治療成績を向上させるための様々な工夫 食道がん化学放射線療法後のサルベージ食道切除術

大幸宏幸さん
食道がんの化学放射線療法を受けたものの、がんが残ってしまった場合(遺残)や、いったん消失した後に再発した場合には、サルベージ(救済)食道切除術が行われることがある。この手術は合併症が起こりやすく、死亡率も高いことが知られている。治療成績を少しでも向上させるため、化学放射線療法の改良に加え、手術の手技にもいろいろな工夫が加えられている。その現状を専門医にうかがった。
体への負担が大きい食道がん手術
食道がんの手術は、体への負担が大きいことが知られている。胸腔を開けて食道を切除し、腹腔を開けて胃で管を作り、それを喉(のど)まで吊り上げて、残った食道につなぐ。非常に大がかりな手術で、合併症発生率が高く、かつては手術による死亡率も高かったという。
そうした背景もあり、食道がんに対する化学療法と放射線療法を併用する根治的化学放射線療法(dCRT)が開発されると、広く行われるようになって行った。国立がん研究センター中央病院・東病院食道外科長の大幸宏幸さんによれば、一時代を画した治療法だったという。
化学放射線療法後に手術が必要になることが
「手術よりも侵襲が少ないということで、化学放射線療法が広く行われるようになったのです。ところが、それだけではがんが消失しないケースや、いったん消失しても再発してくるケースなどがあり、そういった患者さんたちに手術が必要になってきたのです」
こうして行われる手術がサルベージ(救済)食道切除術である。
「化学放射線療法が登場した頃は、手術と化学放射線療法の治療成績は同等と言われていましたが、その後、JCOG9907とJCOG9906という2つの臨床試験が行われ、化学放射線療法よりも、手術と術前化学療法を組み合わせた治療のほうが高い生存率を示すことが明らかになっています」
どちらもステージ(病期)ⅡとⅢの食道がんを対象にした試験で、JCOG9907では「手術+術前化学療法」と「手術+術後化学療法」の比較が行われている。JCOG9906は化学放射線療法の治療成績を調べた試験である。
「手術を中心に術前化学療法を加えた場合の5年生存率は55%ですが、化学放射線療法の5年生存率は37%に止まっています。こうしたデータから、現在では、術前化学療法と手術が標準治療となっています」
ただ、治療成績に差はあっても、どうしても手術は受けたくないという患者はいるし、手術が難しい患者もいる。そういった場合の選択肢として、化学放射線療法は必要である。そして、化学放射線療法が行われる以上、一定の確率でサルベージ食道切除術が必要になってくるのである。
化学放射線療法の内容を変更
化学放射線療法を行えば、どうしてもサルベージ食道切除術が必要になるケースが出てくるが、この手術の治療成績は極めて悪かった。
「食道がんの手術は、通常の手術でも合併症率が40%程度あります。化学放射線療法後のサルベージ食道切除術になると、当然それよりも悪く、合併症が起こる割合は60~80%という高さになってしまうのです。手術による死亡も、通常の食道がんの手術では1%以下ですが、サルベージ食道切除術だと18~20%になります」
こんなにも成績が悪いのは、放射線の照射の仕方に問題があるのではないかということになり、そこを改善することになった。それまでの化学放射線療法では、前後対向2門で計60Gy(2.0Gy×30日)を照射していた。当然、肺にも心臓にも多くの放射線が照射されるため、副作用として強い肺毒性と心毒性が現れていたという。
「放射線曝露による晩期毒性も問題で、化学放射線療法でがんは消失したものの、放射線の晩期毒性で死亡するといったケースもありました」
そこで、肺毒性や心毒性を減らすために、放射線療法を周囲の複数の方向から照射する3次元多門照射にし、照射する線量も50.4Gy(1.8Gy×28日)に減らした。
その代わりに、抗がん薬の量は増やしている。*5-FUと*シスプラチンの2剤を併用するのは同じだが、投与量を5-FUが1,000㎎/㎡、シスプラチンが75㎎/㎡に増やしたのだ。
「新しい放射線の照射量と抗がん薬の投与量は、グローバルスタンダード(世界標準)です。この変更によって、化学療法と放射線療法を行っているときの毒性も減りましたし、晩期毒性もかなり軽減されてきました」
それでいて治療効果は変わっていないので、効果を落とさずに有害事象(イベント)を減らせたことになるという。
*5-FU=一般名フルオロウラシル *シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ
手術対象となる条件
食道がんの化学放射線療法を行ったが、がんが遺残してしまった場合、あるいはいったんよくなったが再発してきた場合には、サルベージ食道切除術が行われることがある。この手術の対象となるのは、①手術することで社会復帰する可能性がある、②手術に耐える体力がある(耐術性)、③完全切除を目指せる-といった条件を満たしている場合だという。
ただ、放射線を照射した後で行う手術なので、治療成績がよくない上に、前述したように合併症が起こりやすく、死亡率も高かった。これをなんとか改善しようと、いろいろな工夫が試みられてきた。
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