治癒力を引き出す がん漢方講座
第9話 組織の治癒力を高める駆オ血薬

福田一典
(2006年11月)

  
福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践。

血のめぐりが悪いと治癒力が低下する

血液は、酸素を運搬する赤血球、血管の傷を塞ぐ血小板、生体防御に働く白血球などの血球成分と、いろんな栄養素やタンパク質・脂質などを含む血漿成分から構成されます。「血のめぐり」は、専門用語で「血液循環」といいます。組織や細胞の活動に不可欠な酸素と栄養物の供給および代謝産物の炭酸ガスや老廃物の除去が、血液循環によって行われています。したがって、血液循環が悪くなることは、そのまま組織の働きが悪くなることを意味します。各血液細胞の機能が正常でも、栄養を十分含んでいても、血液循環が正常でなければ用をなしません。

漢方診療では患者さんの治癒力を判断するとき、皮膚や爪や舌の色を参考にします。皮膚や爪がどす黒い、口唇や歯肉や舌が暗紫色、皮下出血しやすいなどの所見は、血液循環が悪く、治癒力や回復力が低下していると判断できます。

抗がん剤や放射線照射はフリーラジカルを産生し、組織の酸化障害を起こし血液循環を障害します。抗がん剤や放射線治療の副作用を予防するために、体力や免疫力を高める補剤(十全大補湯など)を使用する場合には、血液循環を良くする生薬(駆オ血薬)を併用すると効果を高めることができます。

組織の回復力を駆オ血薬とは

「オ血」は、血が何らかの原因で流れにくくなった状態を示す漢方独自の用語です。現代医学的には、うっ血・末梢の微小循環障害・血液凝固能の異常・出血を伴う組織の損傷などさまざまな病態の複合した症候群と考えられます。

オ血では舌の所見が特徴的で、暗紫色・青紫色あるいは紫色を呈します。紫色の斑点(斑)を認めたり、舌下静脈の怒脹を認めたりします。

オ血を改善する生薬を「駆オ血薬」と呼びます。作用機序としては、末梢血管の拡張、血小板凝集の抑制、抗酸化・フリーラジカル消去、赤血球変形能増強、血液粘度低下などの作用が指摘されています。

がんの漢方治療で常用される駆オ血薬としては、当帰・赤芍・川キュウ・延胡索・欝金・莪朮・三稜・紅花・桃仁・牡丹皮・丹参・地竜などがあります。それぞれの駆オ血薬には特徴があり、それらを理解して使い分けると種々のがん病態で効果を上げることができます。

当帰は補血作用を持ち、肉芽形成促進作用があるので、難治性の皮膚潰瘍などに黄耆とともに使用します。川キュウは憂うつ・抑うつなどを改善し、赤芍は抗炎症作用があるので炎症に伴う血液循環障害の治療に使用します。延胡索は鎮痛効果をもち、さまざまな疼痛を緩和します。

欝金はクルクミンなどの成分に抗腫瘍効果やがん予防効果が指摘されています。莪朮と三稜は強いオ血の作用により血腫や凝血塊などを吸収して除きます。また、がんに対する抑制作用があり、両者は一緒に使用されています。

紅花は十全大補湯などの補血剤と併用することにより補血の作用を強めます。桃仁は油性成分を豊富に含み、腸管内を潤滑にして便通を良くします。炎症による充血で疼痛がある場合に効果があります。牡丹皮は炎症に付随する微小循環障害によく用いられます。

丹参は血管拡張作用や血液循環改善作用があり、抗炎症作用や抗酸化作用も強く、慢性肝炎や心筋梗塞の治療にも使用されています。肝硬変における線維化を抑制し、がん細胞の増殖を抑える作用も報告されています。地竜は血管内外の凝血塊や血腫を溶解して除き、微小循環を改善します。

がん治療の効果を高める駆オ血薬とは

[組織の血液循環を良くする駆オ血薬は、がん治療に有用な効果を発揮する]
図:駆瘀血薬のがん治療における効能

オ血はがん患者に多く認められます。がん組織が産生する生理活性物質や老廃物、炎症や酸化ストレス、抗がん剤やステロイド剤の連用など、多くの要因によってがん患者の血液は高粘稠・高凝固状態になり、血病態が引き起こされています。

放射線治療で、低酸素状態ではがん細胞の放射線抵抗性が著しく増大するため、低酸素のがん細胞の放射線感受性を高めることが大切です。丹参や地竜などの駆血作用の強い生薬を併用することにより、温熱療法や放射線治療の効果を高めることが報告されています。中国では、駆オ血薬の川キュウや紅花を含む注射液を使用すると、放射線線量を減らせることが報告されています。

駆オ血薬を抗がん剤治療と併用することによって、抗がん剤の治療効果が高まることも報告されています。また、障害された正常組織の修復を促進するためにも、組織の微小循環を良好にすることは意義があります。

血流を改善すると、がんの血流も増加させてしまい、増殖を速めるのではないかという疑問がでてきますが、その心配はありません。

がん細胞は生体の血流が悪くても、自分で血管新生を誘導する物質を産生して腫瘍血管を増生させ、身体の栄養物を1人占めにしようとします。その結果、正常組織の栄養が障害されて抵抗力が低下し、がんの増殖が促進されます。したがって、正常な組織の血行を良くして、栄養を正常細胞に回すことは、がんが栄養物を1人占めしている状況を断ち切ることになり、がんの増殖を抑える方向に働くのです。

正常の細動脈の拡張や収縮は、自律神経や血管平滑筋の働きによって調節されています。しかし、がんの新生血管は、平滑筋細胞や神経支配が不十分であることが知られています。生薬の中には、血管周囲の自律神経や平滑筋細胞などに働きかけて、血管拡張作用を起こすものが知られています。このような生薬を用いると、正常な組織の血流を増加させて、相対的に腫瘍へ行く血流を減らすことも可能になります。

血液循環や新陳代謝を良くすると、治癒力や免疫力を高め、がんを予防する効果も期待できます。漢方治療に使われる駆オ血薬は、西洋医学のがん治療にない効果を発揮します。

駆オ血:オは病だれに於
川キュウ:キュウは草かんむりに弓

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