必要に応じて抗ウイルス薬の予防投与を
見逃さないことが重要 化学療法時のB型肝炎の再活性化対策
抗がん薬治療をきっかけに、肝臓に潜んでいたB型肝炎ウイルスが再活性化してくることがある。適切な治療が行われず、劇症化し、患者さんの中にはがんの治療はうまくいったものの、B型肝炎の再活性化で命を落としたというケースも実際には起きているという。
抗がん薬による治療で B型肝炎ウイルスが再活性化
抗がん薬による治療を受けると、免疫の働きが低下することはよく知られている。そのため、免疫作用に抑えられて体内に潜んでいたB型肝炎ウイルスが、抗がん薬治療をきっかけに再活性化してくることがあるという。国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長の池田公史さんは、この問題についてこう語っている。
「B型肝炎の再活性化が問題になり始めたのは、そう古いことではなく、実は以前から起きていたのだと考えられます。そのころは、急性B型肝炎を発症したと考えられていたのでしょう。体内に潜んでいたウイルスが再活性化したとは考えず、どこからか感染したのではないか、と考えられていた可能性があります」
B型肝炎の再活性化が注目されるようになったのは、2001年に米医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』に、1例の症例報告が掲載されたのがきっかけだという。
「悪性リンパ腫の治療で*リツキサンを使用したときに、過去にB型肝炎ウイルスにかかったことのある患者さんに、B型肝炎が出てきたという報告があったのです」
最初の報告は悪性リンパ腫に対するリツキサンの治療で起きたものだったが、それ以外の抗がん薬でも起きるし、がん種も関係ないという。肺がん、乳がん、大腸がんなど、どんながんの治療でも抗がん薬を使用すれば、再活性化を起こす可能性はある。
「具体的にどの薬剤で再活性化のリスクが高いのかなど、現時点でははっきりとはわかっていません。ただ、起こる可能性はあるので、きちんと対策を講じていかなければなりません」
というのも、B型肝炎ウイルスが再活性化した場合、適切な抗ウイルス治療が行われないと、数カ月後には肝障害が現れ、その一部は劇症化することになるからだ。そこまで進んでしまうと予後は非常に悪く、残念ながら2~3割の方は亡くなってしまうという。
「がんを治療するために抗がん薬を使うわけですが、がんの治療はうまくいったが、B型肝炎の再活性化で命を落としたというケースも実際に起きています」
そうならないためには、どんな点に注意すればよいのだろうか。
*リツキサン=一般名リツキシマブ
過去に感染している人が 10人中2~3人存在
注意が必要なのは、当然ながらB型肝炎ウイルスに持続感染している人。ただし他にも注意しなければならないケースがある。それが、過去にB型感染ウイルスにかかったことのある人。それなら自分は心配ない、と考える人がほとんどだろう。しかし、実はそうでもない。
まず、それぞれどのような状態かを説明してもらった。
「B型肝炎ウイルスには、生涯にわたって感染が続く持続感染(キャリア)と、一時的な感染に終わる一過性感染があります。持続感染の多くは、出産時に母親から感染する母子感染によるものです。持続感染しているが、肝炎が起きていない人を無症候性キャリアと呼びます。これに対し、一過性感染は、成長してからB型肝炎ウイルスに感染した場合に起こります。感染後、一過性の急性肝炎を起こすこともありますが、その後、ウイルスは免疫によって排除されます。つまり、かつてB型肝炎ウイルスに感染したけれども、すっかり治った、と考えられている状態です。リツキサンの症例報告をきっかけに注目されるようになったのは、こういった状態を指します」
一過性感染してウイルスを完全に排除して治ったと思っていても、実は肝臓の中にウイルスが潜んでいて、抗がん薬治療をきっかけに再び活性化してしまうことがあるというのだ(図1)。
B型肝炎ウイルスにかかったことのある人の割合
B型肝炎ウイルスの一過性感染は、持続感染している人との性的接触の他、十分に消毒していない器具による医療行為、入れ墨、ピアスの穴開けなどで起こるという。
「感染した後にはっきりと急性肝炎の症状が現れる人もいますが、症状が軽くて気づかない人もいますし、風邪かなと思っているうちに治ってしまった人もいるでしょう。現在、国立がん研究センター東病院で抗がん薬治療を受ける人では、10人中2~3人の割合で過去に感染していることがわかっています。ところが、そうした人のほとんどが、自分はB型肝炎に罹患したことはないと言いますね。多くの場合、本人は自分の感染に気づいていないのです」(図2)
自分は大丈夫と思っている人でも、実際は検査してみないとわからないのだ。