治癒力を引き出す がん漢方講座
第8話 気と血を補う気血双補剤

福田一典
(2006年10月)

  
福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践。

気と血が不足する攻撃的がん治療

大きな手術や強力な化学療法や放射線治療を行うと、消化器のみならず骨髄機能や免疫機能までも強く障害され、体力や抵抗力が低下してきます。一般的に、がんが進行すると栄養状態が悪化し、体力が消耗してきます。このような侵襲的治療やがんの進行に伴う栄養状態の悪化や体力の消耗状態に対して、漢方では、不足した気・血・水を補い、巡りを良くして、低下した生体機能を賦活する手段を用います。

がん治療を受けている患者さんのほとんどは、貧血や免疫力の低下があり、疲れやすい、倦怠感、ふらつくなどの症状を自覚しています。このような状態を、漢方では気と血が不足している状態、気血両虚(気虚と血虚)といいます。

気の不足を補う補気薬については、第5話でお話ししましたが、このような気血両虚のときには、補気薬のほかに血の不足(血虚)を補う治療も必要になります。

血虚は、骨髄の幹細胞に直接作用して赤血球や白血球を増やす薬を使用したり、輸血を行えば解決するように思われるかもしれません。しかし、漢方でいう血虚は、貧血だけでなく、栄養状態全般の低下も含んでいます。造血剤を使用しても、体の消耗状態や栄養不全が解決されなければ、またすぐ低下してしまいます。体力を根本から回復させる治療を目指すのが漢方治療の基本です。

血の不足を補う生薬を補血薬といいます。補血薬は造血作用と栄養改善作用などによって、抗がん剤や放射線治療により起こる貧血や白血球減少などの骨髄機能低下を改善します。骨髄機能を活性化することは、免疫力をアップさせることにもつながります。また、補血薬は造血能を高めるだけでなく、栄養状態や自律神経系や内分泌系の失調を改善する効果も持っているのです。 気血の両方を補う漢方方剤(気血双補剤)としては、十全大補湯・人参養栄湯・加味帰脾湯などがあります。これらは、がん治療において使用される機会の多い漢方薬です。

血虚とは、血生成の不足や出血過多による症状

漢方でいう「血」は、西洋医学の「血液」とほぼ同じです。が、その役割を観念的にとらえ、血管内にあって全身を循行し、全身の組織・器官に栄養を与え滋潤する役目を持つ生体成分と考えます。血虚は、体内の血生成の不足が生じたり、出血過多などで現われる病理変化です。消耗性疾患・外科的侵襲・悪性腫瘍などによる血の消耗や、消化管出血・不正性器出血などによりおこります。

血虚の症状は、血の滋潤・栄養作用の低下による症候で、一般には栄養不良状態を反映していますが、さらに自律神経系や内分泌系の失調などが想定されるような症状を呈します。

血虚一般の症状として、顔色が悪い・皮膚につやがない・頭がふらつく・目がかすむ・爪の色が悪い・脱毛・髪の荒れなどがあり、さらにどこの器官に血虚が起っているか(心血虚か肝血虚か)によって、それぞれ特徴的な症状が現われます。

「心」は東洋医学では、意識水準を保ち、覚醒・睡眠のリズムを調整する機能をもっています。したがって、心血虚の場合にはさらに、動悸・不安感・焦燥感・眠りが浅い・不眠・夢をよくみる・健忘・思考力低下などの症状が起こります。これらは主として大脳や中枢神経系の興奮性異常による症候と考えられます。

東洋医学でいう「肝」は、血や気の流れを調節して、精神活動を安定させ、血を貯蔵して全身に栄養を供給し、骨格筋の緊張を維持する作用をもっています。したがって、肝血虚では、全身各臓器への栄養補給の不足に伴う自律神経系・内分泌系などの失調による症状がみられます。初期の症状としては、めまい・目がかすむ・目が疲れる・目の乾燥感・目がしょぼつくなどの目の症状がよくみられます。それが手足のしびれ・筋肉のけいれん・知覚鈍麻・筋肉の反射の失調・知覚異常・月経異常・月経の遅れ・月経血の過少・無月経へと連なります。

気と血を補う気血双補剤

補血作用を持つ生薬(補血薬)は、心血を補うものと肝血を補うものに大別されます。主に心血を補うものには、竜眼肉・遠志・酸棗仁・丹参などがあり、これらは脳の抑制性過程を強めて精神安定・睡眠に効果を発揮します。

一方、肝血を補うものとしては、当帰・芍薬・地黄(または熟地黄)・何首烏・阿膠・枸杞子などがあります。これらは、栄養・滋潤の効能を主体にして栄養状態や内分泌系の異常を改善します。

補血の基本方剤は四物湯(当帰・芍薬・川キュウ・地黄)です。当帰・芍薬・地黄(または熟地黄)の補血作用により、全身の栄養状態を改善し、2次的に内分泌や自律神経系の失調を改善します。駆オ血作用をもつ川キュウ・当帰は循環促進に働いて、補血の効能を全身に広げる効果を持ちます。比較的体力の低下した人で、顔色が悪く、貧血や皮膚乾燥傾向があり、疲労感・めまい感・かすみ目・動悸などの血虚の症状を伴う場合に用います。

気血両虚に用いる代表方剤が十全大補湯です。高麗人参・白朮(または蒼朮)・茯苓・甘草・当帰・芍薬・地黄・川キュウ ・黄耆・桂皮という10種類の生薬の組み合わせからなっています。このうち、高麗人参・白朮(または蒼朮)・茯苓・甘草は四君子湯の基本生薬で消化器系の機能を高めます。当帰・芍薬・地黄・川キュウの4つは、前述の四物湯で血虚の基本方剤です。黄耆は補気薬であり、桂皮は血行を良くする作用があり、以上の効果が組み合わさって、気虚と血虚をともに改善します。 その他の気血双補の漢方薬として、人参養栄湯、帰脾湯、加味帰脾湯などがあり、これらは症状の違いによって使い分けられます。

[主な気血双補剤の構成生薬と使用目標]
補剤 構成生薬 使用目標
十全大補湯 人参・白朮(蒼朮)・茯苓・甘草・当帰・
芍薬・地黄・川キュウ・黄耆・桂皮
気血両虚に用いる代表方剤。体力・気力ともに衰弱した状態の体力向上や免疫力増強などを目的に使用される。抗がん剤や放射線治療の副作用防止に有効で、転移抑制や再発予防の効果も報告されている
人参養栄湯 人参・白朮(蒼朮)・茯苓・甘草・当帰・
芍薬・地黄・黄耆・桂皮・遠志・陳皮・
五味子
遠志や五味子の抗痴呆作用などが加わり、消耗性疾患に伴う気力の低下やもの忘れがひどくなった高齢者に効果がある。五味子には鎮咳作用や肝機能改善効果もあるので、呼吸器症状や肝障害を伴うものにも応用される
帰脾湯 人参・白朮(蒼朮)・茯苓・甘草・黄耆・
大棗・竜眼肉・酸棗仁・遠志・当帰・
生姜・木香
基本に脾気虚(食欲不振・消化不良・元気がない)があり、さらに心血虚と肝血虚を伴う場合(心労によるストレス過多のため、不眠・動悸・胸騒ぎ・健忘・出血などの症状を呈する場合)に用いる。がん病態で思慮過剰で精神的に思い悩み、睡眠障害に陥っている状態に適する
加味帰脾湯 帰脾湯+柴胡・山梔子 帰脾湯の症状に、微熱・熱感あるいは胸苦しさ、いらいら・抑鬱・怒りっぽい・のぼせ・緊張・ほてりなどの症状をともなうときに用いる
川キュウ:キュウは草かんむりに弓
駆オ血:オは病だれに於

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