赤星たみこの「がんの授業」

【第三十四時限目】がんの温熱療法 温熱療法って本当にがんに効果があるの?

構成●吉田燿子
発行:2006年9月
更新:2019年7月

  

赤星たみこ(あかぼし・たみこ)●漫画家・エッセイスト

1957年、宮崎県日之影町(ひのかげちょう)のお生まれです。1979年、講談社の少女漫画誌『MiMi』で漫画家としてデビュー。以後、軽妙な作風で人気を博し、87年から『漫画アクション』で連載を始めた『恋はいつもアマンドピンク』は、映画化され、ドラマ化もされました。イラストレーターで人形作家の夫・新野啓一(しんの・けいいち)さんと、ご自身を題材にした夫婦ギャグをはじめ、あらゆるタイプの漫画で幅広い支持を得ていらっしゃいます。97年、39歳の時に「子宮頸がん」の手術を受けられ、子宮と卵巣を摘出されましたが、その体験を綴ったエッセイ『はいッ!ガンの赤星です』(『はいッ!ガンを治した赤星です』に改題)を上梓されました。

15年ほど前の私は、1日でタバコ5箱を空にするほどのチェーンスモーカー。そんな私がタバコをやめるなんて、奇跡でも起こらないかぎり無理! と思っていたのですが……ナント、あることがきっかけで、タバコとキッパリ縁を切ることができたのです。それは「高熱」。

あるとき風邪で高熱を出して寝込み、3日間タバコが吸えなかったことがありました。そのまま数日が過ぎ、気がついたらタバコなしでも生きていられる体に生まれ変わっていたのです。

「私、風邪で熱出たらタバコやめられたよ」

「うっそだー!」

最初は誰も私の話を信じてくれませんでした。しかし1人だけ、東洋医学に詳しい友達が、「いい熱が出たわね」と言って信じてくれました。

「東洋医学には『熱が出ると体質が変わる』という考え方があるのよ。きっと高熱で細胞の新陳代謝が活発になって、体質が改善されたのよ。よかったわねえ」

たしかに漢方などの世界では、「冷えは万病のもと」とよく言われます。体を冷やすと血液の循環が悪くなって悪血が起こり、さまざまな病気を引き起こす。逆に体を温めれば、血行がよくなって新陳代謝が促進され、免疫力向上と体質改善につながる。それが東洋医学の基本的な考え方になっています。

とはいうものの、「体を温めることが大切」と考えるのは、東洋医学に限ったことではないようです。ある内科医の先生と、子宮がんについて対談したときのことです。私の禁煙体験を聞いて先生はこう言いました。

「西洋医学でもそれに似た考え方はあります。病気というのは、熱を出した患者さんのほうが治りやすいんです。実際、熱を加えてがん細胞を死滅させようとする治療法もあるんですよ」

その話を聞いて、「体を温めることが健康によい」という考え方は洋の東西を問わないんだなあ、と実感。その後「温熱療法」というがんの治療法があることもわかってきました。

でも、その割に温熱療法の話を聞くことってあまりないような……。そもそも温熱療法ってどのようなものなんでしょうか? 今日はこのことについて勉強してみたいと思います。

がん細胞は42.5度以上で死滅する

向かうところ敵なしの、凶悪エイリアンみたいながん細胞。そんなヤツにも弱点がないわけではありません。その1つが「熱に弱いこと」。がん細胞は正常な細胞に比べると熱に弱く、温熱刺激によって破壊されやすい、という弱みを持っているんですね。それなら、加温して体内を高温の状態にすれば、がん細胞をやっつけられるのではないか――そんな発想から生まれたのが「温熱療法」です。これは別名、「ハイパーサーミア」とも呼ばれています。

では、温熱療法では具体的に、どのような方法でがんを攻撃するのでしょうか。

がん細胞は摂氏41度を超えるとダメージを受け始め、42.5度を超えるとどんどん死滅していきます。もっとも、熱に弱いのはがん細胞だけに限ったことではありません。正常細胞も単独では42.5度を超えると死んでしまうのですが、細胞同士が連携してがっちりスクラムを組んでいるので、少々熱が高くなったぐらいではビクともしないんですね。ところが一匹狼のがん細胞は、ふだんから周りの迷惑もかえりみず勝手に浸潤しまくっているわけですから、いざというとき誰も助けちゃくれない。42~43度以上の熱をまともに食らってヘロヘロになり、孤独に死んでいかざるをえないのです。

「でも、腫瘍というのはがん細胞が集まってできたものでしょ。腫瘍が大きくなったら、がんも正常な細胞と同じように熱に強くなるんじゃない?」

ところがどっこい、そううまくはいかないのですねー。

まず腫瘍内部にはりめぐらされた新生血管は、ふつうの血管よりも少なく、その上オソマツにできています。これが正常な細胞や組織だと、体内の温度が上がると神経のコントロールによって血流を増やし、細胞の温度が上がらないように熱を逃がすメカニズムが働きます。ところが、そんな高等テクが使えるほど、がんの血管は上等にはできていない。したがって、がんは「温度が上がりやすい」という特徴を持っています。

しかも、がんに熱を加えると、酸素が足りなくなって乳酸が発生し、腫瘍の組織全体が酸性に傾いていきます。細胞というのは、酸性化すると熱に弱くなる性質がある。つまり、がんが熱に弱いのは、「温度が上がりやすく」「酸性に傾いている」、という2つの理由があるのですね。

この性質を利用し、摂氏42~43度以上の加温を行うことで、正常細胞を傷つけることなくがんを攻撃する――これが温熱療法の原理です。

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