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治癒力を引き出す がん漢方講座
第22話(最終回) 漢方薬を利用するときの注意

福田一典
(2007年11月)

福田一典さん

ふくだ かずのり
銀座東京クリニック院長。昭和28年福岡県生まれ。熊本大学医学部卒業。国立がん研究センター研究所で漢方薬を用いたがん予防の研究に取り組むなどし、西洋医学と東洋医学を統合した医療を目指し、実践している。

天然薬だから安全という先入観は危険

漢方薬は作用が比較的穏やかで、直接的な毒性による副作用は西洋薬に比較して少ないことは確かです。漢方薬に使用される薬草(生薬)は、2千年に及ぶ人体への経験の蓄積の結果、毒性の高いものは排除されています。しかし、副作用がまったくないと考えるのは間違いです。

モルヒネのように強い薬効と危険な副作用を持った西洋薬も、もとは薬草から抽出されたものです。抗がん剤の中にはタキソールやイリノテカンのように植物から見つかったものもあります。したがって、薬草は使い方を間違うといろんな副作用が出てきます。作用の穏やかな生薬やハーブでも、薬物アレルギーや西洋薬との相互作用の問題など、古典的な経験則で予測できない副作用の発生もあります。

がん治療中は素人判断は危険

漢方薬は「天然物だから安全」「副作用がない」というような宣伝がなされていますが、病気を治すための「薬」であり、薬としての効き目がある以上、副作用はつきものです。

間違った服用で体に不利な症状が出ることを、「誤治」または「誤用」といいます。たとえば、胃腸虚弱で軟便の人に下剤作用のある漢方薬を投与して下痢や胃腸障害を引き起こす例などです。素人判断で症状だけで選ぶと、体質や症状に合わない場合もあります。

最近では、症状に合わせて自分で漢方薬を購入する方も多くなっていますが、症状が悪化したときには直ぐに中止することが大切です。がん患者さんが体力をつけるために滋養強壮薬を大量に摂取して、がん細胞も元気になったという例もあります。

海外からの個人輸入は危険

海外から通信販売で漢方薬を購入する場合、中国や東南アジアなど薬の規制が不十分な国の製品には注意が必要です。その理由は、漢方薬の中に医薬品成分が無表示で混入されていたり、有害な成分を含む生薬が規制されていないからです。農薬や重金属に汚染された漢方薬も出回っています。

米国でも、霊芝や田七人参など8種類のハーブから製造されたPC-SPECというハーブ系サプリメントが前立腺がんに対して極めて効果が高かったので、米国や日本の大学でも研究が行われました。しかし、そのサプリメントには合成エストロゲンや、ワーファリンが添加されていたために副作用が発生し、2002年に回収されるという事件もありました。

強精薬やダイエット関係の中国製漢方薬に医薬品が混入されているのは常識ですが、病気の治療に使われている外国製の漢方薬には医薬品が添加されている例は極めて多いのが実情です。

中国製漢方薬のネット上の宣伝で、奏効率が何10パーセントと標準治療以上の成績を謳っているものもありますが、どんなに抗がん作用の強い生薬を使ってもこのような成績は不可能です。誇大広告か、西洋薬の抗がん剤が混入されているといっても間違いではないと思います。漢方薬には多数の成分が含まれているため、医薬品を混入しても簡単にはばれないため、このような詐欺的行為が絶えないようです。

個人輸入の場合は、未承認医薬品でも輸入できます。しかし、自己責任で行うものであり、その商品によって健康被害を受けても輸入代行業者に責任を問うことはできません。誰も責任を取らない販売形態ですから、中国の漢方薬やサプリメントの個人輸入はかなり危険だと思います。安易に個人輸入して使用すると健康を害する場合もあることを知っておくべきです。

ワーファリン=エストロゲンの副作用の静脈血栓症を予防する薬
奏効率=がんを縮小させる効果

不快な症状が出たら直ぐに中止する

漢方薬は生体の自然治癒力を鼓舞したり、免疫機能に働きかけるため、一時的に症状が悪化したり、予期せぬ症状が現れる(瞑眩)ことがあります。服用1週間以内に現れることが多く、その後急速に症状が軽快していきます。

しかし、漢方薬の副作用(有害作用)と瞑眩の区別は、ときに極めて難しく専門家でも判断を誤ることがあります。今までにない新たな症状が現れたときには服用を中止し、早めに医師や薬剤師に相談することが基本です。

漢方薬服用により発疹などの過敏症を呈することがあり、稀ですがアレルギー性の肝炎、間質性肺炎、膀胱炎なども報告されています。

生薬に対するアレルギーによって起こる副作用は、患者さんの遺伝的背景や基礎疾患に由来する免疫機能異常などの要因が関与し、その発症の予測は経験則では予想できません。漢方薬の使用の増加に伴い、生薬アレルギーによる副作用の報告も増加する傾向にあり、時に極めて重篤な症例も報告されています。

そばや牛乳など一般の食品に対するアレルギーはそれほど珍しくありません。漢方薬は動植物の抽出物であり、成分の種類が多く、多糖類やタンパクも含んでいることから、アレルギーの原因となりうるという認識をもつべきです。

薬剤が原因で肝臓に障害を発生する病気を「薬物性肝障害」といいます。作用の強い化学薬品はその毒性によって肝機能を障害する場合(中毒性肝障害)もありますが、薬品の成分に対して抗体ができてアレルギー機序で肝臓障害を引き起こす場合(アレルギー性肝障害)も多く、作用の弱い薬でも肝障害は発生します。漢方薬や健康食品や民間薬による肝障害の例も多く報告されています。

医薬品との相互作用に注意

医薬品との相互作用とは、漢方薬やハーブによって西洋薬の消化管からの吸収や代謝、分布、排泄が影響を受けると、服用した医薬品の効き目が弱められたり、逆に強く現れて副作用が出やすくなることです。実際に、医薬品の効き目や副作用に影響する漢方薬やハーブの例が数多く知られています。

食品や医薬品の中には、薬物代謝酵素を阻害したり誘導することによって他の薬に影響する場合があります。代表的なものとして、グレープフルーツジュースや、セント・ジョンズ・ワートがあります。ニンニクや高麗人参も薬物代謝酵素の活性に影響することが指摘されています。その他の生薬でも同様な作用が報告されていますので、抗がん剤と併用するときは十分な注意が必要です。また、血液凝固や麻酔薬の代謝に影響する恐れもあるので、手術前の服用も注意が必要です。

手術や抗がん剤治療中に、自分の判断や、家族や知り合いに勧められて、主治医に黙って漢方薬を飲んでいる人がいます。

健康増進の目的で服用する場合と異なり、がん治療中に漢方薬やハーブを利用する場合、素人判断は危険で、漢方薬に詳しい薬剤師や医師に相談することが大切であることを最後に強調しておきたいと思います。

セント・ジョンズ・ワート=セイヨウオトギリソウ。 抑うつ状態の改善に使用される

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