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リンパ浮腫マッサージの複合理学療法

山崎善弥 東京共済病院外科(リンパ浮腫専門外来)
天羽輝彦 リンパ工学研究所
発行:2004年7月
更新:2013年4月

  

山崎善弥さん やまざき ぜんや
昭和32年、東京大学医学部卒業。
33年、第2外科入局、
43年、癌研付属病院勤務、
46年、東大文部教官、東京医科歯科大学非常勤講師、
平成12年、東京共済病院外科(リンパ浮腫専門外来)
東京共済病院外科の
山崎善弥さん

黒田精工(株)との共同研究・開発で波動マッサージ治療がスタート

今から30年前、東京・大塚の癌研付属病院で、がんの治療に携わっていたとき、私は乳がんの手術を受けた患者さんの多くが、著しい腕のむくみに悩まされていることを知りました。

当時の乳がん外科は、患部を残さずにできるだけ大きく切除する方法がとられていました。

[容積浮腫率、体重の変化]

症例D 3度にわたる入院治療(波動マッサージを用いる複合理学療法)の結果、左脚で60パーセント、右足では46パーセント減少と、著しい改善を見た(56歳・女性・浮腫歴18年)

「手術の後は、少し腫れが出るくらいじゃないと不完全なんだ」という言葉もあった時代でした。

そのとき私は、人工臓器を取り入れた治療の研究グループに所属していて、当時の新技術である純流体素子(フルイディックス)を利用してリンパ浮腫の治療機器ができないかと、東京医歯大の戸川達男さんに相談しました。

すると、それはぜひ進めるべきだということになり、試行錯誤の末に手作りのマッサージ器を作り、戸川研究室で患者さんを治療してみると、腫れた腕が楽になった、腕の関節が曲がりやすくなったと大変喜ばれました。

これらの治療データを学会で発表したところ、共同開発をしたい、ぜひ協力したいと声を挙げてくれたのが、川崎市で空気圧機器や精密測定装置を作る黒田精工(株)でした。

そのとき陣頭指揮をとっていたのが天羽輝彦さんです。以来、臨床データをもとに機器の改良に努め、共同チームは一丸となって『波動形マッサージ器』(ハドマー(R))を完成させ、東大病院でリンパ浮腫の治療を本格的に開始しました。

純流体素子=1960年から70年代にかけて盛んに研究された空気圧素子。空気流の壁付着効果等によりオンオフ制御もしくは増幅作用が得られ、可動部分がなく、寿命も半永久的で、小型化、集積化が可能であることから民生用の機器として大いに期待された。

リンパ浮腫は疲労が大敵。術後10年でも油断できない

リンパ浮腫は致死的な疾患ではありません。当初、発症する確率は3~4割とされていました。しかし、一進一退を繰り返す性質があり、完治するのが困難で厄介な疾患です。糖尿病のように毎日の生活習慣の中できちんと治療し、正面からとらえていかなくてはなりません。

退院後の予防策としては、まず体を疲れさせないことに尽きます。掃除、洗濯、ふとんの上げ下げ、買い物にいたるまで、それまでの入院生活のブランクを取り戻すかのように、張り切ってしまいやすいので要注意です。

また、ふとした不注意が将来のリンパ浮腫を発症させるきっかけを作る要因になります。これは臨床例がはっきりと示しています。たとえ術後10年が経過していたとしても、親の介護や引越しで無理をしたことが契機となって、浮腫の発症が認められた例はたくさんあります。リンパ浮腫にとって、疲労は大敵なのです。

リンパ節をとってしまった腕や脚は、リンパ液の循環が低下しています。そのため、細菌の感染に対する抵抗力が弱っていることが多く、ちょっとしたケガが元で傷口からばい菌が入って炎症(蜂窩織炎)を起こしやすく、これがリンパ浮腫発症のきっかけになったり、すでに浮腫がある場合には一層の悪化を招くことが明らかになっています。

リンパ浮腫は手足の挙上、温浴、運動療法などを日常化し、その上で波動マッサージ器を併用する治療法がベスト(山崎チーム)

リンパ浮腫の治療は、基本的には自宅での治療であり、重症度に応じて入院治療となります。日常的に家庭で行うことは、セルフマッサージ、手足の挙上、弾性スリーブ、弾性ストッキング及び弾性包帯の使用、温浴、運動療法、薬物療法等があります。

これら日常の心構えを実践してもらった上で、波動マッサージ器を併用する複合理学療法をお勧めします。病院においては経過観察と、日々の家庭治療の適否の見極めと、治療方針の適切なアドバイスをするのが私たち医療チームの基本です。

セルフマッサージは効果があります。しかし長時間継続することはなかなか困難です。その点、器械なら20分でも30分でも同じペースで続けることができます。ただし器械の弱点は、人の細やかな場所まで行き届かないところにあります。ですから器械マッサージの前後には、必ず自らの手で隅々までじっくりとマッサージをすることをお願いしています。

蜂窩織炎=蜂窩織とは皮下組織(脂肪)の別名。ごく小さな傷からブドウ球菌や連鎖球菌などの細菌に感染し、真皮(肉)から皮下脂肪にかけて膿んで炎症が起きる症状。不快感やかゆみ、時には広範囲の皮膚が赤く腫れて高熱、悪寒、痛みやふるえを伴うこともある。通常、治療には抗生物質を使う。重症の場合は入院の必要もあるが、点滴等で適切に治療すれば、2週間程度で完治する。


波動マッサージ器『ハドマー(R)』

原理
5室からなるカフ(腕、もしくは脚に装着する空気袋)に、隣り合う2室に必ず重なるように空気圧が加えられ、手先から肩へ、または足先から太ももに向かって圧迫力が波動状に加えられ、溜ったリンパを中枢(心臓側)へ揉み送る。波動状に空気圧でマッサージを行うことから、『ハドマー(R)』と呼んでいる。

適応症
原発性(1次性)及び続発性(2次性)リンパ浮腫、及び象皮病、慢性静脈血行障害、静脈瘤性浮腫及び術後静脈血栓症

禁忌
炎症性浮腫、蜂窩織炎、急性静脈血栓症

・200s-SA(片腕用)118,650円
・200s-SF(片脚用)123,900円
・200s-WF(両脚用)155,400円
(いずれも税込み価格)



●黒田精工株式会社
〒212-8560 神奈川県川崎市幸区下平間239
『ハドマー(R)』についての問い合わせは、健康医療機器グループ(電話044-555-3521)まで


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