治癒力を引き出す がん漢方講座
第12話 抗がん剤治療中のハーブ・漢方薬の注意点

福田一典
(2007年2月)

  
福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践。

抗がん剤とハーブ・漢方薬の相互作用

前回、抗がん剤治療中に適切な漢方治療を併用すると、症状の改善や副作用の軽減が期待できることを紹介しました。しかし米国では、手術前や抗がん剤治療中のハーブ類の使用は危険であると警告しています。手術の2週間前からハーブ類の摂取を禁止すべきというガイドラインも発表されています。ハーブ類が麻酔薬の効き目を変化させる可能性があること、出血のリスクを高める可能性が指摘されているからです。

抗がん剤治療も、米国では同様な意見が主流です。つまり、ハーブや生薬の成分には、薬物代謝酵素の活性に影響する成分、血小板凝集を阻害する成分、女性ホルモン様作用をもつ成分、抗酸化作用の強い成分などがあり、抗がん剤の効き目を弱めたり、副作用を増強させる可能性が警告されてます。

薬物代謝酵素への影響

抗がん剤の中には肝臓で代謝(分解)されるものが多くあります。薬を分解する酵素を薬物代謝酵素といい、その代表はチトクロームP450(CYP)という酵素です。

食品や医薬品は、CYPを阻害したり誘導することにより他の薬に影響する場合があります。

グレープフルーツの成分のナリンギンがCYP3A4の酵素活性を阻害するため、多くの薬剤に影響することが明らかとなっています。降圧剤など多くの薬がCYP3A4で代謝され、グレープフルーツを多く食べる人がこのような薬を服用すると、肝臓での代謝が阻害されて、血中濃度が高くなり効き過ぎる結果になります。

一方、抑うつ状態の改善に使用されるセント・ジョンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)はCYP3A4やCYP1A2の量を増やすことにより、これらの薬物代謝酵素で代謝される薬剤(シクロスポリン、ジゴキシン、ワーファリンなど)の作用を減弱させることが明らかになっています。

ニンニクもCYP3A4で代謝される薬の代謝を促進し、効果を弱める恐れがあります。一方、イチョウ葉エキスや朝鮮人参はCYP3A4やCYP2D6を阻害し、分解される薬の効き目を高める可能性が指摘されています。

CYP3A4で代謝される抗がん剤としてタキソテール、エトポシド、グリベック、イリノテカン、タキソール、イフォスファミド 、タモキシフェン、ビンブラスチン、ビンクリスチンなど使用頻度の多い抗がん剤が含まれています。CYP2D6はドキソルビシン、タモキシフェン、ビンクリスチンなどの代謝に関与しています。

薬物代謝酵素に対する影響は複雑なため、相反する報告もあります。ニンニクに関してはCYP3A4を誘導すると考えられていますが、ある研究では反対に阻害するという報告もされています。いずれにしても、全ての抗がん剤治療で注意が必要です。野菜でも影響するものがあります。キャベツやブロッコリー、アルファルファなどのアブラナ科の植物が一部の薬物の代謝を亢進することもあります。これは植物に含まれるインドールが原因といわれています。ニンニクもアブラナ科の野菜も、食事で適量を摂取するのは全く問題ないですが、これらは抗がんサプリメントとして販売されていますので、それを大量に摂取するのは避けたほうが無難です。

薬物代謝酵素に対する影響は複雑なため、まだ十分に研究が行われていませんが、肝臓の薬物代謝酵素に影響する成分を含むハーブや生薬は他にも多く存在するようです。健康食品や漢方薬の摂取で抗がん剤の効き目が影響を受ける可能性があることは常に念頭に入れておく必要があります。

血小板凝集を抑える効果は動脈硬化の予防には有用です。しかし、抗がん剤の副作用で血小板の数が減っているときは、出血を止まりにくくするリスクがあります。この作用を持つハーブはニンニク、ショウガ、イチョウ葉エキスが有名ですが、漢方薬に使用される生薬の中にも数多くあります。

また女性ホルモン様作用をもつものがあります。これはフィト・エストロゲン(植物エストロゲン)と呼ばれ、女性の更年期障害などに利用されていますが、エストロゲン依存性の乳がんや子宮体がんの患者さんの場合は、注意が必要です。フィト・エストロゲンの代表は大豆イソフラボンですが、イソフラボンを含む生薬もあります。高麗人参もエストロゲン作用があるので、乳がんや子宮体がんには推奨できないという意見が米国では主流です。

抗がん剤の中にはフリーラジカルの破壊力を利用してがん細胞の核のDNAを破壊し、がん細胞の活動を抑えるものがありますが、抗酸化力の高い成分は抗がん剤の効き目を弱める可能性も指摘されています。ハーブや生薬はポリフェノール類など抗酸化物質の宝庫ですが、ある種の抗がん剤の効果を弱めるという意見もあります。

ハーブ・漢方薬はほどほどに

ハーブや漢方薬の中には、胃腸が弱い人には慎重に使用しないといけないものや、病気の状況や服用中の薬の種類によっては使ってはいけないものが多くあります。米国でサプリメントとして多く使われているハーブに関して、表に示すように抗がん剤との相互作用について検討されていますが、日本で使用されている漢方薬については十分な研究は行われていません。

抗がん剤治療中は、胃腸の状態を良くし、食欲や体力や抵抗力を高め、ダメージを受けた組織の回復力を高めることを目標にして、適度な量を使用することが重要です。大量のハーブや生薬を使うような治療は、推奨できません。抗がん剤治療中は、書籍などでの付け焼き刃の知識だけでハーブや漢方薬を使用するのは極めて危険です。

[化学療法中に使用を避けたほうが良いハーブの例]
セントジョーンズワート
(St. Johns Wort)
・全ての化学療法と併用を禁止(CYP3A4, CYP1A2, CYP2B6, CYP2C9, P糖蛋白などの誘導)
ニンニク(Garlic) ・ダカルバジンとの併用を禁止(CYP2E1阻害)
・他の化学療法との併用に注意(データ不足のため)
・血小板減少があるときは注意(血小板凝集阻害作用のため)
イチョウ(Ginkgo) ・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、
 ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4, CYP2C19阻害)
・アルキル化剤、抗腫瘍性抗生剤、プラチナ製剤との併用は勧められない(フリーラジカル消去活性のため)
・血小板減少があるときは注意(血小板凝集阻害作用のため)
エキナセア(Echinacea) ・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、
 ビンカアルカロイドとの併用を禁止(CYP3A4誘導)
大豆(Soy) ・タモキシフェンとの併用は禁止(抗エストロゲン作用を阻害)
・エストロゲン依存性の乳がんや子宮がんの治療との併用は禁止
高麗人参(Ginseng) ・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、
 ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4阻害)
・エキナセア(エストロゲン依存性の乳がんや子宮がんには推奨できない)
バレリアン(Valerian) ・タモキシフェン(CYP2C9阻害)、シクロフォスファミド及びテニポシド(CYP2C19阻害)との併用に注意
カバ(Kava) ・肝機能障害を起こす抗がん剤との併用は禁止
・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、
 ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4, CYP2C19阻害)
グレープシード
(Grape seed)
・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、
 ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4, CYP2C19阻害)
・アルキル化剤、抗腫瘍性抗生剤、プラチナ製剤との併用は勧められない
 (フリーラジカル消去活性のため)
(J Clin Oncol 22: 2489-2503, 2004)

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