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ワクチン直接注入・組合せ療法などの研究も進行中

広がるがん免疫療法への期待と可能性

監修●中面哲也 国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター免疫療法開発分野長
取材・文●坪山容子
発行:2013年10月
更新:2013年9月

  
「がん免疫療法はがん治療のトレンドとなりつつあります」という中面哲也さん

数あるがん免疫療法の中でも、がんワクチン療法は、延命効果が期待される治療法として注目されており、予防法としても期待されている。一方で、免疫のブレーキの解除を目的とした抗体療法などの開発も花盛りであり、今や、がん免疫療法はがん治療のトレンドとなりつつあるといわれる。国内における先駆的な取組みに迫った。

進歩する免疫療法

がんの免疫療法は、がん患者さんが細菌に感染すると、がんが小さくなる場合があることに気づいた19世紀に始まる。これより、がんを排除するために免疫機構を治療に活用する研究が進められることとなり、多様なアプローチでの研究が世界中で進んでいる。

国内では、1970年代の丸山ワクチンやピシバニールが有名だが、1980年代にはサイトカイン療法や養子免疫療法がトレンドとなった。1990年代になると、がんワクチン療法や抗体療法などがん細胞だけを攻撃する特異的免疫療法へとトレンドは移ってきた。そして、また非特異的な免疫療法にも注目が集まりつつある。

ピシバニール=免疫細胞の活性化、免疫細胞にかかわるサイトカインの産出により免疫作用を増やす抗がん薬
サイトカイン療法=免疫細胞の伝達物質サイトカインを使って免疫機能全体を強化する治療
養子免疫療法=免疫システムを担うリンパ球を1度体外に出し、そこで活性化させてから再び体内に戻す療法
特異的免疫療法=がん細胞だけがもつ特定の抗原を見つけ、それを攻撃する治療

再発予防や延命を目指せるGPC3ペプチドワクチン

現在の日本で、免疫療法の研究分野で最先端をいくのは、国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター(EPOC)免疫療法開発分野長の中面哲也さんだ。

取り組んできたのは、がん細胞だけに現れるがん抗原ペプチドを体外から注入して、そのペプチドを目印にがん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)を活性化する「がんペプチドワクチン療法」というもの。

中面さんらは、肝細胞がん特有のタンパク質、グリピカン3(GPC3)の中に、日本人の85%がどちらかの型をもつとされるA24、A2という各HLA型に結合する2つのGPC3ペプチドを発見した。

2007~2009年に、他の治療法がない進行肝細胞がん患者33例で、GPC3ペプチドワクチンの第1相臨床試験を行ったところ、9割の人でペプチドを認識するCTLが増加して、CTLが多く誘導された人では生存期間が長くなることが明らかになった。

また、肝細胞がんの根治的治療後の再発予防を検討する第2相臨床試験では、GPC3ペプチドを1年間に10回投与する方法で、1年目の再発は抑えられる傾向がみられ、引き続きペプチド投与を終了した患者さんの再発予防効果を観察中である。

日本にはまだ薬として承認されたがんワクチンはないが、現在、いくつかのワクチンが第3相の大規模臨床試験に進んでいる。そこで良い成績が得られれば、いよいよがんワクチンが保険適用薬として治療現場に供されることになる。

多様なアプローチからの免疫療法の開発が必要

■図1 ペプチドのがん組織内注入Nobuoka D, Nakatsura T, et al. Cancer Immunol Immunother 2012 、Human Vaccines 2013

しかし、がんワクチン療法はがん細胞を死滅させるパワー(抗腫瘍効果)の強い治療法ではない。そのため、近年はパワーの強い新たな抗体療法への関心が高まっている。

とくに注目されているのは、免疫のブレーキとなる分子を抑えたり、アクセルとなる分子を活性化して、がん患者さんの疲れきったT細胞を再び元気づけようとする抗体療法と、がん細胞の目印となる抗原を見つけて結合する抗体の一部を、遺伝子技術を用いて導入したT細胞を患者さんに投与する免疫細胞療法だ。

国立がん研究センターでは2013年4月にEPOCが設立され、6月から免疫療法開発分析も傘下となり、①がんワクチンの開発②免疫ブレーキの解除などを目的とした抗体療法の開発③がん免疫細胞療法の開発――を3本の矢に、新しい免疫療法の開発が試みられている。

国立がん研究センター全体の免疫療法開発を担う中面さんは、「パワーの強い治療法を利用し、また複数の治療法を併用するなどの工夫をして、がんの治癒を目指した免疫療法を開発するのは、進むべき道の1つである。しかし一方で、がんワクチン療法が延命を目指せる特異的な治療法であることの強みは大きい」と、どちらの開発も必要であることを強調する。

がんペプチドワクチン療法の治療パワーが弱い一因としては、ペプチドを注射した場所にCTLが集まってしまい、思ったほどがん細胞を攻撃していないことが指摘されている。しかし、これに対する打開策の1つとして、ペプチドを腫瘍(がん組織)に直接注入すると、がん細胞により大きな傷害を与えられることがわかっている(図1)。

また今後は、がんペプチドワクチン療法と抗体療法の併用など、免疫療法を組み合わせた治療法の検討もさらに進んでいくことが見込まれる。

分子標的薬の耐性克服にも期待

現在、国立がん研究センターでは、新規のオリジナルペプチドワクチン療法の臨床試験や、分子標的薬の耐性を克服するためのがん抗原ペプチドの発見、肝がん予防ワクチンの開発を目指した研究などがんワクチン研究が進行中。

このうち分子標的薬の耐性の克服に関しては、すでに、非小細胞肺がんの分子標的薬(EGFR-TKI)耐性の一因であるEGFR-T790M変異を抑えるための抗原ペプチドが同定されており、久留米大学と共同特許を出願済みで、臨床応用を目指している。

「正常細胞を傷つけず、少ない副作用でQOLを保ちながら延命を実現できる可能性のあるがん免疫療法は、がん予防や再発予防に加えて、他に治療法のない進行がんの治療法としても活かせると期待している」と中面さんは話す。

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