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進化する個別化医療──遺伝子検査による治療選択の時代へ

大規模ゲノムスクリーニング 産学連携「SCRUM-Japan」が発進

監修●吉野孝之 国立がん研究センター東病院消化管内科科長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2015年7月
更新:2015年9月

  

「個別化医療に向けた産学連携
プロジェクトが始動しました」
と語る吉野孝之さん

大腸がん治療で特徴的なのが、無駄な薬剤投与をしないための遺伝子検査だ。近年確立された方法だが、さらに進化を続けている。大規模な遺伝子診断ネットワークづくりも進行中だ。

KRAS検査は保険適用で実施率99%に

遺伝子を調べて、より効果的な治療を行う個別化医療は、様々ながん種で取り入れられているが、中でも大腸がんは個別化医療が進んでいるがん種の1つだ。

切除不能な進行・再発大腸がんでは、KRAS遺伝子検査と、抗EGFR抗体薬(アービタックス、ベクティビックス)の個別化医療が行われている。KRAS遺伝子に変異があると、抗EGFR抗体薬であるアービタックス、ベクティビックスは効かない。

しかし当初は、遺伝子検査の重要性は認識されておらず、KRAS遺伝子検査が日本で保険適用されたのは2010年、抗EGFR抗体薬が承認された2年後だった。

日本でのKRAS検査の保険償還導入に奔走した国立がん研究センター東病院消化管内科科長の吉野孝之さんに経緯を聞いた。

「欧米でKRAS検査が導入されたのは08年6月。検査により薬を投与する患者さんを60%まで絞っていました。日本ではその年の9月にアービタックスが承認されましたが、添付文書にはKRASという文字はどこにもありませんでした。効かない人への投与を避ければ不要な副作用の苦しみもないのですが、遺伝子検査という概念が希薄でした」

吉野さんらはまず先進医療としてKRAS遺伝子検査を開始。吉野さんの施設のみで200例の臨床データを集め、承認申請を行った。その後、10年に保険適用されると、全国では20%弱だった測定率は半年で99%にまで達した。

「保険で認められなければ普及は難しいということが分かりました」

アービタックス=一般名セツキシマブ ベクティビックス=一般名パニツムマブ

複数のRAS遺伝子変異を同時検出する「RASKET」

検査の進化はさらに進んだ。「13年のASCO(米国臨床腫瘍学会)でKRAS遺伝子だけではなく、他のRAS遺伝子変異の有無を調べる必要があるということが明らかになりました。日本でも早く検査の承認を取らなければと思いました」

KRASに変異がなくても抗EGFR抗体薬が効かない症例があって、その原因がNRASの変異にあることが分かり、KRASとNRASを同時に検査しようということだ。これまでの検査ではKRASのエクソン2という領域を調べていたが、新しい検査では、それに加えてKRASエクソン3、4とNRASエクソン2、3、4も調べるようになった。

複数の臨床試験の結果から、KRASエクソン2に変異がないタイプ(野生型)の中に、KRASエクソン3、4およびNRASエクソン2、3、4が変異している人が約20%弱ほど存在することが分かった。これは、切除不能進行・再発大腸がん患者さんの約10%にもあたり、こういった患者さんには不要な投薬が行われていたということになる。

それまで日本では、複数の遺伝子を同時に調べる遺伝子検査は承認例がなかったが、吉野さんの呼びかけのもと、周囲の医師らの協力で、6週間で300例の臨床データを取得、異例の速さで承認申請が行われた。

そして、今年(2015年)1月に承認されたのが、「RASKET」。大腸がんの複数のRAS遺伝子変異を同時に検出する体外診断用医薬品だ。簡便かつ低コストで検査ができることが特徴で、「RASKET」承認を受けて、今年4月には抗EGFR抗体薬の添付文書も改訂。使用に際しては 「RAS(KRAS及びNRAS)遺伝子変異の有無を考慮した上で、適応患者の選択を行うこと」と明記されることとなった。

BRAF遺伝子変異も効果予測因子に

「遺伝子変異への対応はどんどん進化しています」と吉野さんは強調する。大腸がんの分野において、他にもBRAFという遺伝子が関与していることが明らかになったのだ。BRAF遺伝子が変異している患者さんは、大腸がんの5%ほどとその数は少ないが、予後が非常に悪く、「一般的にはⅣ期の進行がんで見つかると、1年ぐらいで亡くなってしまう方が多い」(吉野さん)という。

治療法としては、FOLFOXIRI+アバスチン療法の有効性が確認されているとともに、新たなBRAF阻害薬の開発も進められており、「有効な治療薬が適切に使用されれば、確実に予後が延びる可能性がある」と吉野さんは指摘する。

「欧米では昨年よりRASと一緒にBRAFの遺伝子検査も実施することが推奨されていますが、日本ではほとんどの施設で測定されていません。当院では3年ほど前から全例でBRAF遺伝子検査を行っていますが、病院に来られるころには既に体の状態が悪い患者さんが多く、全体の3分の1ほどしか臨床試験に入ることができません。状態が悪くなる前に見つけることができれば、有効な治療薬を届けることができます。そのためにも遺伝子検査を広めることが重要だと考えています」

FOLFOXIRI=5-FU(一般名フルオロウラシル)+ロイコボリン(一般名ホリナートカルシウム)+エルプラット(一般名オキサリプラチン)+イリノテカン(商品名カンプト/トポテシン) アバスチン=一般名ベバシズマブ

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