IMRTを超える最新技術で、高い治療効果と軽い負担
放射線治療に新たな可能性を開くVMAT

監修:中川恵一 東京大学病院放射線科准教授
取材・文:常蔭純一
撮影:向井渉
発行:2008年6月
更新:2013年4月

  

リニアックを回転させながら放射線照射

写真:盛況を博したセミナー会場
盛況を博したセミナー会場

写真:座長を務める金沢大学放射線科の高仲強さん
座長を務める金沢大学放射線科の高仲強さん

「VMATの導入で欧米の先端放射線治療システムに匹敵する効果が、ごく短時間の治療で得られようとしています。これにエレクタ・シナジーを用いた、治療時のCT撮影システムを組み合わせることで放射線治療は新たな1歩を踏み出すことになるでしょう」

2008年4月6日、パシフィコ横浜で第67回日本医学放射線学会総会が行われ、ランチョンセミナーで東京大学医学部付属病院放射線科准教授の中川惠一さんが「エレクタ・シナジーによるIGRTとVMATの臨床応用と将来展望」と題する講演を行った。

IGRT(Image Guided Radiation Therapy)は、イメージガイド下放射線治療と訳されるように、コンピュータやCT技術を用いて患部を画像で捉えて行う放射線治療のこと。VMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy)は、がんの形状に合わせた照射を行うために、リニアックと呼ばれる放射線照射装置を回転させながら放射線照射を行う最新技術だ。現在、欧米ではIMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy=強度変調放射線治療)と呼ばれる照射方法が主流になっているが、こちらはリニアックを静止した状態で多方向から放射線を照射する技術だ。さらに、シナジーというのは、リニアックにCTを搭載した最新の治療システムで、エレクタ社の製品名である。

これらは、具体的にどのような治療システムで、放射線治療はどう変わるのか。セミナー後、中川さんに改めて取材した。

わずか2分で治療終了

写真:講演に熱がこもる東大の中川恵一さん
講演に熱がこもる東大の中川恵一さん

まずVMATについて、中川さんはこう語る。

「日本で発達した原体照射、さらに打ち抜き原体照射(原体照射に正常組織を遮蔽して腫瘍部分だけを放射線で打ち抜く技術)の延長線上にある最新鋭技術で、この技術を用いるとごく短時間で放射線治療ができます。そのために高い治療効果が得られ、患者さんの負担もずっと軽くなる利点があります」

現在、欧米で主流になっているIMRTは、多くの場合、リニアックが5段階、72度ごとに静止させて放射線を照射する。これに対してVMATでは、前述したようにリニアックを回転させながら、放射線を照射していくのだ。もちろん照射角によっては、正常な臓器が照射範囲に入ることもある。たとえば放射線治療が有効な前立腺がんの場合では、直腸が照射野に入ることが少なくない。その場合、前述した「打ち抜き原体照射」技術によって直腸への照射を回避されるのだ。

「CTによって腫瘍と臓器の位置があらかじめ記憶されており、その記憶情報に合わせてリーフという遮蔽板によって照射野が自動的に調整されるのです」(中川さん)

また、CTで得られた臓器情報を用いた「逆計画システム」により、照射角度によって放射線の照射線量が最適化されているのもこのシステムの特長のひとつだ。

こうした技術によりVMATでは、きわめて高精度かつ均一な放射線照射が、従来とは比較にならない短時間で行われる。IMRTでは1回の照射に10~15分ほど要するが、VMATを用いると、わずか2分で終了する。このことは患者にとっても、また医療者にとっても、きわめて重要な意味があると中川さんはいう。

「短時間で治療が終了することは、それだけ患者さんの負担が軽くなることを意味しています。また放射線治療の効果は、がん細胞を免疫細胞によって攻撃されやすい状態にすることにありますが、照射に時間がかかると、がん細胞が治療前の状態に戻ってしまうリスクもあります。見方を変えると、治療時間を短縮化すれば、それだけ放射線の効果も高められるのです。さらにもうひとつ、当然のこととして照射時間が短縮されることでより多くの患者さんを治療できるメリットもあるのです」

一般的に日本では、医療現場での理工系マンパワーが手薄で、そのためにデータ解析技術の治療への導入が遅れているが、このシステムには、そうした日本の放射線治療の弱点を克服する利点もあるという。

患者に合わせた高精度の治療計画を実現

さらにエレクタ・シナジーを用いたIGRTでは、このVMATの治療効果をさらに高める機能も用意されている。

このシステムには治療時に患部をCT撮影するシステムも含まれており、その撮影に用いられる機器が治療に用いられるリニアックと90度のポジションに設置されている。こうしてリニアックと同じように回転しながら、低線量のX線ビームを照射して治療直前の患部のCT画像を撮影するしくみだ。

中川さんの最近の研究によれば、この画像撮影システムによって治療中でも治療前とほとんど変わらない鮮明な画像が得られ、その効果として、より高精度の放射線治療プランを構築できるという。

「患部の状態変化を見ることで、照射範囲の微調整が行えるなどのメリットがあります。たとえば患者さんはごく短時間の治療中にも無意識のうちに体を動かすことが多く、そのことで照射が微妙にずれることも少なくない。そうした場合にこのシステムを活用すると、患者さんの体の動きに合わせた照射を実現できるのです」(中川さん)

またこのシステムで得られた画像情報を解析して治療に役立てることもメリットのひとつといえるだろう。その1例として中川さんは、肺がん患者の治療中の画像情報から、その患者の呼吸曲線の再現にも成功している。

このように新たな放射線照射技術には、これまでにないさまざまなメリットがともなっている。中川さんによると、遅くとも今夏までにはこれらのシステムを臨床にも活用する予定だという。

「このシステムは原則として、あらゆるがんに適用が可能です。当面は前立腺がんや頭頸部がんが治療対象になりますが、将来的には肺がん治療などにも応用できればと思っています」

すべてのがん患者にとって、この東大発、日本発の放射線技術が朗報になることを願いたい。

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