治癒力を引き出す がん漢方講座
第1話 がん治療における漢方の役割

福田一典
(2006年3月)

  
福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践。

西洋医学と漢方医学は相互に補完しあえる

西洋医学では、病気の原因に直接働きかけて、それを取り除くことによって病気を治療することが基本になっています。使う薬も、作用が強く確実な効力のものを求めてきました。

図
がん治療の結果は、「がんの強さ」と「がんに対する抵抗力(抗がん力)」のバランスによって決まります。がん細胞を取り除くことを目的とする攻撃的な治療(手術、抗がん剤、放射線)を行うときには、「治療に耐えられる体力づくり」と、「抗がん力を高める」ための治療を活用することも大切です

作用の強い薬は、体のバランスを崩したり、食欲や胃腸の働きを障害して、体の自然治癒力を低下させる傾向にあります。しかし、病気の原因を徹底的に抑え込むためには多少の副作用も構わないというのが、西洋医学の考え方です。がん治療においても、がん細胞を殺すためには、体力や免疫力が犠牲になっても仕方ないと考えがちです。

一方、漢方では、体全体のバランスを考えながら、体に備わった治癒力を妨げないで、生体の諸々の機能の歪みを是正するような作用を薬に求めてきました。体の治癒力や抵抗力に働きかけて間接的に病気を治していこうと考えており、西洋薬のような特効力はなくても、副作用がなく病める体に好ましく作用する薬、治癒力や体力を回復させる薬を大切にしてきました。

このように西洋医学と漢方医学では、治療法や薬に対する考え方に根本的な違いがありますが、この違いを、「お互いに相容れない」と考えるのではなく、「相互に補完しあえる」ととらえることが、がんの「統合医療」のスタートになります。(右図)

「虚」を補う思想が、漢方薬を発達させた

漢方の考え方を理解する上で、「虚」という概念を理解することが大切です。「虚」とは「空虚」「虚弱」の意味で、体のエネルギーや栄養が不足していたり抵抗力の低下した状態です。

「老化」というのは、生理的に「虚」に傾く過程といえます。歳をとると体力も抵抗力も低下してきます。これは、体の諸々の機能が徐々に低下していくからです。老化を防いだり遅らせるためには、「虚」という体力や機能の低下を補う治療が基本になります。

人類が不老不死の望みを抱いた1つの現れとして、古代中国では神仙思想という民間信仰が発達しました。仙人、山奥に住み、白髪白髯で、霞を食べて生きている不老不死の超越者、とされる人たちですが、神仙思想は、その仙人のように不老不死になりたいという現世利益が多くの民衆にも受け入れられ、2千年以上前の中国の戦国時代末期から秦・漢代にかけて広まりました。

紀元前217年に中国を始めて統一した秦の始皇帝も、不老不死の薬(仙薬)を求めて奔走した1人です。始皇帝の命を受けた徐福が、数千人をつれて不老不死の仙薬を求めて航海に出たという話が『史記』や『漢書』に記載されています。

このような時代に、現在の漢方の考え方の基本が芽生えました。不老長寿を目指す中国医学では、日頃の食事による病気の予防法や、命を養い穏やかに効く滋養強壮薬の良さを追求してきた所に特徴があります。

これに対して、西洋医学では体の治癒力に働きかけるような薬はありません。その理由は、西洋医学では病気の原因や有り余ったものを取り除く治療が中心で、「虚」を補うという概念が発達しなかったからかもしれません。

漢方は栄養と循環の改善を重視する

漢方薬は慢性疾患や難病の治療に用いられて、西洋医学で得られない効果を発揮しています。消化吸収機能を高めて栄養状態を改善し、組織の血液循環や新陳代謝を促進して体の治癒力を高めるからです。西洋医学には、このような滋養強壮や組織機能の賦活を目指す発想は乏しく、漢方はこれをもっとも重要な治療戦略としています。

約800年ほど前に中国で活躍した名医・李東垣は、胃腸機能の保護を常に強調していたことで知られています。彼は、難病の治療に際して、あれやこれやと薬を投与するよりも、胃腸の消化吸収機能を保ちながら、自然治癒力の回復を待ったほうがよいと述べています。

作用の強い薬を長期にわたって服用すると、胃腸の機能は次第に衰え、消化吸収機能や抵抗力も低下。病気の原因ばかりに目を向けて、生体の自然治癒力に配慮しない治療では、治る病気も治らなくなると。漢方薬には消化吸収機能を高める薬や、体力を回復させる滋養強壮薬が数多く用意されています。

がん病態ではいろんな生体機能のバランスが乱れており、それが悪循環を生んでいます。例えば、消化吸収機能が衰えると、栄養状態が悪化し免疫機能が低下する。免疫機能が低下すると、感染しやすくなり、食欲や体力がなくなる。体力が低下すると、血行も悪くなり、体に老廃物が蓄積する。老廃物が蓄積し、体の新陳代謝が低下すると、ますます治癒システムが働きにくくなります。これらの悪循環をどこかで断ち切って、体の防御システムや治癒力を立て直してやれば、がんに対する抵抗力を高めることができます。

体に備わる治癒力を引き出す漢方医学

漢方医学では、人体を小宇宙と考えています。地球の自然環境が破壊され汚染されると病気が発生するのと同じように、体内の内部環境のバランスが狂うと、がんを始め多くの病気が発生すると捉えています。

川や海などに自浄作用があるように、小宇宙である人体にも自然治癒力という自らを治す仕組みが存在しています。漢方薬や鍼灸など、自然治癒力を賦活させて病気を治す治療は、そのような考えを基本にしながら、数千年におよぶ治療経験を通して、作りあげられてきました。

自然治癒力を衰えさせない、衰えたときには蘇らせることが、漢方医学の治療原則です。たとえ初期のがんでも、がんが目に見えるくらいに大きくなること自体、すでに治癒システムに相当の機能低下が存在していることを意味しています。治癒力を阻害する要因を除去し、足りない部分を補うために、必要な生薬の組み合わせを考えることが、がんの漢方治療です。

がんの診断や治療では、西洋医学が優れていることは確かですし、漢方治療や健康食品だけでがんが治ると考えるのは間違いです。しかし、体の自然治癒力を最大限に活用する方法論は、がん治療においてプラスになることは間違いありません。

漢方では、体の抵抗力と自然治癒力を高めるための理論と手段を持っています。これが西洋医学のがん治療を漢方治療が補うことができる理由なのです。この連載では、がん治療に役に立つ漢方の考え方と方法を紹介していきます。

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