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がん病巣を追尾しながら照射する究極のピンポイント治療
動体追跡照射で肺がんなどに大きな効果

監修:白土博樹 北海道大学病院放射線部助教授
取材・文:菊池憲一
発行:2005年10月
更新:2013年4月

  

白土博樹さん
北大病院放射線部助教授の
白土博樹さん

肺がんや肝臓がんなどの腫瘍は、息を吸ったり、吐いたりするたびに動いて、その位置が変わる。横隔膜の近くにできた肺がんだと3センチもの振幅があるといわれる。前立腺がんなどの腫瘍は、腸が便を押し出そうとする動きに伴ってその位置が変わる。そのため、例えば直径1センチの肺がんで呼吸のたびに左右に1.5センチの振幅がある場合、腫瘍を含む4センチ程度に放射線を照射しなければならない。照射する範囲が広くなると、肺組織の耐えられる放射線量(耐用線量)を下げなければならない。その結果、腫瘍に照射できる放射線量が少なくなり、治療効果は弱まる。これまで、放射線治療は、肺がんなどの動く腫瘍にはあまり有効ではなかった。しかし、腫瘍の動きに合わせて放射線を腫瘍だけに集中して、たくさん照射することができれば、治療効果を向上できる。

北海道大学病院放射線部助教授の白土博樹さんは、98年頃、肺がんなどの動く腫瘍に対してピンポイントで放射線を照射する「動体追跡装置」を世界で初めて開発し、99年頃から臨床応用を始めた。

金マーカーを目印に動きを追跡

[直径2mmの金マーカー]
直径2mmの金マーカー

白土さんは、長年、脳腫瘍の放射線治療に取り組んできた。放射線治療装置(リニアック)を用いた治療では、照射する場所がずれないように、患者の頭部をヘッドギアのようなリングで固定し、リングの中心につけた目印を用いて照射する。照射する場所が固定されるため、ねらった場所にかなり正確に照射できる。

白土さんは、脳腫瘍に対するリニアックの治療法を動く腫瘍にも応用できないかと考えた。試行錯誤の結果、患者の身体内の動く腫瘍近くに金マーカーを埋め込んで、その金マーカーを目印にして放射線治療を行うという方法を思いついた。

「ある一瞬、例えば0.03秒ごとに腫瘍が止まっていると考えて、腫瘍近くの目印の金マーカーをねらって照射すれば、腫瘍だけに集中的にたくさんの放射線をかけることができる。治療効果も高まるはずだ」と白土さんは考えた。

この装置の開発に国内の大手電気メーカーが協力を名乗り出た。そのメーカーはロボット開発で実績を持ち、パターン認識というコンピュータ技術を持っていた。その技術を放射線治療に応用した。あらかじめコンピュータに金マーカーの形をパターン認識させておいて、その形を見つけたときだけ、放射線を照射できるような治療装置の開発をめざした。それが動体追跡装置である。

白土さんは、99年頃に、この動体追跡装置に強度変調放射線治療(IMRT)を組み込んだ「動体追跡強度変調放射線治療」を世界で初めて開発し、肺がんなどの動く腫瘍に対して治療効果を飛躍的に上げている。

痛みもなく1A期の肺がんが消失

肺がんへの照射風景
肺がんへの照射風景
放射線治療操作室
放射線治療操作室

動体追跡強度変調放射線治療の治療室を訪ねてみた。通常の放射線治療室とほとんど同じだ。中央には360度に回転しながらあらゆる角度から放射線を照射できるIMRT装置と患者用のベッドがある。通常の放射線治療室と異なるのは、天井に備え付けた2つのX線透視装置である。このX線透視装置も天井に円を描くようにぐるりと回転できるように設計されていて、あらゆる角度から患者の身体に埋め込まれた金マーカーを透視できるという。

「治療用のX線を照射しながら、透視装置から診断用のX線を当てて画像を見ながら治療を行えるのが特長です」と白土さんは言う。

具体的なケースで治療の流れをみてみよう。

Aさん(70歳代、女性)は、約1年前、胸部レントゲン写真で異常が発見された。3カ月後、PETで精密検査をした結果、非小細胞肺がんの腺がんでステージ1Aと診断された。Aさんは手術ではなく、動体追跡強度変調放射線治療を選択した。

今年1月に入院。呼吸器内科で胸腔鏡を用いて2個の金マーカー(直径1.5ミリ)を約4センチの肺の腫瘍近くに埋め込んだ。放射線部では白土さんがCT画像などをもとに治療計画を立てる。その後、放射線治療品質管理士がAさんの肺がんの模型を作成し、その模型に治療計画中の放射線量を実際に照射してコンピュータ解析し、予定通りの照射ができるかどうかを確認する。金マーカーの埋め込みから治療計画の作成、検証試験を終えるまで14日ほどかかる。Aさんには1日1回、週4日で、1回12グレイずつ合計48グレイの放射線治療の計画が立てられた。

Aさんが放射線治療室のベッドに横たわると、天井に備え付けられたX線透視装置が2個の金マーカーの動きをキャッチして、治療装置がセットアップされる。治療室の隣のコックピットのような治療操作室には10個のモニターが並んでいる。白土さんは主に動体追跡装置のメイン画面と電子カルテのモニター、2人の放射線専門技師は治療装置のモニターを見ながら、1個の金マーカーを目印に、治療計画を確認しながら照射を行う。

[肺がんに対する治療効果]
肺がんに対する治療効果

非小細胞性肺がんステージT2の患者に対する照射。治療後には明らかに病変が縮小している

10方向からあらかじめインプットされた状況に金マーカーがピタッと合ったときだけ、1秒間に30回のスピードで放射線が照射される。治療室と治療操作室には「ピッピッピッ……」という照射音が鳴り響く。治療時間は通常、15~30分程度。治療中、Aさんは「何も感じなかった」という。現在、画像上で肺の腫瘍の消失が確認され、放射線による障害もまったくない。経過はきわめて順調だ。

これまで、Aさんのような肺がんのステージ1Aに同じスケジュールで20例以上実施。再発例は1例のみ。健康保険適用もある。さらに、最近では肺がんのステージ1B、2、3の治療にも取り組み始めた。

化学療法後の照射で3B期の肺がんも治療可能

Bさん(60歳代、男性)は、半年前に非小細胞肺がん(扁平上皮がん)のステージ3Bと診断されて、化学放射線治療を受けることになった。約4カ月間、パラプラチン(一般名カルボプラチン)とタキソール(一般名パクリタキセル)の併用療法で、肺がんは72パーセント縮小。

化学療法後、Bさんは動体追跡強度変調放射線治療を受けた。この治療を受けるために、Bさんは呼吸器内科で、腫瘍と食道の近くに1個ずつの金マーカーを埋め込んだ。食道近くに金マーカーを埋めたのは、このマーカーを目印にして食道への照射線量を下げて、食道炎などの放射線障害を防ぐためである。

照射する場所は、化学療法を受ける前にあった腫瘍の大きさ、縦14センチ、横12センチほど。外来通院で、1回2グレイずつ、合計66グレイまで照射した。

「これまで、このサイズの肺がんとリンパ節領域両方に対して60グレイを超える放射線を照射することは困難でした。しかし、Bさんの場合、動体追跡強度変調放射線治療では肺体積に換算すると通常の放射線治療よりも30パーセントも放射線量を減らせます。そのため、合計66グレイの照射も可能となり、治療効果も期待できます。動体追跡強度変調放射線治療は肺がんのステージ2、3で手術や化学療法のできない患者さんに希望が持てる治療法だと思います」(白土さん)

肺がんのステージ2、3には3例実施。すべて良好な経過をたどっている。

北大放射線部では肺がん以外には前立腺がんに30例以上、手術のできない単発の肝臓がん、食道がん、頭頸部がん、腎臓がんなどを対象に動体追跡強度変調放射線治療を実施中だ。「5年生存率など詳しい臨床成績は集計中ですが、この放射線治療に非常な手応えを感じています。とくに、放射線治療の副作用の減少は顕著です」と白土さんは自信を深める。

最重要視される放射線治療の品質管理

治療チームのカンファレンス
治療チームのカンファレンス

また、北大放射線部では動体追跡強度変調放射線治療を安全に推進するために、「放射線治療品質管理」を徹底している。放射線部には白土さんを含む常勤放射線腫瘍医5名、非常勤放射線腫瘍医4名、放射線腫瘍学大学院生4名、放射線治療専任技師8名、放射線治療品質管理士1名、医工学研究生1名などがチームで治療に取り組んでいる。週1回午前中、放射線部のスタッフと他科の医師、看護師などが参加して、カンファレンスが開かれる。動体追跡強度変調放射線治療を受ける場合、その治療内容はすべてカンファレンスで検討される。参加者の意見を参考に、治療計画の変更や微調整を行うことも少なくない。Aさん、Bさんの治療計画や放射線量などもこのカンファレンスで各専門分野の多くのスタッフの目を通過して、治療に至っている。

白土さんは「放射線装置が高度化し、複雑になるにつれて、放射線治療の品質管理が重要になっています。実際に照射された線量が治療計画と5パーセント以上違っていれば、装置の優劣など吹き飛んでしまいます」と強調する。

昨年10月、放射線治療関連の学会・団体の呼びかけで、放射線治療の安全管理体制の確立を目的に、放射線治療品質管理士制度が創設された。すでに、資格取得した放射線治療専門技師なども数多い。しかし、資格を持つ1人の技師が診療も品質管理もこなす体制では、いままでと同じである。

「放射線治療を受ける場合、その施設の放射線治療装置だけでなく、安全管理体制がどうなっているのかについても、もっと目を向けてほしいと思います。今後、放射線治療品質管理部や管理委員会の有無は、安全管理の目安の1つになるかもしれません」と白土さんは言う。

北海道大学の研究戦略室は、北大病院を高品質管理放射線治療のモデル病院とし、放射線治療品質管理士を養成する構想に、重点配分経費を計上した。医学部だけでなく、工学部などが協力して白土さんらをバックアップしていくことになった。

[動体追跡強度変調放射線治療を実施中の代表的な医療機関名]
北海道大学病院(札幌市) 011-716-1161
NTT東日本札幌病院(札幌市) 011-623-7000
北里大学病院(神奈川県相模原市) 042-778-8111
相模原協同病院(神奈川県相模原市) 042-772-4291
福井県立病院(福井県福井市) 0776-54-5151
山口大学病院(山口県宇部市) 0836-22-2111

上で紹介したAさん、Bさんの治療内容は、プライバシー保護のため、実際の治療内容とは異なります。

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