さまざまな治療方法を駆使して根治を目指す 食道がん治療、その選択のカギは?
食道がんの治療では初発であっても再発であっても、可能な限り根治を追求する。そこには、手術、抗がん薬、放射線とさまざまな方法が用いられるが、根治を目指すためには、これらの治療方法をどのように選択し、組み合わせていけばよいのだろうか。
患者さんを悩ませる治療選択
食道がんは進行が早く、転移や再発を起こしやすいがんといわれる。手術は、がんを取り除く上で、確実な方法であるが、「できることなら手術を受けたくない」と願う患者さんもいる。
その一方で、「抗がん薬と放射線治療を組み合わせた化学放射線療法により、手術をしないですむこともある」ともいわれる。さらに、食道がんに対して化学放射線療法を受け、がんが消えたというような話も報道されるなど、情報は溢れ、どのような治療が最善なのかと迷う患者さんは増えている。
そこで、手術でがんを取り除くことが可能なⅡ~Ⅲ期の食道がんを中心に、食道がんの治療法にはどんなものがあり、患者さんはどう選択したらいいか整理してみよう。
Ⅰ期の場合は手術単独が標準的治療であり、Ⅱ~Ⅲ期はより進行しているので、術前化学療法+手術が標準的治療である。
国立がん研究センター東病院消化管内科の小島隆嗣さんはいう。
「食道がんの治療には内視鏡治療、外科手術、化学療法、放射線治療や、これらを組み合わせた治療があります。
病気の進行度や患者さんのお体の状態などにより、それぞれの患者さんに最も適切と思われる治療が行われます。食道がんの場合、臨床試験、臨床研究で得られたエビデンス(科学的根拠)に基づいたガイドラインがありますので、治療選択に迷った場合には主治医の先生にガイドラインではどのようになっているのかなど聞いて参考にされることをお薦めします」
ガイドラインとは『食道癌診断・治療ガイドライン 2012年4月版』のこと。「この病期、このお体の状態の患者さんにはこの治療が推奨される(標準的治療)」という内容が、臨床試験の結果などをもとに日本食道学会で検討され、作成されている。
基本は術前化学療法+手術
食道がんの病期はがんの広がり(T)、リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)によって、0~Ⅳ期に分けられる。手術が可能なⅡ~Ⅲ期とは簡単にいうと、がんが食道粘膜より深いところに及んでいるが食道周囲の臓器には浸潤していないケースや、がんそのものは食道粘膜近くにとどまっていても、リンパ節に転移が見られるケースなどを指す(図1)。小島さんは説明する。
「Ⅱ~Ⅲ期の食道がんの状態では、外科手術でがんを取り除くことが可能であり、外科手術が標準的治療です。とくに手術前に化学療法を行うことで、さらに治療効果が高まることがわかり(図2)、化学療法を行った後に外科手術を行う「術前化学療法+外科手術」が標準的治療となります。一方でがんが大きいために食事が食べられない、心臓や腎臓にご病気がある、ご高齢であるなど化学療法を行うに際して問題となるような要因をお持ちの患者さんは、まず手術でがんを切除し、術後に化学療法を検討します。
食道を残すことを希望されている患者さんや、最初の治療として外科手術を希望されない患者さん、手術のリスクが高くなるような患者さんには化学放射線療法も選択可能です」
手術は食道とまわりのリンパ郭清が基本
前述したように、手術はがんを取り除く上で、確実な方法である。手術は食道を切除し、周りのリンパ節を取り除き、さらに胃や別の消化管を用いて新たに食べ物が通る道を作るような、大がかりな手術であるため身体への負担は大きく、また手術の後で合併症が起こる可能性がある。
患者さんは化学放射線療法も希望したくなるが、小島さんはいう。
「化学放射線療法の利点は①食道を残すことができる可能性があること、②外科手術のように胸や腹部を切らないので、体への負担が比較的少ないことです。化学放射線療法で使われる抗がん薬は5-F Uとシスプラチンの2種類が一般的です。化学放射線療法の後にがんが残ったり再発した場合には、がんを完全に取り除くことを目指して内視鏡治療や手術などの救済治療を行うことが検討されます。問題点としては、①化学放射線療法を受けたあとに行う救済手術は、通常の手術と比べると合併症が増えること、②化学放射線療法を受けたあと、時間が経過したあとに起こる副作用(晩期有害事象)があります。JCOG0909とよばれる試験では、このような患者さんが受ける、救済治療での合併症や晩期有害事象について検討が行われています。
治療中は白血球減少、貧血などの骨髄抑制、食欲不振・吐き気、食道炎・粘膜炎、倦怠感、脱毛、肝機能障害、腎機能障害などに注意が必要です。晩期有害事象としては、治療が終わってから時間が経過(数カ月~数年後)したあとに胸水や心嚢水や肺炎などの副作用を伴うこともあります。化学放射線療法もリスクのない治療ではありません。さまざまな条件をよく考え、納得して治療法を選択することが大切です」(図3)
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