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副作用対応も個別化の時代へ

制吐療法の新しい展開 薬剤師主導の臨床試験で第2世代制吐薬の優位性を証明

監修●鈴木賢一 がん研有明病院薬剤部副薬剤部長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年12月
更新:2016年12月

  

「制吐薬の個別化医療を進めていきたい」と語る鈴木賢一さん

抗がん薬治療による副作用の代表格と位置付けられてきたのが、悪心・嘔吐。日本癌治療学会が「制吐薬適正使用ガイドライン」を作成したのは2010年で、15年には第2版が出されるなど重要視されている分野だ。さらに、薬剤師の視点から独自に治療薬の効果を確かめる臨床試験を行う動きもある。

シスプラチン投与時の悪心・嘔吐を防ぐ

日本で「制吐薬適正使用ガイドライン」が策定されたのは2010年。それまでは複数の欧米のガイドラインを参照していたため、やや混乱することもあったが、パロノセトロン、アプレピタントなど新薬の登場により、国内でもようやく世界標準の制吐療法を実施できる環境が整った。さらに、2015年に発行された第2版では、「遅発性の悪心・嘔吐をどのように予防するか」などのクリニカルクエスチョンが新設された。どの薬剤が推奨されるかについては、エビデンス(科学根拠)が乏しい部分も残されているものの、より臨床に則した活用に目が向けられており、悪心・嘔吐管理のしやすさは格段に向上したと考える。

「20年ほど前の調査では苦痛を感じる副作用として1位が嘔吐、2位が悪心だったのですが、その後いろいろな制吐薬が出てきたことで、最近ではこれらの症状に代わって、上位を社会復帰の難しさや脱毛に譲っています。嘔吐は非常に少なくなりました」

がん研有明病院薬剤部副薬剤部長の鈴木賢一さんは嘔吐対策が進んできたことを強調する。鈴木さんは悪心・嘔吐に対する支持療法(サポーティブケア)に長年携わってきた。背景には新薬の開発や薬剤組み合わせの工夫がある。鈴木さんが特に着目するのが、最も悪心・嘔吐の副作用が強く出るシスプラチンを使用した時にどれだけ症状を抑えられるかということだ。

「シスプラチンを投与されて、悪心・嘔吐を抑える薬物療法をすると、概ね半分では症状が出ません。薬剤の追加投与をして収まるのが3割、嘔吐してしまうのが1割というイメージで、残る2割は薬剤の追加は必要ないが気持ちが悪いという層です」

パロノセトロン=商品名アロキシ アプレピタント=商品名イメンド シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ

悪心・嘔吐が発現する仕組み

悪心・嘔吐を抑えるといってもドラッグストアなどにある一般医薬品とは作用機序が異なる。まず、悪心・嘔吐が起こる仕組みからみてみよう。2つのルートがあり、抗がん薬により放出される神経伝達物質によって脳の化学受容器引き金帯(CTZ)が刺激されて嘔吐中枢に伝わるルートと、神経伝達物質が小腸に存在する神経(求心性迷走神経)に作用することで発生するルートだ(図1)。

図1 抗がん薬の副作用で悪心・嘔吐が起こる仕組み

長く効くパロノセトロン

その神経伝達物質による刺激が伝わるのをピンポイントで抑えようというのが、近年の制吐薬だ。まず、1990年代から使われ出したのが、5-HT3受容体拮抗薬(5HT3RA)という種類のグラニセトロン。神経伝達物質セロトニン(5-HT3)が結合することで悪心・嘔吐に向かってスイッチが入ってしまう5-HT3受容体に対して先回りして結合し、5-HT3に刺激されることを防ぐ。

また、2009年には、もう1種類の神経伝達物質であるサブスタンスP(NK1)が伝わるのを防ぐNK1受容体拮抗薬(NK1RA)のアプレピタントも承認された。

さらに10年には、新しい5HT3RAであるパロノセトロンが使われるようになった。第2世代薬ともいわれるパロノセトロンは、血中半減期が長く、5-HT3受容体にも結合しやすいという特徴を持つが、グラニセトロンの後発品と比べると薬価は約10倍にもなるという高額な薬剤だ(表2)。

表2 「制吐薬適正使用ガイドライン」(第2版)で取り上げられている制吐薬一覧

*日本では悪心・嘔吐に対して承認されていない (日本癌治療学会HPから、一部改変)

実際の治療においては、日本癌治療学会による制吐薬適正使用ガイドラインでは、5HT3RA、NK1RA、デキサメタゾン(DEX)の3剤併用が標準療法として推奨されている。しかし、5HT3RAについては、どの薬剤が標準かが示されていなかった。

鈴木さんは、ここに目を付け、5HT3RAに関しては第1世代のグラニセトロンと第2世代のパロノセトロンのどちらが有効かを、薬剤師の立場から示そうと2011年から第Ⅲ(III)相臨床試験を行った。試験は「TRIPLE試験」と名付けられ、16年6月には、その成果として世界で初めて3剤標準制吐療法におけるグラニセトロンに対するパロノセトロンの有効性が確認されたことを発表した。薬剤師主導による臨床試験はとても珍しい。

グラニセトロン=商品名カイトリル デキサメタゾン=商品名デカドロン、レナデックスほか多数

薬剤師主導の第Ⅲ(III)相臨床試験

「パロノセトロンは効果が長いという特徴があります。しかし、これが従来薬に比べ、どの程度の臨床効果につながるのかを検証しようと発案しました。パロノセトロンが受容体に結合する力はグラニセトロンの10倍ともみられています。グラニセトロンは24時間程度の持続ですが、パロノセトロンは100時間ほども持続します。一方で、パロノセトロンは高価なので、それでも使う価値があるかを検証することにしました」

鈴木さんは全国の薬剤師に呼びかけ、手を挙げた20施設の協力で多施設共同の臨床試験を行った。対象は、初回治療としてシスプラチンを含む治療が施行される予定の固形腫瘍患者とし、824人が登録された。DEX+アプレピタント+パロノセトロン群とDEX+アプレピタント+グラニセトロン群に割り付けられ、有効性が比較された。

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