫したいところです。
感染症にかかりやすい時期、つまり白血球がもっとも少ない時期は、自宅で普通に生活しているときに訪れます。この間に、外から菌を入れないことは大切ですが、家でじっとしていては、ストレスが溜まりますし、体力も落ちてしまいます。人ごみや満員電車は避けて、スーパーに買い物に行ったり、ウォーキングしたり、できるだけ普段通りの生活を送ってほしいと思います。
*蜂窩織炎=皮膚の深いところから皮下脂肪組織にかけての細菌による強い化膿性炎症
同じカテゴリーの最新記事
- 接種したい4つのワクチンとそのタイミング がん患者・サバイバーのワクチン接種
- これまでの知見から見えてきた対応策 がん治療中のコロナ感染症
- がん患者での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)防止対策
- 血液がんの上手な日常での副作用管理 感染症対策が最重要。骨髄移植した患者はとくに注意を!
- 見逃さないことが重要 化学療法時のB型肝炎の再活性化対策
- がん闘病中の感染症対策 「手洗い」「うがい」で予防。徴候があれば医師に訴えて早めに対処
- 静岡県立静岡がんセンター感染症科の取り組みを追う 感染症対策はがん治療を確実なものにするために必要
- 患者にも医療者にも同様に危険な院内感染
- がん治療中のインフルエンザについてどう考える?