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腎機能低下を防ぎ、薬物療法の効果を向上させる

本邦初となる『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』の内容をひも解く

監修●堀江重郎 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授
文●柄川昭彦
発行:2016年12月
更新:2016年12月

  

「ガイドラインを活用することで、薬物療法の効果を向上させ、患者さんのQOLを高めることにつなげて欲しい」と語る堀江重郎さん

『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』が今年6月に刊行された。現在様々な抗がん薬が登場し、臨床の現場では使われているが、今まで薬物療法時の腎障害に対する診療ガイドラインはなかったという。本邦初となるがん薬物療法時の腎障害ガイドライン。その内容をひも解く。

薬物療法の効果を向上させ 患者のQOLを高めるために

2016年6月に『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』が刊行された(写真1)。がん薬物療法の進歩に伴い、抗がん薬などによる治療を受ける患者は増加している。ところが、薬物療法時の腎障害に対する診療ガイドラインはこれまでなかっただけに、画期的な1冊と言えるだろう。

このガイドラインを作成するに至った経緯について、ガイドライン作成委員長を務めた順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授の堀江重郎さんは次のように説明する。

「がん薬物療法の有害事象として生じる腎障害は、がん治療を妨げますし、患者さんのQOL(生活の質)も低下させてしまいます。ところが従来は、腎機能が低下した患者さんに対するがん薬物療法の進め方も、腎障害の予防や対応の方法も、臨床現場における経験則によるものでした。エビデンス(科学的根拠)に基づくガイドラインが必要とされていたのです」

近年になり、慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)の病態や危険因子が次々と明らかになってきたことも、ガイドライン作成の背景となっているという。

「こうした臨床腎臓学の成果を、がん薬物療法のマネジメントに応用することで、がん薬物療法の効果を向上させ、がん患者さんのQOLを高めることを支援する。まさにそれが、このガイドラインを作成した目的です」

ガイドラインの作成には、日本腎臓学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本腎臓病薬物療法学会の4学会が当たった。がん薬物療法と腎臓病学のエキスパートが集まって作成されたガイドラインである。

写真1 『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』

2016年6月に刊行された『がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン2016』。日常診療でよく遭遇する重要性の高い、16のクリニカル・クエスチョン(CQ)で構成。作成には、日本腎臓学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本腎臓病薬物療法学会の異なる4学会が関わったことも大きな特徴の1つとなっている

標準的な体格であれば eGFRで腎機能を評価

表2 推奨グレード

ガイドラインは、16のCQ(クリニカル・クエスチョン)とそれに対する回答で構成されている。その内容について、ポイントとなる点を解説してもらった。

推奨グレードは、①行うことを強く推奨する、②行うことを弱く推奨する(提案する)、③行わないことを弱く推奨する(提案する)、④行わないことを強く推奨する、という4段階になっている(表2)。

■がん薬物療法時の腎機能評価

「抗がん薬投与における用量調節のための腎機能評価にeGFRは推奨されるか?」(CQ1)

抗がん薬の投与量を調節するために、腎機能を評価することは重要である。腎機能評価にはGFR(糸球体濾過量)が使われるが、そのための検査は非常に煩雑なので、臨床現場では血清クレアチニン値などから計算するeGFR(推算糸球体濾過量)が用いられることが多い。患者が年齢や性別に応じた標準的な体格であれば、eGFRを使うことが推奨されている。

ただし、栄養不良であったり、極端にやせていたりして、筋肉量が非常に少ない場合には、eGFRが正確にGFRを反映していないことがある。例えば、筋肉量が極端に少ない人だと、eGFRが正常範囲にあっても、実際には腎機能が低下していることがあり、抗がん薬の過量投与、副作用リスクの増加につながりかねない。そこで、このような場合には、畜尿によるGFR測定など、他の検査方法を併用して腎機能を評価することが推奨されている。

この回答の推奨グレードは②「行うことを弱く推奨する(提案する)」である。

抗がん薬投与中の急性腎障害に注意

抗がん薬投与によって患者の腎機能が低下し、急性腎障害が引き起こされることがしばしば見られる。これにより、慢性腎臓病や末期腎不全のリスクが増すだけでなく、腎機能低下により、抗がん薬投与に支障を来す恐れもある。ガイドラインでは、抗がん薬投与における急性腎障害について検討した。

「抗がん薬によるAKI(急性腎障害)の早期診断に、バイオマーカーによる評価は推奨されるか?」(CQ2)

保険診療で測定可能なバイオマーカーには、「尿中アルブミン」「尿タンパク」「血清シスタチンC」「β2ミクログロブリン」「尿中NAG」「尿中L-FABP」がある。この他に、保険診療では使えないバイオマーカーもある。これらのバイオマーカーは、急性腎障害によって検査結果が変化するのだが、特異度が低いなどの問題がある。急性腎障害以外の影響でも変化するため、急性腎障害のバイオマーカーとして強く推奨できるものではない。したがって、推奨グレードは②「行うことを弱く推奨する(提案する)」となっている。

「シスプラチンによるAKI(急性腎障害)を予測するために、リスク因子による評価は推奨されるか?」(CQ4)

抗がん薬であるシスプラチンによって急性腎障害が引き起こされることがあり、シスプラチン投与例の約3分の1は、急性腎障害を合併すると推定されている。シスプラチンによる急性腎障害を予測する因子には、「低アルブミン血症」「喫煙」「女性」「高齢」「他の抗がん薬の併用」「血清カリウム」「心・血管系疾患や糖尿病の併用」「進行がん」「シスプラチンの総投与量」などがある。シスプラチンを使用する場合には、急性腎障害を予防するために、これらの因子について検討することが勧められている。推奨グレードは②「行うことを弱く推奨する(提案する)」である。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

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