• rate
  • rate
  • rate

心不全などの心血管の副作用に気をつけよう! 乳がんによく使われる抗がん薬

監修●遠藤彩佳 東京都済生会中央病院循環器内科副医長
取材・文●がんサポート編集部
発行:2023年9月
更新:2023年9月

  

「がんの治療で頑張ってきた患者さんを循環器内科としてサポートしたいと思っていますので、がん治療中に何かおかしいと思ったら早めに相談して欲しい」と語る
遠藤彩佳さん

抗がん薬アドリアマイシンによる心筋症は、何十年も前から知られていました。その後、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい薬剤が登場し、多岐にわたる心血管の副作用(心血管毒性)が懸念されています。また、心血管疾患を抱える高齢のがん患者さんも増え、心血管疾患を考えながらがん治療を行うことも重要になっています。

このような背景から2017年7月に「腫瘍循環器学会」が設立されました。さまざまな薬剤で心血管毒性は起こりますが、今回は、乳がん治療における心血管毒性について、東京都済生会中央病院循環器内科副医長の遠藤彩佳(あやか)さんにお伺いしました。

腫瘍循環器学という新しい分野ができたきっかけは?

がん治療が進歩してきたことにより、治療成績も向上、それに伴いがんサバイバーが心血管毒性(心不全・狭心症・心筋梗塞・不整脈・動静脈血栓症など)を発症するケースも増えています。

「1970年頃から、アドリアマイシン(一般名ドキソルビシン)に心血管毒性の副作用があることは報告されており、今に始まったことではありません。しかし、あくまでもがん治療が主体ですから、普段がん治療に縁遠い循環器内科が、どのようにがん患者さんをサポートし、がん専門医と連携していくのか、当初、問題は山積みでした」と、東京都済生会中央病院循環器内科副医長の遠藤彩佳さんは言います(図1)。

2011年、乳がん雑誌に発表された「乳がん患者さんの死亡理由」のデータがあります。乳がんによる死亡と心血管疾患による死亡を比較してみると、当初は乳がんによる死亡が45%弱、心血管疾患が約25%で乳がんによる死亡率が高いのですが、年を追うごとに差が縮まり、10年を境に心血管疾患の死亡率が逆転しています(図2)。

「心血管毒性が、がん患者さんの予後に影響を及ぼしてしまう、それが大きなきっかけの1つとなり、世界でCardio-Oncologyという学術分野が誕生し、日本でも2017年10月に『日本腫瘍循環器学会』(Onco-Cardiology:オンコ・カーディオロジー)が設立されました」

循環器領域ではがんは稀な疾患のため、今まで循環器領域とがん治療は最も縁遠い関係でしたが、高齢者のがんと心血管疾患併存の増加、がん治療がもたらす心血管毒性などからこの学術分野の必要性が高まりました。

腫瘍循環器学では、がん患者さんが安心してがん治療を続けられるように、腫瘍専門医と循環器専門医が連携してがん患者さんの生命予後、QOL(生活の質)改善を目指すことを目的としています。

なお世界の流れは、2000年米国MDアンダーソンがんセンターで世界初の「Cardio-Oncology Unit」が設立され、2015年に米国心臓病学会が「Cardio-Oncology Council」を設立。2022年には欧州心臓病学会(ESC)より、がん治療による心臓への副作用を軽減し、安全にがん治療を受けられることを目的とした初の腫瘍循環器学ガイドライン『Cardio-Oncology Guideline』が発表されました。

日本でも2023年にガイドラインが発表されていますが、まだまだ始まったばかりの学術分野でもあります。がん治療を受ける患者さんのために、腫瘍専門医と循環器専門医が連携して治療に向き合うことが今後重要になってくると考えられます。

どんながん治療が心血管疾患を引き起こすのですか?

がんの薬物療法や放射線治療が問題になります。乳がん治療では、アントラサイクリン系抗癌薬剤で代表的なアドリアマイシンや抗HER2薬で代表的なハーセプチン(一般名トラスツズマブ)などが、心血管毒性として心筋障害をもたらし、心機能低下や心不全を発症するので注意が必要です。胸部への放射線治療、とくに左胸や縦隔(じゅうかく)に対する放射線照射も、長期的に心血管疾患のリスクになると言われています(図3)。

がん治療の前に心血管疾患のスクリーニングは必要ですか?

安全にがん治療を行うためには、心血管毒性の予防と管理、早期発見、早期治療がとても重要になります。そのためにも、がん治療前に心血管疾患スクリーニングを行い、リスク評価をすることが大切です。とくに高リスク群である高齢者(65歳以上・とくに80歳以上)や高血圧、糖尿病、腎機能障害などの併存疾患を有する患者さん、喫煙、肥満、もともと心血管疾患を有する患者さんなどは注意が必要です(図4)。

とくに心血管毒性リスクの高い抗がん薬を使用する場合には、事前に心電図や心エコー、血液検査での心筋バイオマーカーを評価することが強く推奨さています。治療中にも定期的に評価を継続することで、心血管毒性の予防と管理、早期発見、早期治療が可能になります。

「乳がん患者さんの場合、市中病院で治療をされる方も多いと思いますが、心電図、心エコー、血液検査などはどの施設でも比較的容易にできる検査です。その評価を続けることで、安心して乳がん治療を受けることができます。しかし、全てを腫瘍内科で管理することは大変なことです。そのために我々循環器科が積極的に介入し、がん治療をサポートさせて頂きたいと思っています」(図5)

同じカテゴリーの最新記事

  • 会員ログイン
  • 新規会員登録

全記事サーチ   

キーワード
記事カテゴリー
  

注目の記事一覧

がんサポート4月 掲載記事更新!