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抗がん剤、放射線治療の副作用
「味覚障害」は食事の工夫や亜鉛の補給で乗り切ろう!

監修・アドバイス:生井明浩 日本大学練馬光が丘病院耳鼻咽喉科科長
取材・文:池内加寿子
(2006年1月)


生井明浩さん 日本大学練馬光が丘病院
耳鼻咽喉科科長の
生井明浩さん

いくい あきひろ
日本大学練馬光が丘病院耳鼻咽喉科科長。味覚障害研究の第一人者。
1984年日本大学医学部卒業。87年同大学院卒業。
93~95年アメリカピッツバーグ大学研究員として活動。
96年より日本大学医学部講師。
99年より現職。
研究・教育と患者さんの治療にあたる


実例――
抗がん剤による味覚障害で、味がわからず、料理の味付けも困難に

乳がんの患者会「声を聴きあう患者たち&ネットワーク VOL―Net」の古山惠子さん(52歳)は、5年前、乳がん手術後に抗がん剤治療(注(1))を受けたところ、いろいろな副作用を経験したそうです。1クール目で骨髄抑制、吐き気や口内炎が現れ、治療が終わってから「味覚障害」に悩まされるようになったといいます。

「治療中は食欲もなく、食べ物には執着がなかったので記憶があいまいですが、“味がよくわからない”という状態に気づいたのは、抗がん剤中止後しばらくして、体力が回復してきたころだと思います。何を食べてもまったく味がしないので、料理やお弁当作りは、勘だけが頼りでしたね。お砂糖など、スプーンで何杯入れたか忘れると大変ですから、自信がないときは子供に味見をさせました。味覚がないとおいしいとも感じないため、食事は義務という感覚でしたが、治療終了後は徐々に改善してきました」

注(1)=CEF療法(エンドキサンファルモルビシン5-FU)2週連続投与、2週休みで1クール。
白血球減少等により、3クールで中止

生井さんより一言

がん治療中だけでなく、味覚障害の患者さんはこの10年間に10万人も増え、24万人に上る勢いです。味覚障害の約3分の1は薬剤によるもので、抗がん剤のほか、降圧剤、高脂血症治療薬、抗うつ薬など多くの薬剤も原因になります。無理なダイエットやファーストフードの多用による亜鉛不足も、味覚障害増加の要因として指摘されています。

味覚障害はなぜ起こる?
味を感じる「味蕾」細胞のダメージや唾液腺障害が原因

イラスト

古山さんのように、抗がん剤や放射線の治療によって味覚障害を起こすケースは少なくないようです。このような症状はなぜ起こるのでしょうか。

日本大学練馬光が丘病院耳鼻咽喉科科長の生井明浩さんは、そのメカニズムを次のように説明します。

「食物が口に入ると、唾液で溶かされた成分が口の中に広がり、舌の表面や口内にある“味蕾”という味のセンサー(受容器)に入って、その中の味細胞を刺激します。味蕾で感知された甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の“5基本味”は、味覚神経を通り、脳に伝わって味として認識されます(下のコラム参照)。味覚障害があるときは、このルートの3つの部位、すなわち、味蕾とその周辺、神経、脳のどこかに異常があると考えられます。抗がん剤や放射線による味覚障害は、主に味蕾全体の感度が低下することによって起こります」

抗がん剤や放射線の影響で味蕾の感度が悪くなる理由は、(1)味蕾の細胞自体がダメージを受け、細胞の再生サイクル(新陳代謝)が遅くなる、(2)薬剤の作用で味蕾細胞の再生に不可欠な亜鉛などの微量栄養素が吸収されにくくなる、(3)唾液腺がダメージを受けて唾液が減少し、味の成分が味蕾に入らなくなるなど、いくつかの要因があるそうです。

「抗がん剤は、分裂速度の速いがん細胞の分裂・増殖を抑制するのと同時に、新陳代謝の速い正常細胞にダメージを与えがちです。味蕾細胞は、20日から30日で新しい細胞に生まれ変わる新陳代謝の激しい細胞なので、抗がん剤や放射線によってダメージを受けやすく、細胞分裂のサイクルが遅くなり、古い細胞ばかりが残るため、味の感受性が鈍くなるのです」(生井さん。以下同)

また、味蕾の再生には、亜鉛をはじめ、鉄やビタミンB12などの微量成分が必要ですが、抗がん剤などの薬剤には、これらの必須成分の吸収を妨げる働き(キレート作用)があり、亜鉛不足が生じるため、味蕾の再生能力をよりダウンさせます。

頭頸部がん(舌がん、喉頭がん、咽頭がん)などで口やその周辺に放射線をかけた場合は唾液腺が障害され、これも味覚障害につながります。

「味の成分は唾液に溶けて味蕾の中に入るので、唾液が減少すると、味をより感じにくくなります。抗がん剤治療や放射線治療を受けた患者さんの3~4割には唾液が出ない、口の中が乾燥する、という症状がみられ、食べ物の味がしない、砂をかむようだ、うまさを感じない、飲み込みにくいなどの訴えが多く聞かれます」


[味を感じるしくみ]
図:味を感じるしくみ

味蕾って何?

味蕾とは、舌の表面の乳頭と呼ばれる粒つぶの上や、口の中に9000個ほど存在している、味覚を感知する器官です。顕微鏡でしか見えないほど小さく、60個の味細胞が玉ねぎのように集まって、花の蕾のような形を構成しています。舌の先端に密集する赤い茸状乳頭、奥の有郭乳頭、奥の側面にある葉状乳頭などに多く、舌中央の白っぽい糸状乳頭には存在しないので、舌の周辺部のほうが味を感じやすいといえます。味蕾では甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5基本味を感知していますが、辛味などは主に三叉神経経由で感知されます。さらに嗅覚や触覚など5感が総動員され、食べ物のおいしさが感じられるのです。

「何を食べても苦く感じる」のはなぜ?
苦味は毒見の味覚だから、他の味覚より感じやすい

「食物すべてが苦くて食べられない」「水やお湯ですら苦く感じる」という患者さんも多いもの。苦味を強く感じるのはなぜでしょうか。

「5つの基本味のうち、甘味は、砂糖や穀類に含まれるブドウ糖、塩味は塩化ナトリウム、旨味は肉や魚に多いイノシン酸やグルタミン酸で、栄養不足を感じたときに食べたい味覚です。一方、酸味は、その食物が腐っているかどうか、苦味は毒であるかどうかを見分ける味覚で、人間を危険から回避させるシグナルともいえます。とくに、一番感じやすいのが苦味です。他の味覚の感度がダウンしても、生命を維持する上でもっとも危険な毒を感じ取る苦味の味覚だけは最後まで残るのではないか、と推測できます」

生井さんより一言

昔習った「味覚地図」は誤り!

図:昔習った「味覚地図」は誤り!

昔は、舌には甘味や酸味など特定の味覚を感じるエリアがある、と信じられていました。これは1930年代の研究で、いまだにこの図を載せている児童参考書もありますが、実はこれは大きな間違い。1970年代の日本大学・冨田寛名誉教授の研究により、甘味、酸味、塩味などを感じる場所は分散して存在することが分かっています。


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