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若手術者の養成が重要課題に 保険適用になった食道がんに対するダヴィンチ手術の現状

監修●太田喜洋 東京医科大学消化器外科・小児外科医局長
取材・文●伊波達也
発行:2019年8月
更新:2019年9月

  

「患者さんのために今年中にはダヴィンチ手術を再開したい」と語る太田喜洋さん

2018年4月、ロボット支援下手術である「ダヴィンチ」による手術が消化器領域でも保険適用になったことは大きなニュースだった。とくに周囲に心臓、肺という重要な臓器や大動脈などの血管や神経が密集する食道がんの手術では大きなメリットだ。そのダヴィンチによる食道がんの手術を、2010年より先駆けて実施してきた東京医科大学病院消化器外科・小児外科医局長の太田喜洋さんにその現状、メリットなどについて伺った。

厳しい食道がんの手術

食道は直径2㎝、長さ25㎝程度の細長い臓器だ。口で咀嚼(そしゃく)した食べ物を喉から胃へ送るという役割を果たしている。その食道の粘膜に発症するがんが食道がんだ。

食道がんは、60〜70歳代の罹患者数がピークで、全体の69%を占める。男女比は6対1で圧倒的に男性が多い。そして日本では喫煙や飲酒が原因で起こる扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんという組織型が9割以上だ。発症部位は、頸部、胸部、腹部に分かれるが、ほぼ9割は胸部に発症する。

食道はその細長い形状であることに加え、肺、心臓、大動脈、気管などの裏側の、背骨との間の狭い部分にあるため手術は非常に難しい。そして、がんにアプローチして摘出した後、残った食道と胃を繋ぎ合わせたり、大腸・小腸を代用したりの再建術が必要となる。

そのため、がんを摘出するための肋骨脇の胸部のみならず、頸部、腹部も開ける必要があり、これまで大きく切り開く手術が行われてきた。患者にとっては、ものすごく負担を強いられる大きな手術で、呼吸器をはじめとする術後の合併症も4割程度生じるという厳しい手術だった。

開胸手術と胸腔鏡下手術どちらが優れているか比較試験中

しかし近年、患者の体にやさしい手術が普及してきた。胸腔鏡下手術だ。

「複数の鉗子(かんし)を挿入するために6カ所、1㎝程度の小さな穴を開けて行う鏡視下手術が増えてきました。胸部は胸腔鏡や縦隔(じゅうかく)鏡、腹部は腹腔鏡による手術です。頸部は従来どおり開きますが患者さんにとって負担の少ない手術です。進行がんや局所再発に対する救済手術、術前化学放射線療法後の症例など難しい症例を除いては、積極的に実施されています」

そう話すのは、東京医科大学病院消化器外科・小児外科医局長の太田喜洋さんだ。

「鏡視下手術はカメラを挿入することにより術野を拡大視できるため、解剖を詳細に見ながら、しかも手術スタッフが術野の情報を共有できるという大きなメリットがあります。当院は進行がんの患者さんが多いので、食道がんの鏡視下手術である胸腔鏡下手術は6割程度ですが、早期がん患者さんの多い、食道がん手術の症例が多い病院では、8〜9割で胸腔鏡下手術が実施されていると思います」(表1)

胸腔鏡下手術は、傷が小さく、術後の痛みも少なく、術後の早期歩行が可能になる。そのため、血栓ができにくく、肺塞栓症などの合併症が起こるリスクが軽減される。

また、術野が外気に触れないため、感染症や癒着(ゆちゃく)なども回避できるので、患者にとって大きなメリットがあると言われ、入院期間も2週間程度で済む。

一方、胸腔鏡下手術にはデメリットもある。狭い空間の中で鉗子を操作しなければならないうえに、手術器具は棒状で柔軟性がなく直線的な動きしかできないため、操作の自由度が制限される。そのため、場合によっては周囲の臓器や神経を傷つけてしまう危険性もある。

例えば、食道の両側にある反回神経を傷つけて麻痺が起こると、声のかすれ、むせ、誤嚥(ごえん)などの合併症が起こる。重い場合は、呼吸の通り道が塞がり呼吸困難を起こすようなケースもあるという。

現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、「JCOG1409」という試験が行われている。

この試験は、臨床病期(ステージ)Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ期の食道がんの症例を胸腔鏡下手術群と開胸手術群に割り付けて、その全生存期間(OS)を比較するというランダム化(無作為化)比較第3相試験だ。

全生存期間や、無再発生存期間、根治切除割合、周術期合併症発生割合、再手術割合、術後晩期合併症発生割合、術後呼吸機能低下割合、QOL(生活の質)ほかも検証する。予定登録者数は300人で、現在登録期間中だ。

2021年には登録終了予定で、その後5年間追跡し、1年間で解析を行ったあとに、胸腔鏡下手術の非劣性が証明できるかどうかが注目されている。

食道がん手術がダヴィンチで患者にやさしく

そして現在、その胸腔鏡下手術の発展系ともいえる手術が、2018年4月、食道がんでも保険が承認された。内鏡視下手術支援ロボットダヴィンチによる手術だ。ダヴィンチにより、さらに安全で精密な胸腔鏡下手術が期待されている。

そのダヴィンチについて説明しよう。ダヴィンチは、サージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカートという3つの機器に分かれている。

執刀医が患者から離れた位置で、カメラの映像を覗きながら、指で操作するのがサージョンコンソールだ。ここでの執刀医の操作がコンピュータによりペイシェントカートに伝わる。

ペイシェントカートは患者の胸腔内に挿入する鉗子や内視鏡カメラを装着するためのアームの付いているカートだ。ペイシェントカートの周囲にいる手術助手が、鉗子を取り替えたり、さまざまな管理をする。

そして、術野の情報を共有するためのモニターが、光学機の搭載されたビジョンカートで、拡大視、鮮明な3D(立体視)が可能だ。これらの機器を駆使しながら、安全で低侵襲な手術を行っていく(画像2)。

■画像2 食道がんのダヴィンチ手術

「ダヴィンチの一番のメリットは、鉗子の可動性です。7つの関節により、胸腔鏡や人の手でさえ不可能な柔軟な関節の動きができます。モーションスケーリングという機能は、大きな手の動きを小さな鉗子の動きに変えられます。数ミリ単位の動きでも手ぶれをしないように補正することもできます。そして高解像度の3Dカメラにより、10倍程度の拡大視に加えて、立体的に術野を見ることができます。このことにより、組織の層、膜の1枚1枚、臓器の境目などがよく見えますので、狭い空間での操作がやりやすく、より安全で確実な手術ができます。したがって、合併症を少なくすることができますし、患者さんの術後の回復も早いです」

デメリットについては、「触覚がない点ですが、ある程度の経験を積んだ術者であれば、視覚が触覚に変わる感覚が得られ、それほど支障を感じないと思います。また機器のセッティングなどで胸腔鏡下手術より30分くらい多く時間がかかりますが、定型化を図ることにより短縮は可能です。今、最も問題なのはコスト面で、病院の持ち出しになっています」

ダヴィンチは、まだ実施年数が浅い治療であるため、全生存期間など延命に関わるような長期成績に対するエビデンス(科学的根拠)は明確ではないが、短期成績を見たところでは、出血量、合併症などにおいて優越性があることを、ダヴィンチを実施する医師の多くは実感しているようだ。

さらに、先述の「JCOG1409」の試験で、胸腔鏡下手術の非劣性が証明できれば、その発展系であるダヴィンチの有用性はさらに明確になりそうだ(画像3、4、5)。

■画像3 上縦隔操作中
■画像4 左反回神経周囲リンパ節を郭清している
■画像5 食道を離断しているところ

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