患者さん個々に合った免疫細胞治療の個別化治療実現も
標準治療との併用で、様々ながん種の治療にも期待
近年、がんに対する免疫療法の研究が進み、関心も高まっている。自分の免疫細胞を使ってがんを攻撃する「免疫細胞治療」の専門医療機関として、多くの臨床実績をもつ瀬田クリニックグループ臨床研究・治験センター長の神垣隆さんに話を聞いた。
がん免疫療法新時代の幕開け
かつては、その治療効果に懐疑的な見方も少なくなかったがん免疫療法。
しかし、米国食品医薬品局(FDA)が、前立腺がん治療用ワクチンであるシプリューセル-Tと、悪性黒色腫治療薬である抗CTLA-4抗体のイピリムマブを、医薬品(がん免疫療法薬)として正式承認するなど、世界的な研究開発の進展や新世代の免疫療法が臨床の場に登場しつつある現状を受け、免疫療法はかつてない注目と期待を集めている。
また、現在、再生・細胞医療の取り扱いに関して、薬事法の改正や再生医療新法の制定など、法整備が進められている。免疫療法は患者さん自身の細胞を使う再生・細胞医療の1つでもある。
そのため、法整備が進むにつれ、国内においても開発・普及が加速していくものと思われ、まさに、がん免疫療法新時代の幕開けといえる。
免疫細胞を個別に選択
免疫細胞治療とは、いくつかあるがん免疫療法のうち、患者さん自身の体内にある免疫細胞を採取し、体外で増殖・活性化して再び体内に投与し、がん細胞を攻撃する治療法だ。
治療は基本的に外来通院で行うことができ、副作用も少ないのが特徴となる。免疫細胞には様々な種類があるが、瀬田クリニックグループでは、治療に活用する細胞の種類や培養方法が違う5種類の免疫細胞治療メニューを備え、患者さんの症状やがん細胞の特徴に応じて治療法を選択する「免疫細胞治療の個別化医療」を実現している。
例えば、樹状細胞ワクチン療法には、自己がん細胞感作樹状細胞ワクチン療法、ペプチド感作樹状細胞ワクチン療法、腫瘍内局注樹状細胞療法の3つがある。この「樹状細胞ワクチン療法」は、体内でがん細胞を直接攻撃するTリンパ球に、がん細胞の目印(がん抗原)を教え、攻撃指示を与える免疫細胞である樹状細胞にがん細胞のタンパク質を取り込ませて抗原提示させ、その目印を頼りに、がん細胞だけを集中攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)を効率的に誘導する療法だ。
樹状細胞ワクチン療法を希望する患者さんには、まず、患者さんのがん細胞表面に攻撃目標を出しているかどうかを調べる免疫組織化学染色検査を行う。がん細胞にこの攻撃目標が出ていなければ、目印を記憶したCTLはがんを攻撃することができない。そのため、樹状細胞ワクチン療法が適応とならない場合は、別のより効果が見込める治療法を選択する。
人工のペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法の場合は、樹状細胞が攻撃目標とする目印(ペプチド)が、実際のがん細胞にも発現しているかを確認し適応となるか判断する。
「最近は、診断のための生検や手術で摘出したがんの組織検査をするケースが多い。主治医の元に組織が保存されているため、人工のペプチドを使う際のがん細胞とのマッチングが高精度に調べられるようになった」と神垣さん。
「効果に個人差はあるものの、CTLを高い効率で誘導できた患者さんについては、例えば、肝臓に多発性転移がある悪性黒色腫(メラノーマ)の症例で、樹状細胞ワクチン療法実施後、約半年で腫瘍が完全に消失し、2年後もその状態が維持できているなど、強力な効果を得ている」
積み重ねられる臨床研究
同グループでは、かねてより大学病院などの大規模施設と共同で臨床研究や解析研究等を通じて、より有効な治療法の開発やエビデンスの収集・構築に取り組んでいる。
現在は、大腸がん、多発性骨髄腫、肝細胞がん、膵がんに関する臨床研究を実施しており(図1)、名古屋大学と進めている切除不能の局所進行膵がんに直接、未熟樹状細胞を注入する療法の研究では、5例の患者さんのうち3例で臨床効果がみられ、1例については腫瘍が劇的に縮小するなど、安全性・有効性ともに期待できる結果が得られており、現在はさらに症例数を拡大して研究が進められている。
今後は、免疫抑制を解除する抗体を併用した治療法や、より特異的なリンパ球の作製、NK細胞、ガンマ・デルタT細胞の強さを引き出すことのできる治療法など、完治を目指したより強力な免疫細胞治療の開発も進められるという。
免疫細胞治療は、国内において複数の大学病院でも先進医療として実施され、臨床研究として開発が進んでいる。
一方で、現時点では保険適用になっていないため、多くの民間医療機関で自費診療として提供されている。ただ、法整備が進めば、患者さんにとってより信頼できる治療環境が整い、保険収載への道も開けてくる可能性もあることから、同グループのような臨床研究の取組みはますます重要となってくる。
免疫細胞治療で、効果が期待できるがん種は幅広く、「肺がんに対しては非常に有望であり、胃がん、大腸がん(抗がん薬との併用療法)、肝細胞がん、トリプルネガティブ乳がん、膵がん、明細胞腺がんなど化学療法が効きにくい卵巣がん、悪性黒色腫、腎がんなどに対しては、免疫細胞治療が活躍できる」という。
「患者さんそれぞれの違いを突き詰めていけば、必ず個々の患者さんに適した免疫細胞治療が見つかるはず。免疫療法に関する正しい情報を提供し、どのように標準治療と並行して免疫細胞治療を進めていけば良いかなどのアドバイスもできるので、患者さんには、遠慮なくドアを叩いていただきたい」と神垣さんは述べている。
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