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免疫チェックポイント阻害薬で治療中、命に関わることもある副作用の心筋炎に注意を!

監修●田尻和子 国立がん研究センター東病院循環器科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2023年12月
更新:2023年12月

  

「免疫チェックポイント阻害薬を投与する際には、命に関わることもある心筋炎を見逃さないために心電図と血液検査が重要です」と話す田尻和子さん

がん治療の薬物療法には脱毛、倦怠感、嘔吐・悪心などさまざまな副作用がありますが、近年、治療薬の開発が進み、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体薬など、これまでの細胞障害性抗がん薬と異なった作用機序の新薬が次々と登場し、これまでにない副作用も多くなってきました。とくに最近、免疫チェックポイント阻害薬の副作用の「心筋炎」が問題になっています。

今回は、国立がん研究センター東病院循環器科長の田尻和子さんに、免疫チェックポイント阻害薬の副作用の心筋炎について伺いました。

心筋炎はどのような病気ですか?

心臓は筋肉(心筋)でできていますが、心筋炎はその心筋の中にウイルスが浸潤して、心筋細胞に炎症を起こし、心臓の機能が低下し、重篤な症状を引き起こす心臓病の1つです。まれに風邪に感染後、心筋炎になるケースもあります。心筋炎の原因ウイルスとしてよく知られているものに、アデノウィルスやコクサッキーウイルスなどがあります。

「心筋炎は心臓病の中では非常に稀な疾病ですが、炎症細胞によって心筋が破壊され、心不全や不整脈など、さまざまな症状を引き起こす怖い病気です。がん治療薬の免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitor:ICI)の登場により、医療現場では日常的に目にするようになりました。最近では新型コロナに感染後、心筋炎になったというケースが報告されていますが、一般の方にはあまり馴染みのない病気だと思います」と国立がん研究センター東病院循環器科長の田尻和子さんは述べます。

ICIによる心筋炎の特徴はどのようなものですか?

「今までは、アントラサイクリン系の抗がん薬による心筋炎がごく稀な症例として報告されていますが、一般的に抗がん薬の副作用として認識されるような心臓の障害ではありませんでした。ところが、ICIという免疫を操作する新しい作用機序の薬が登場してから、心筋炎が目立つようになってきました。現在のところ、ICIにより心筋炎になるリスクは1%くらいと言われています。しかし、最近では、ICIの併用療法が盛んに行われるようになり、リスクは2%という文献もあり、ICI使用の増加とともにその発症数が多くなることが懸念されています」

免疫チェックポイント阻害薬関連による有害事象のことをirAE(immune-related Adverse Events)と言います。従来の心筋炎よりICI心筋炎は予後(よご)が悪いと言われていますが、まだはっきりとした理由はわかっていません。

「心筋炎は、ICI初回投与からおよそ3カ月以内で起こることが多く、心筋炎の発症頻度は1%程度と低いものの、一旦発症した場合の死亡率は25~50%と極めて高いという特徴があり、注意が必要です」

また、ICIの併用療法により、心筋炎の発症頻度と重症度は高くなりますし、筋炎や重症筋無力症を合併するケースもしばしばあります(図1)。

「ICIはこれまでは肺がんなど比較的高齢のがん患者さんに多く使われてきたのですが、2019年に乳がんにも適応拡大され、一気に若い女性に使われ出してきました。とくに女性の20~40代は、結婚、出産、仕事などのライフイベントの重要な時期と重なってきますし、心疾患のリスクを常に考慮しなければならないと思います」

これまでも20~50代の乳がん患者さんは、分子標的薬のハーセプチン(一般名トラスツズマブ)によって心不全になり、がんは完治してもその後の長い人生を心臓病と共に生きていかなればならなくなるケースもあり、若い人の場合とくに注意が必要です。

ICIで心筋炎がなぜ起こるのでしょうか?

がん細胞は、免疫細胞(T細胞)からの攻撃を逃れるためPD-L1というタンパク質を出します。これが免疫細胞のPD-1に結合すると、免疫細胞の働きが抑制されてしまい、がん細胞を攻撃できなくなり、がん細胞がどんどん増殖していきます。

現在、保険適用されている免疫チェックポイント阻害薬は、作用機序により3つに分類でき、計8つの薬剤があります。

PD-1阻害薬:免疫細胞(PD-1)に結合してT細胞の働きを抑制させない作用のオプジーボ(一般名ニボルマブ)、キイトリーダ(同ペムプロリズマブ)、リブタヨ(同セミプリマブ)
PD-L1阻害薬:がん細胞(PDL-1)に結合して免疫細胞の働きを抑制させない作用のテセントリク(同アテゾリズマブ)、バベンチオ(同アベルマブ)、イミフィンジ(同デュルバルマブ)
CTLA-4阻害薬:免疫細胞(CTLA-4)に結合するヤーボイ(一同イピリムマブ)、イジュド(同トレメリムマブ)

「まだ完全に解明されているわけではありませんが、基本的にはICIは、免疫細胞の1つであるT細胞の活性化抑制を解除し、がん細胞を攻撃させます。しかし、ICIはがん細胞周囲のT細胞だけでなく、からだ全体のT細胞を活性化させてしまいます。体の中で休眠していた心筋炎を起こすT細胞をも活性化させてしまい、心筋炎が起こると考えられています。免疫関連有害事象は心臓だけではなく全身のさまざまな臓器にも起こりますが、これまで休眠していた自分に対する免疫細胞を活性化させてしまう(自己免疫)というのがメカニズムの1つとして考えられています」

どの作用機序のICIでも、心筋炎になるリスクは変わらないとのことです(画像2)。

ICI心筋炎を早期に発見するには?

心筋炎の症状は、一般的には胸痛や息切れです。不整脈が出ると動悸を感じたり、意識を失うこともありますが、それは比較的病状が進行した場合で、炎症が起こりはじめた早期は、無症状であることが多いです。そのため気づかず不整脈、心不全が進んで気がついたときには、危険な状態になってしまうこともあります(図3)。

「どのような人が心筋炎になりやすいか、そうでないかはわかってないので、ICIを投与される患者さんは皆さん気をつけなければなりません。それにはICIを投与する前に心臓の状態をチェックすることが大事です」

がん薬物療法は、現在では外来で行うことが多いので、治療前の検査結果次第では、入院して治療を行う場合もあるそうです。

心臓の状態をチェックするには、心電図と血液検査による心筋トロポニン値の測定をするのが一般的です。トロポニンは血液検査でできるので、患者さんにとっても負担は少なく、検査も安価です。

「心筋トロポニンは、心筋炎のバイオマーカーで、心臓の状態をスクリーニングするうえで、必須のマーカーです。心筋炎の好発時期がICIの投与開始から3カ月以内と言われているので、心筋炎の早期発見のためには毎回ICIを投与する前に、心電図とトロポニンの検査をして異常を見逃さないことが必要です」(図4)

また、心筋炎になっても、治療により炎症が治ってきたかを確認できるのも心筋トロポニン値です。治ってくるとトロポニンの数値も正常になります。「もちろん心電図なども参考にしますが、明確な数値として出てくるので、心筋トロポニン値が一番わかりやすい」とのことです。

「当院では、ICIでの治療中止を余儀なくされる患者さんは月に1名ほどおられますが、心筋炎が軽症で、治療を続けられる患者さんはその10倍以上はいる印象です」

初めてのICI投与前には、薬剤師から薬剤の副作用について、「患者さんやご家族に説明しているが、正直どの程度理解していただけているかはわからないところがある」とのことです。やはり、薬剤によりどのような副作用が起こるかについて、患者さんも知っておくと、具合が悪くなったときの対応が素早くできるでしょう。

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