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抗がん剤、放射線の副作用を軽減し、QOLを高める
漢方薬の症状改善力を見直す

監修:星野惠津夫 癌研有明病院消化器センター内科副部長
取材・文:菊池憲一
発行:2005年5月
更新:2019年7月

  
星野惠津夫さん
癌研有明病院消化器センター
内科副部長の
星野惠津夫さん

日本ではがん治療の表舞台に漢方薬が登場することは多くない。

しかし、漢方薬には抗がん剤や放射線治療による副作用を軽減する効果があり、従来の治療と併用して漢方薬を服用することで、患者のQOLは大きく向上する。

漢方薬治療に精通した癌研有明病院の星野惠津夫さんは、「西洋医学の治療法が無くなった患者さんこそ、漢方薬を利用するべき」と語る。

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02年に発表された厚生労働省研究班の『我が国におけるがんの代替療法の実態調査』によれば、がん患者の約40パーセントは、「がんの進行抑制」「治ること」「症状の軽減」などを目的に健康食品や漢方などを代替療法として利用している。代替療法の種類としては、健康食品が約90パーセントとほとんどで、漢方、気功、鍼灸と続く。1カ月の費用は平均約5万7000円。

主治医との相談なしに代替療法を利用しているがん患者が58パーセントを占め、「抗がん剤の副作用軽減」「がんの縮小」などに「効果があった」と答えた人が24パーセントに対し、「効いたかどうかからない」と答えた人は67パーセントだった。つまり、効果のはっきりしない健康食品を独自の判断で使っているがん患者が多いようだ。

また、この実態調査では漢方薬を代替療法として利用しているがん患者は意外に少ないこともわかった。しかし、漢方薬は、がんの症状の緩和にはかなり高い確率で効果が期待できる。現在、医療用漢方薬にはメーカーが粉末にして発売している漢方エキス剤と、煎じる配合生薬剤があり、医療保険の適用となる漢方エキス剤は147処方、生薬は約240種類(粉末、キザミなどの形態の異なるものもカウント)にのぼる。これらを服用する場合、薬代は健康保険の適応となっており、健康食品を用いるよりもはるかに安上がりで、その効果もかなり期待できる。

比較試験で副作用軽減効果が明らかに

西洋医学では病名に対して西洋薬が処方される。一方、漢方医学では病名ではなく、患者の症状や体質、病態などの全身状態を見て、『証』を決定する。そして、証に応じた漢方薬が処方される。そのため、病名は同じでも処方される漢方薬が異なることがある。

また、病名は異なるが処方される漢方薬は同じという場合もある。漢方医学による『証』とは体質・病状に基づく独特の考え方で、科学的にどんなものなのかまだ解明されていない。そのため、西洋医学で強調されるエビデンス・ベースト・メディシン(EBM=科学的な根拠に基づく医療)では理解できない面もあり、健康食品と同じレベルで見られることもあった。しかし、最近では西洋医学に準じた手法で、漢方薬の有用性を検証する動きもある。日本東洋医学会は2001年6月、EBM委員会を設置し、東洋医学のEBMの推進を通して東洋医学の理解に取り組んだ。EBM委員会では、漢方製剤に関する国の承認基準が変わった1986年以降で、原則として漢方エキス剤(同一製剤を最初から最後まで)を10症例以上扱った臨床研究報告を対象にEBM手法に準じて評価した。約50名の東洋医学会会員が833の臨床研究報告の中からエビデンスが高いと思われる論文約60を選び出して、「漢方治療におけるEBM」の中間報告をまとめた。この報告書の中で、がん治療に関する論文も4つ紹介されている(表1参照)。

4つの論文とも無作為化比較試験によるもので、がんの手術後の化学療法や放射線治療に漢方薬を併用すると、その副作用を軽減して、QOL(生活の質)の向上に役立つという。3つの臨床試験で用いられた漢方薬は十全大補湯である。術後の抗がん剤治療に十全大補湯を併用すると副作用の軽減に有用であった。また、手術後の再発、手術不能の進行乳がんに対し、標準的化学療法・内分泌療法に十全大補湯を併用すれば、延命効果のあることも明らかになった。放射線治療の副作用の防止には人参養栄湯が有効なこともわかった。EBM委員会では4つの臨床研究報告を「分類1(臨床によい指標となる。レベルA=行うことを強く推奨。レベルB=行うことを推奨)」と高い評価をしている。

[表1 漢方薬を用いたがん治療の無作為化比較試験(ランダム化比較試験RCT)]

漢方薬 十全大補湯
対象 治癒切除後の胃がん。23例
方法 UFT(一般名テガフール・ウラシル)の単独投与群=UFT300mg/日を6カ月以上服用。 併用群=UFT 300mg/日と十全大補湯エキス7.5g/日を6カ月以上併用して服用
評価項目 1、3、6、12カ月のヘモグロビン値、白血球数、リンパ球数、サプレッサー(免疫応答を抑制する)T細胞%、細胞障害性T細胞、PS(パーフォーマンス・ステータス)、主治医の評価を行う
結果 1カ月目のサプレッサーT細胞%は併用群で有意に低かった。食欲不振、全身倦怠感は、併用群で高い改善効果が認められた
評価 分類1(臨床によい指標となる)
「悪性腫瘍の術後の化学療法の補助手段として漢方薬を用いると、各髄抑制を はじめとして生体防御に関わる因子の機能低下の回復、自覚症状の改善によって、QOLの向上に役立つことが判明している」(報告書より)
出典 Biotherapy 1997年
漢方薬 十全大補湯
対象 術後1年以上化学療法を行った各種固形がん患者。90例
方法 十全大補湯エキス7.5g/日を連続投与した群と十全大補湯エキスを投与しななかった群を比較
評価項目 術前、投与開始後1、2、3、4週間目、以後1カ月ごとに12カ月まで、白血球数を計測した
結果 白血球減少開始時期、最減少時期までの期間とも投与群が有意に長く、延べ白血球減少数も投与群が有意に少なかった
評価 分類1(臨床によい指標となる)
「がん化学療法では常に医師の念頭から離れないのが治療経過中の白血球数、とくに顆粒球数である。顆粒球増多因子などが製剤化されているとはいえ高価であり、医療経済の面からも白血球減少を軽減させる十全大補湯の役割が期待される」(報告書より)
出典 Progress in Medicine 1995年
漢方薬 十全大補湯
対象 進行乳がん74例。○原発手術後の再発または手術不能の原発乳がん、○年齢は70歳以下の女性でPSが3以下(身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50パーセント以上は床に就いている)で少なくとも6カ月以上の生存が可能と判断されている、○普通の食生活と外来通院が可能、○胃腸などの外科的手術の既往歴がない、○進行乳がんの全身的な薬物療法を受けていて、ほかの漢方薬、免疫賦活剤などの投与を受けていない症例
方法 十全大補湯エキス5.0~7.5g/日を連続投与したA群(標準的化学療法+内分泌療法+十全大補湯)とB群(標準的化学療法+内分泌療法)を24カ月まで継続観察
評価項目 両群の治療開始から死亡までの累積生存率
結果 平均14カ月の経過観察中、A群は37例中4例死亡、B群は37例中10例死亡。A群に延命効果を認められた
評価 分類1(臨床によい指標となる)
「がん治療の最終的な目標は生存日の延長が達成されることである。進行乳がんに対し、十全大補湯を用いて延命効果が確認された」(報告書より)
出典 Pharma Medica 1998年
漢方薬 人参養栄湯
対象 胸・腹部の悪性腫瘍の治療中に放射線治療による症状および骨髄抑制(主に白血球減少)を呈した患者126例
方法 全国22施設が参加。放射線治療を開始時から照射終了時まで人参養栄湯エキス7.5g/日を4週間以上投与した63例と、投与しなかった63例を比較した
評価項目 白血球数、自覚症状(食欲不振、全身倦怠感、下痢、冷え、悪心、嘔吐など)、主治医の判断による全般改善度、安全度、有用度について判断した
結果 放射線治療による副作用に対して、投与群のほうが白血球数の改善度、自覚症状の改善度、主治医の判断による全般改善度で有意に改善していた。投与群の中には人参養栄湯の証と判断された群と人参養栄湯の証ではないと判断された群とに分かれる。主治医の判断による全般改善度では前者での有効以上は50%、後者では39%。非投与群ではそれぞれ12.5%、30%だった
評価 分類1(臨床によい指標となる)
「人参養栄湯は放射線治療時に白血球減少を軽減する可能性がある」(同)(報告書より)
出典 癌の臨床 1995年
EBM委員会は論文を分類1(臨床によい指標となる。レベルA=行うことを強く推奨、 レベルB=行うことを推奨)、分類2(さらに研究を深めることが望まれる。レベルC=推奨する根拠がはっきりしない、レベルD=行わないよう勧められる)、分類3(分類1、2以外の問題点を含むような場合)の3段階で評価

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