米国臨床腫瘍学会 2018年年次集会(ASCO2018)レポート

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2018年8月
更新:2018年8月

  

Bruce E. Johnson会長

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の2018年年次集会(ASCO2018)が6月にシカゴで開催された。今年のテーマは “Delivering Discoveries: Expanding the Reach of Precision Medicine(新しい発見を適用し、プレシジョン・メディスン 最適化医療の範囲をより拡大する)”。これは個々のがん患者に対し、より適確な医療を施す重要性を強調することを念頭に置いたものである。

本集会の会長である、米ハーバード大学ダナファーバーがん研究所(ボストン)臨床研究責任者のBruce E. Johnson氏は、「プレシジョン・メディスンは、より深遠な方法でがん医療を変貌させつつあり、本年の集会ではこの部分に焦点を当てることにした。この医療でベネフィット(利益)を得ている患者の多くが、さらにより効果が得られるように、治療を継続していくものと確信している」と述べている。

ASCO2018の中から、注目された報告(話題)を取り上げた。

ASCOプレスカンファレンス

<高齢者機能評価>
高齢進行がん患者に対する機能評価の有用性を検討

集会の開催に先立ち、メディアを対象に行われたプレスブリーフィングでは、米国での前立腺がんにおける白人とアフリカ系米国人での治療効果の差、頭頸部がんの治療内容や死亡率の男女差など最新の臨床試験結果報告が取り挙げられた。その中から今後、高齢者社会を迎える我が国でも重要な課題でもあり、日本でも研究が始まっている高齢者機能評価(geriatric assessment:GA)が及ぼす、がん専門医と高齢がん患者間のコミュニケーションの改善効果を検討した、集団研究プログラムでの群間無作為化比較試験について紹介する。

GAは、がん治療の介入に対する脆弱性を同定(確認)評価するために、高齢者での機能状態(functional status)、身体パフォーマンス(objective physical performance)、併発症(comorbid medical condition)、認知能力(cognition)、栄養状態(nutritional status)、心理状態(psychological status)、社会的支援(social support)などを査定するもの。

本比較試験では、70歳以上の進行固形がん、もしくはリンパ腫患者において、GAで最低1つの障害が認められた患者542例を、GA後に主治医が結果を知らされてガイドラインに則って治療介入した群と、結果を知らされなかった非介入の対照群に無作為に割り付け、患者の満足度を調査した。

この研究の背景には、がん治療においては生存期間の延長のみに関心が寄せられている中で、高齢がん患者ではそれ以外の加齢に伴う諸問題が存在していることがある。その1つは、高齢の進行がん患者の多くは治療による他の健康事項へのネガティブな影響を望んでいない一方で、医療者側では、患者や介護者が懸念している、特に年齢が関与する健康事項に対する認識が不足していることが挙げられている。

研究では、介入群に対して質問票などを用いた介入が行われ、その回答を考慮した治療介入が行われた。

比較試験の結果は、介入が行われた患者群では、非介入群に比べて、医師とのコミュニケーションへの満足度が1.12ポイント有意に高かった(p=0.01)。

研究報告を行った米ロチェスター大学医療センター・ウィルモットがん研究所(ニューヨーク州)教授のSupriya Mohile氏は「GA(高齢者機能評価)後にがん専門医に対し、事前にウェブでその結果を報告し、ガイドラインに則った介入を行うことで、患者の満足度を改善させられることが示された」と述べている。また「患者、介護者ともにがん専門医と年齢に関与する懸念事項について相談をしたいと望んでおり、今回の研究は、GAがこれら高齢患者のニーズに応える手段になると考えられる」としている。同氏はさらに、今後、GAによる介入が、患者の機能および介護者も含めてQOL(生活の質)にポジティブな効果をもたらすかどうかの評価を行う予定だ。

高齢進行がん患者に対するGAについては、今回の試験以外にも、治療への意思決定の改善が化学療法による有害事象の減少をもたらす可能性を検討するなどのいくつかの無作為化試験が進行中である。

<参考情報> 日本での高齢者研究: JCOG

<腎細胞がん>
進行腎細胞がんで腎摘除術が不要に~第Ⅲ相無作為化非劣性試験で明らかに~

進行(転移性)腎細胞がん患者の多くで、腎摘除術を行わなくても分子標的薬の単独治療で生存期間に悪影響を与えないことが、欧州での前向きの無作為化第Ⅲ相非劣性試験「CARMENA」で明らかになった。

腎細胞がんは、初診時にすでに転移がんで発見されることが多く、その数は世界的にみても患者の約20%とも言われている。これらの患者に対する標準治療は、腎摘除術と術後の抗がん薬を用いた全身治療であるが、10年ほど前から標的治療が開発され、転移性腎細胞がんに対して分子標的薬が用いられるようになってきている。今回の臨床試験は、こうした標的治療と腎摘除術を直接比較することにより、腎摘除術が生存(期間)に寄与しているかどうかを検討することを目的に、フランス、英国、ノルウェー3カ国の79施設450人を対象に行われた。

試験では、対象患者をA群(標準治療:腎摘除術+分子標的薬スニチニブ3~6週投与)226例、B群(スニチニブ単独投与)224例に無作為(ランダム)に割り付けた。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、腫瘍縮小効果、臨床的効果、安全性とした。

50.9カ月(中央値)にわたって追跡した結果、OS中央値はA群(13.9カ月)に比べてB群(18.4カ月)のほうが高かった。また奏効率(腫瘍縮小効果)もB群において同様に高く(27.4% vs.29.1%)、さらにPFS(中央値)もスニチニブ単独投与群のほうが高かった(7.2カ月 vs. 8.3カ月)。

これらの結果を受けて、報告者の仏デカルト大学(パリ)泌尿器科(外科医)のArnaud Mejean氏は「スニチニブ単独投与は標準治療である腎摘除術と比較して非劣性であることが示された。このことから転移腎細胞がんの治療において腎摘除術はもはやこれまで考えていたように必ずしも必要ではない」としている。

ただし今回の試験は治療群間での優位性を比較したものではないため、今回の結果のみでニチニブ単独投与のほうが標準治療に比べて治療効果が優れているとは結論できないと付け加えている。

<乳がん>
早期乳がん、再発リスク遺伝子検査で化学療法を回避~長期間の大規模第Ⅲ相無作為化試験で明らかに~

早期乳がん患者において、再発リスクを遺伝子検査で検討することにより、術後の化学療法が不要となるケースのあることが大規模な後ろ向き第Ⅲ相無作為(ランダム)化臨床試験「TAILORx」で示された。

乳がん患者の半数は、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、腋窩リンパ節転移陰性と言われている。標準的な治療法は、腫瘍部位の摘除後、ホルモン療法を行い、さらに再発を防ぐために化学療法が施行される。こうした症例に対し、近年、がん組織の遺伝子検査で再発リスクを評価し、スコアの低い患者ではさまざまな副作用をもたらす化学療法を回避できるようになってきている。

長期間にわたって米国で行われている「TAILORx」試験(対象10,273例)では、これまでに低スコア群(0-10)にはホルモン療法単独のみで、また高スコア群(26-100)には化学療法の併用を要することが明らかにされている。今回の報告は、この中間に位置し患者数も多い中スコア群(11-25、6,711例)に焦点をあてたもの。

試験では、対象をホルモン療法単独群と化学療法併用群に無作為化し、主要評価項目の無病生存期間(DFS)と、副次評価項目の片側部・遠隔部再発率、全生存率を比較した。

その結果、追跡期間中央値7.5年において、ホルモン療法単独は化学療法併用療法との比較で劣性が認められないこと。また9年時点でのDFS(83.3%vs.84.3%)、遠隔再発率(94.5% vs.95.0%)、全生存率(93.9% vs. 93.8%)においても両群間で差のないことが明らかになった。

報告者の米アインシュタイン医科大学がんセンター(ニューヨーク)のJoseph A. Spara氏は「対象となった乳がん患者の70%は、遺伝子検査で再発リスク評価を行うことにより、術後の化学療法を回避できることが明らかになった」と述べている。

今回、用いられた遺伝子検査法は、がん組織での21遺伝子の発現を解析する「OncotypeDX検査」と呼ばれるもので、日本ではまだ保険適用にはなっていない。

<膵がん>
新規の併用薬療法で膵臓がん患者の生存期間が20カ月近く延長~多施設第Ⅲ相無作為化試験で明らかに~

膵がんは進行が極めて速く、予後不良であることが知られているが、新しい治療法で、患者の生存期間を著しく改善できることが、フランスを中心に行われた多施設第Ⅲ相無作為化試験「PRODIGE 24/CCTG PA.6」で明らかになった。

膵がんでは、膵切除後にも微小腫瘍細胞の遺残が危惧されるため、術後補助化学療法(アジュバント療法)の標準治療としてゲムシタビンが用いられる。この術後補助化学療法により、治癒例や再発率が切除術単独に比べて半数であることが報告されているが、それでもなお2年以内に75%前後の患者に再発が認められる。このためより有効な治療法が模索されていた。

今回の試験では、フランス、カナダの77施設から493例を募り、被験者は新規治療法のmodified (m) FOLFIRINOX投与群(A群)とゲムシタビン投与群(B群)に無作為に割り付けられた。mFOLFIRINOXはオキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、5-フルオラウシル(5-FU)の4剤を併用した治療法。すでに転移性膵がんの1次治療に用いられているものとほぼ同じだが、5-FUの大量静脈投与を行わずに血液学的毒性、下痢の発現を抑制する一方で、効果を維持できるよう化学的な修飾をしている点が異なる。FOLFIRINOX自体も、全身状態(PS)が良好な転移性膵がん患者での1次治療においてゲムシタビンよりも高い効果が認められている。

試験の主要評価項目は、無病生存期間(DFS)。副次評価項目は、安全性、特異的(無転移)生存および全生存期間(OS)。

追跡期間33.6カ月(中央値)の結果は、DFS(同)は、A群21.6カ月vs. B群12.8カ月とA群で有意な改善がみられた(p<0.0001)。またOS(同)でもA群54.4カ月vs. B群35.0カ月と有意差(p<0.003)が認められた。さらに再発までの期間(同)はA群30.4カ月 vs. B群17.0カ月であった。

一方、安全性に関しては、下痢、末梢神経障害の発現率がB群に比べてA群において有意に高く、疲労、粘膜炎なども多くみられたが、いずれも投与法の改善により管理可能であった。B群では治療関連死が1例認められたが、A群では死亡例はなかった。

これらの結果から、報告者の仏ロレイン・オンコロジー研究所(ナンシー)のThierry Conroy氏は「mFOLFIRINOXは膵切除後の新規の標準治療法として考慮されるべきである。次のステップとして、同治療法を術前補助化学療法(ネオアジュバント療法)として用い、切除不能な微小転移細胞を消滅させた後に手術で完全に腫瘍を取り除ける機会を増やしたい」と述べている。

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