肺がん市民フォーラム「3期、4期でもあきらめない」

今後について決めるときに一番大事なのは「希望」

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取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年2月
更新:2016年1月

  

満席の時事通信ホールで11月24日開演された

弊社主催の肺がん市民フォーラム「3期、4期でもあきらめない」が、昨年(2014年)11月24日、都内で開催されました。第1部では、「最新の肺がん診療―標準治療と個別化治療」「在宅治療中の日常生活と服薬についての注意点」「在宅治療中の副作用対策―皮膚症状のコントロールについて」と題して、それぞれ専門家の講演が行われました。

また、第2部「パネルディスカッション:患者さんからのQ&A」では、事前に寄せられた肺がんの治療・副作用などの質問に対し、講演者からの回答が開示されました。このパネルディスカッションには肺がん患者さんも加わりました。子宮頸がんの体験者である元日本テレビアナウンサーで、現在フリーアナウンサーとして活躍する山本舞衣子さんが司会・コーディネータ役を務めました。以下、同フォーラムの概要を紹介します。

最新の肺がん診療
久保田 馨さん 日本医科大学付属病院がん診療センター長

Ⅰ(I)・Ⅱ(II)期は手術、Ⅲ(III)期は化学放射線療法

講演中の日本医科大学付属病院がん診療センター長の久保田馨さん。講演はわかりやすくて非常によかったというアンケート結果が

肺がんの組織型は大きく分けて4つあります。まずは小細胞がん。細胞の形が他に比べて小さいタイプで、肺がんの10~15%くらいです。患者さんのほとんどがヘビースモーカーです。肺がんの約60%を占めるのが腺がん。腺という組織に発生し、遺伝子変異の検査が必須となります。ほかに扁平上皮がん、大細胞がんなどがあります。小細胞がん以外を非小細胞がん(NSCLC)としてくくります。

標準治療についてみていきます。小細胞がんは進行が速く、転移が多いという最も性質の悪いタイプです。手術可能な時期に発見されることは少なく、Ⅰ(I)~Ⅳ(IV)といった病期分類も行いますが、一般に限局型と進展型に分けて、治療を考えていきます。限局型ではシスプラチン+エトポシドに放射線治療を同時併用し、進展型にはシスプラチン+イリノテカンを使用します。

次に非小細胞がんです。Ⅰ(I)・Ⅱ(II)期は外科的に切除します。Ⅰ(I)期と診断して手術をした結果、リンパ節転移があってその時点でⅢ(III)期と分かることもあります。そのようなときには、術後補助化学療法(アジュバント療法)を行う場合があります。行った場合は治る割合が増えます。Ⅲ(III)期は化学療法と放射線治療です。限局型の小細胞がんと同じく、同時に行います。Ⅳ(IV)期は化学療法が中心となります。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ エトポシド=商品名ベプシド/ラステッド イリノテカン=商品名カンプト/トポテシン

Ⅲ(III)B期でも 5年再発なしという例も

抗がん薬(化学療法)の歴史を簡単に振り返ります。Ⅲ(III)、Ⅳ(IV)期の進行非小細胞肺がんに対して抗がん薬が標準治療といえるようになったのは20年ほど前です。実施しない場合とした場合を比べると、したほうが明らかに命の長さが伸び、QOL(生活の質)もよくなっていました。抗がん薬の投与がなくて1年間存命するのは1割でしたが、当時の抗がん薬を使うと2割ほどになっていました。

治療例を紹介します。Ⅲ(III)B期の59歳の男性患者さんで、腺扁平上皮がんというタイプでした。地方に住んでいる方でしたが、地元の病院では「手術はできない。ほかに治療法はない」と言われたといいます。

私は「治療法はあります」と話しました。希望が出来たことで表情が変わりました。化学療法と放射線治療を同時に行った結果、がんはほぼなくなりました。5年以上再発がなく、治癒したと判断していいと思います。

このようにⅢ(III)期でも治る人がいます。

以前は根治が得られる治療法は手術だけでしたが、この方のように治療法を組み合わせて、よい経過が得られる場合もあります。小細胞がんでも、進行した非小細胞がんでも治る人が出てきています。

分子標的薬は第3世代に突入

治療法の進化に分子標的薬というキーワードがあります。個別化治療という話です。1962年に米国のコーエン博士が細胞の増殖に関わるEGF(上皮成長因子)を見つけました。同博士はこのことで86年にノーベル賞をもらっています。それほど重要な発見でした。

EGFがEGF受容体(EGFR)に結合するとその活動が高まって細胞内にシグナルを伝え、それが核に届くといろいろなことが起こります。このEGFRの働きを邪魔しようという最初の薬が2002年に承認されました。それ以後2剤が開発され、現在3剤となっています。これらの分子標的薬は、細胞に入り込んで、シグナルの伝達を抑えることで作用します。

分子標的薬の〝標的〟となるのはEGFR遺伝子の変異だけでなく、ALK融合遺伝子などほかの遺伝子変異に対しても研究が進められ、すでに使用されている薬もあります。

さらに新しい治療薬として、抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬が注目されています。これらはがん細胞が獲得する免疫耐性を阻害し、Tリンパ球(T細胞)のがん細胞に対する作用を高める働きがあります。

緩和ケアは治療開始から

コミュニケーションの研究も進んでいます。米国の臨床試験ですが、転移のある非小細胞がん151人を対象に、治療開始期からの緩和ケアと標準治療との併用がQOLを改善するかどうかを調べました。緩和ケアチームが実際にしたことは、「症状の緩和」「病状理解のための追加説明」「治療法選択の意思決定支援」です。標準治療の開始時から緩和ケアを導入した場合と標準治療後、必要に応じて導入した場合を比べると、早期緩和ケアがQOLを改善することがわかり、生命の長さについてもいい影響を与えることがわかりました。早期からの対応が大切ということです。

緩和ケアにも通じるのですが、「対話」は重要です。医師は診断・治療の専門性を持っていて、患者さんは価値観や生活歴等自分自身への専門性を持っています。相互の〝専門性〟を尊重し合いながら話し合うことが大事です。

根治を目指すのか、延命目的か、緩和ケアなのか――今後について決めるときに一番大事なのは「希望」だと思います。治ることは大きな希望ですが、それだけではないはずです。状況に応じて、少し先にある「いいこと」を見つけましょう。どの病期であっても言えることだと思います。

在宅治療中の服薬の注意点 生活にがん治療を取り入れ、QOLの維持めざす
松井礼子さん 国立がん研究センター東病院がん専門薬剤師

副作用を軽減しながら治療を行う

抗がん薬による化学療法は通院で行う治療が中心となってきています。抗がん薬の特徴からお話しします。みなさんが馴染みのある風邪薬などの一般薬と比較してみましょう。投与量と効果の度合い、副作用の度合いをグラフで表すと、抗がん薬は副作用が現れるのが早いという特徴がわかります。「治療域が狭い」と表現します。

副作用には個人差があります。強く出る人、出ない人、それぞれですが、大前提となるのが「副作用を軽減しながら治療を行う」ということです。副作用が発現しても頑張って我慢する患者さんもいますが、我慢しないことが第一です。

生活にがん治療を取り入れ、QOLを保ちながら治療に向かっていただきたいと思います。困ったこと、つらいことを伝えるのはとても大切です。わがままなほどでいいと思います。それが解決策の糸口になるのです。

下痢――1日3回以上で水様便を伴う症状

下痢に定義はありませんが、一般的には1日3回以上で水様便を伴うこととされています。治療を開始した後に、これまでと違う排便状況になったら、抗がん薬に起因した下痢と考えられるので対応が必要です。

対策のための薬は限定されませんが、腸内細菌を正す薬、腸管を保護する収斂薬、水分を吸い込んで下痢を止める吸着薬、腸運動抑制薬が使い分けされています。医師に症状を伝えて適切な薬を処方してもらうことをお勧めします。

生活について考えることも大切です。抗生剤を服用したり、普段食べないものを食べたりなど、抗がん薬以外の原因はなかったでしょうか。また、下痢症状に傾いた場合は、乳製品や油分、香辛料は避けるようにしましょう。下痢になっても水分は十分に摂ることが大切です。

発熱(発熱性好中球減少)――予防と速やかな対症療法を

抗がん薬治療中に白血球が下がってくることがあります。白血球は外部からの細菌やウイルスを退治するのが仕事ですので、感染症を起こしやすくなってしまいます。ひどいときには全身感染症になってしまいます。まず予防、そして対症療法を速やかにとることです。

症状としては体温の37.5℃以上への上昇が目安です。薬剤の服用に加え、入院管理、点滴もありえます。日常では、手洗い、うがい、マスクの着用が予防につながります。食中毒にも気を付けてください。外出してはいけないのではなく、普通の生活の中で予防対策を取りたいです。

在宅治療中の副作用対策 効果的な皮膚症状のコントロールの仕方について
山田みつぎさん 千葉県がんセンターがん看護専門看護師/がん化学療法看護認定看護師

治療期間中に変化する症状

治療開始から1~4週目には、ざ瘡様皮膚炎が顔や胸、背中に生じます。1~2カ月経つと、ざ瘡様皮膚炎は少し治まってきますが、皮膚の乾燥が強くなり、夜も眠れないほど痒いと言われる方もいます。爪囲炎も起こりやすくなり、悪化すると、爪と皮膚の間の炎症が強くなって肉芽が盛り上がり、触っただけでも飛び跳ねるほどの痛みを伴うこともあります。これらの症状は一度良くなっても終息せず、服薬中は繰り返されます。

予防的スキンケアの重要性

抗がん薬による治療の前から保湿や清潔などのスキンケアを行った患者さんは、スキンケアをしていなかった患者さんと比べて、強い皮膚症状の発現率が明らかに低かった、というデータがあります。症状が出る前から予防的スキンケアを行うことが大切です。

私の施設では、分子標的薬を内服中の患者さんの皮膚症状やケア方法について、これまでは医師からの説明だけでしたが、2年前から看護師も加わることにしました。その前後で患者さんの皮膚の状態を調査したところ、以前は発現率が100%だったざ瘡様皮膚炎が40%に低下し、皮膚乾燥や搔痒などほかの症状の発現も明らかに減りました。

患者さんの生活、仕事、趣味、普段から大切にしていること、日頃のスキンケア習慣などを総合的に考えながら、患者さんに適したスキンケア方法を話し合っていくことによって、患者さんがスキンケアを行いやすくなり、皮膚症状の重症化の予防につながりました。

3つの「保」を意識する

皮膚自体が本来持つ保湿(水分保有力)や保護(バリア)などの機能を十分に発揮できないと、外部からの刺激に〝打たれ弱い皮膚〟になってしまいます。逆に言えば、皮膚のコンディションを整えておくことで、症状の出やすい薬剤を服用しても〝打たれ強い皮膚〟を維持できるということになります。そのためには下記の「3つの保」が重要です。

<保清>皮膚が汚れることで新陳代謝が低下しますし、皮膚の表面が傷つくと細菌感染が起こりやすくなりますので、皮膚を清潔にすることが大切です。皮膚を洗う際には、いくつかの注意点があります。

まず、優しく洗うこと。ナイロンタオルやたわしは使わずに、よく泡立てた石けんを使い、手で包み込みように洗います。洗浄剤を選ぶ際は泡タイプが良いですが、自宅に液体洗浄剤の買い置きがある場合は、泡を作るボトルが安価で販売されているので活用すると良いでしょう。

皮膚が痛むときは、患部に泡を乗せて数分間経過した後に洗い流すだけでも、ある程度の汚れを落とすことができます。また、拭くときもこすらずに、肌理の細かいタオルを押し当てるように水分を拭き取ります。

<保湿>皮膚のコンディションを整え、皮膚のトラブル防止や再生力を高めることが目的です。効果的なケアは、入浴などで角質の奥まで水分が浸透して皮膚が柔らかくなっている状態で、ローション(水分)、乳液(油分)で保湿成分を補います。そして、水分の蒸発予防のために軟膏やクリームで皮膚表面を保護し、さらに手袋や靴下の使用で潤いを閉じ込めれば効果が上がります。保湿剤には、尿素系、ワセリン系、ビタミン系などがあります。

<保護>クリームなどを塗ることで、乾燥した皮脂膜の代用やバリア機能を高めます。また、肌を傷つけない工夫も重要です。刺激のもとは温度や圧力、摩擦などの他に、シャンプーや衣類、化粧品、アクセサリーまで様々なものがあります。水仕事の際は手袋をはめたり、刺激部位によって圧迫の少ない衣類や肌の露出が少ない衣類を着たりするなどの日常の工夫が大切です。

お化粧は禁止ではありません。保湿をしっかりした上で、低刺激な化粧品でメイクをしていただき、短時間で泡タイプのクレンジングで落とすほうが良いでしょう。男性のひげそりは電気カミソリをお勧めしますが、手入れが行き届かない電気カミソリよりも、清潔なT型タイプのカミソリが良い場合もあります。

病院では、医師だけでなく看護師や薬剤師などチームとして総合的に副作用対策に取り組んでいます。我々を上手く利用する、というくらいの気持ちで、ご自身に適した対処方法を見つけてください。

フォーラムを終わって。前列左から司会の山本舞衣子さん、患者の市田員史さん、中島駿さん。後列左から看護師の山田みつぎさん、医師の久保田馨さん、薬剤師の松井礼子さん

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