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ステージⅡとⅢの食道がんに放射線減量の化学放射線治療 食道がん治療に切らずに食道温存への期待

監修●浜本康夫 慶應義塾大学医学部腫瘍センター副センター長
取材・文●半沢裕子
発行:2019年8月
更新:2019年9月

  

「食道がんも患者さんがベストのタイミングでベストな治療が受けられる可能性は高くなっています」と語る浜本康夫さん

ステージ(病期)ⅡとⅢ(T4を除く)の食道がんに対し、根治をめざす治療としては、化学療法を行ったあとに手術をする術前補助化学療法が標準治療とされている。そして、手術が難しい場合や希望しない場合には、抗がん薬と放射線を併用して行う化学放射線治療が選択肢となっている。

そんな中、放射線の線量を少なくした化学放射線治療を行い、それでもがんが残ったり、再発した場合には、手術などの救済(サルベージ)治療を行う治療戦略の臨床試験が行われ、好成績が得られた。この治療法の位置づけと今後の可能性について、慶應義塾大学医学部腫瘍センター副センター長の浜本康夫さんに伺った。

QOLを損ねずに治癒が期待できる治療法を求めて

この臨床試験は2014年に登録が終了し、2018年6月に米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次集会で報告された「ステージ(病期)ⅡまたはⅢ(T4を除く)食道がんに対する根治的化学放射線療法+/-救済治療の検証的ランダム化試験」(JCOG0909試験)。

JCOG食道がんグループによる臨床試験で、メンバーの1人である慶應義塾大学医学部腫瘍センター副センター長の浜本康夫さんは次のように語る。

「主要な評価項目である 3年生存率が74.2%と、最初に設定された期待値の55%を上回り、3年食道温存生存率も63.6%です。手術の回避が可能な治療オプションとしては、とても有力だと思います」

さらに「JCOG0909試験が画期的なのは食道がんに効果のある方法を効率的に用い、良い治療に持って行く戦略が綿密に立てられていること」だという。「食道を切除せずに治る人は治り、治らなかった人も速やかに手術に持っていくことで生存率が上がっている」と浜本さんは語る。

実は、この試験に先立つ2つの臨床試験が、この試験のもとになっている。1つは「ステージⅡ・Ⅲ期の進行食道がんに対する放射線化学同時併用療法の第Ⅱ相臨床試験」(JCOG9906試験)。2002年3月に登録が終了し、2008年に総括報告書が出されている試験だ。

当時、日本ではステージⅡ・Ⅲの食道がんに対する標準治療は、手術+術後補助化学療法「5-FU(一般名フルオロウラシル)とシスプラチン(商品名ランダ/ブリプラチン)」だった。しかし、食道は胸部を通る長い臓器であり、しかも食道がんはステージⅠでもリンパ節転移が10~50%起こるとされているため、手術の際には周囲のリンパ節を含め広範囲を切除(郭清)する必要がある。

また、手術により食道がなくなるので、胃や腸の一部を使って代用の食道を再建するが、嚥下(えんげ)が難しくなったり、つなぎ目が狭窄(きょうさく)して食べ物がつかえたりすることも少なくなく、QOL(生活の質)の低下が心配される。そのため、食道を温存できる治療法が待ち望まれていた(表1)。

ちょうどこの時期、欧米では食道がんに対して化学放射線治療が行われるようになり、5年生存率も5割に近づき、QOLを損ねずに治癒が望める治療法として期待が高まっていた。そこで、食道がんに対する化学放射線治療の有効性と安全性を明らかにすることを目的に計画されたのが、JCOG9906試験だった。

JCOG=日本臨床腫瘍研究グループのことで、国立がん研究センター支援センターの支援のもと、日本におけるがん標準治療の確率と進歩をめざし、多施設共同臨床試験を行っている

手術の治療成績に及ばず、標準治療は「術前化学放射線治療+手術」に

JCOG9906試験でがんが消失した割合(完全奏効率:CR)は62.2%、主要評価項目である3年生存率は44.7%、5年生存率は36.8%という結果だった。完全奏効率が60%を超えていることから、この治療法はステージⅡ・Ⅲ(T4を除く)の食道がん患者が手術を希望しない際の選択肢とされた。

しかし、残念ながら手術を上回る治療成績が出せなかったことが、別の臨床試験との比較により確認される。その臨床試験とは2006年2月に登録を終了し、2009年に最終解析が行われた「Ⅱ期およびⅢ期胸部食道がんに対する5-FU+シスプラチン術前補助化学療法と術後補助化学療法のランダム化比較試験(略称、食道がん術前vs.術後化療第Ⅲ相試験)」(JCOG9907試験)だった。文字通り、化学療法を術前と術後に行った場合を比較したもので、結果は術前群が有意に優れていることが判明した。

とりわけ、5年生存率は術前群で55%、術後群で43%という結果で、JCOG9906試験の36.8%が及ばなかったことから、Ⅱ期とⅢ期の標準治療は「術前化学療法+手術」になり、「化学放射線治療」は第1選択ではなく、患者が手術を希望しない場合の選択肢となった。

先行試験を改善し、4割のがん残存や再発例にも速やかに対処

昨年(2018年)ASCOで報告されたJCOG0909試験は、JCOG9907試験で出された「術前化学療法+手術の5年全生存率が55%」という数字を念頭に置きつつ、JCOG9906試験の反省点を改善する形で実施された。

改善された点は大きく分けて2つ。1つは、化学放射線治療でがんが残ったケースや再発したケースでは速やかにサルベージ治療に移行すること、もう1つは放射線の晩期障害を抑えるため、放射線治療の線量を低くしたことだという。

「JCOG9906試験の完全奏効率が6割超という数字は、実は今回のJCOG0909試験の58.5%をわずかに上回っています。しかし、6割でがんが消失したということは、4割にがんが残ったということ。また、がんが消失した6割の患者さんの中には再発する人もいます。前のJCOG9906試験は極論すると、抗がん薬と放射線でがんを治すことを目指したあまり、化学放射線治療のあとの手術(サルベージ手術)をあまり想定していなかった。結果として、サルベージ手術対象の患者さんは26人いたにもかかわらず、実際に手術が行われたのは11人でした。それでも、R0(アールゼロ)切除が可能だった患者さんでは長期生存も期待され、化学放射線治療のあとにサルベージ手術を追加することは有効である可能性が確認されたのです」(浜本さん)

「JCOG9906試験(74例)では放射線の晩期障害も問題になりました。グレード3と4の放射線晩期障害として胸水7例、食道穿孔(せんこう)・狭窄10例、心嚢(しんのう)液貯留12例、放射線肺臓炎3例などが報告されています。また、晩期障害が原因と思われる治療関連死も4例ありました。せっかく残した食道が狭くなり、物が食べられなくなった患者さんもいます」

そこで、次のJCOG食道がんグループとして計画されたJCOG0909試験では、放射線量を減らし、逆に抗がん薬の用量を増やす治療と、がんが残った患者や再発した患者に対するサルベージ治療(内視鏡治療と手術)が治療として計画され、この治療全体の有効性と安全性を評価することが目的とされた。

R0切除=完全切除。治癒切除ともいう。肉眼だけでなく顕微鏡的(組織学的)に見ても腫瘍が取り切れたことを言う

放射線量を60Gyから50.4Gyに減量

では、JCOG0909試験の内容を具体的に見て見よう。まず、対象はステージⅡ・Ⅲ(T4を除く)の食道がんで、初回治療において標準治療(術前化学療法+手術)を希望せず、がんが残った場合や再発時には外科手術を含めたサルベージ治療を希望し、さらに全身状況(PS)がいい人(PSが0〜1)。

治療はまず化学放射線治療を行う。投与する抗がん薬は5-FUとシスプラチンで、投与のインターバルは28日間。5-FUは1クール4日間なので、1~4日目、29~32日目に1,000㎎/1日を投与し、シスプラチンは1日目と29日目に75㎎を投与する。また、放射線は1回の線量1.8Gy(グレイ)を28回(週5日、月~金曜日)照射し、総線量を50.4Gyとする。抗がん薬は放射線治療終了後も追加で行い、同量を28日のインターバルで2コースまで実施する。そして、効果判定の結果により、随時、内視鏡的治療か手術を実施する。

JCOG9906では1回2Gy、30日間、総線量60Gyだったが、晩期障害改善のため、線量が減量された。50.4Gyは、米国の研究グループが行った研究(RTOG94405試験)に基づくもの。5-FUとシスプラチンを併用する化学放射線治療において、64.8Gyの高線量が50.4Gyに対する優位性を示せなかったとする研究だ。そこで、JCOG0909では総線量を50.4Gyに下げることで、放射線障害を軽減する一方、抗がん薬の投与量を5-FUを700㎎から1000mgに、シスプラチンを70㎎から75㎎に増やしている。

登録患者数95人中94人が治療を完了し、3年生存率は74.2%で、期待値として設定された55%よりかなり高く、がんが消えた割合(CR)は全体で58.5%。ただし、がんの深度が浅かった患者では奏効率が高く、T1で78.6%、T2で71.4%、T3で40.0%だった。また、3年食道温存率は63.6%と、6割以上で手術を回避できていた。(図2、3)

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