『胆道癌診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂 胆道がんの最新標準治療
胆道がんは、患者さんの数が少ないがゆえに、治療に関するエビデンス(科学的根拠)も少ない。今回、そんな胆道がん治療の拠り所となる『胆道癌診療ガイドライン』が6年ぶりに改訂される。それを受けて胆道がんの標準治療はどう変わるか――。
最新ガイドラインに採用された、グレードシステム
「胆道がんは、患者さんの数が少なく、治療についての研究は多くなされていません。それゆえに論文やエビデンスが少ないというのが、胆道がん治療の弱点です。
そこで今回、6年ぶりに改訂される『胆道癌診療ガイドライン』第2版では、グレード*(GRADE)システムという方法を用いて作成しました(図1)」と制作委員長である千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授の宮崎勝さんは話す。
「通常、臨床で用いられる治療ガイドラインは、論文のエビデンスレベルを元にして作成されます。しかし胆道がん治療ではそのエビデンスが少ないために、ガイドラインを作成する判断材料に欠けています。グレードシステムは、それぞれのエビデンスを決定する際に、その元となる論文の研究形式、すなわち前向き臨床試験なのか症例研究なのかといった形式だけでなく、その内容にまで踏み込んでレベルを決めていきます。その上で、各クリニカルクエスチョンの推奨を、また推奨度の決定にはエビデンスレベルだけではなく利益と害のバランス、患者さんの嗜好性、コストパフォーマンスまで考慮して行い、『~を推奨する、または~を提案する』といった2段階に集約し、推奨が読者によりわかりやすくなるようにする方法です。
ガイドラインは通常、外科医が中心となって作成しますが、今回の作成には放射線科医、内科医、腫瘍内科医などを増やして討論を行い、70%以上の同意が得られたものを採用しました」
このグレードシステムという方法はまだ新しく、欧米でも始まったばかりだという。
「今後はほかのがん種のガイドラインでもグレードシステムに代わっていくのではないでしょうか」
*グレード(GRADE)システム=エビデンスの質と推奨の強さを系統的にグレーディングするアプローチ
診断ではCTの有用性を強調
胆道がんが見つかるきっかけとなる症状としては、がんが大きくなって胆汁の流れが停滞して起こる黄疸や、胆管・胆のうの炎症で誘発される右上腹部痛が多い。とくに胆管がんの多くの患者さんは黄疸を併発している(図2参照)。
診断には血中の特定成分の値で目安をつける血液生化学検査や腫瘍マーカー検査、そして画像検査の腹部超音波、CT*、MRI*検査などがあり、主に超音波による診断法が用いられていた。今回の改訂では、診断法としてCTの使用が強調された。
「CTによるより薄い断層撮影が可能となったため、胆道がんの診断に有用性が認められました。したがって、胆道がんの疑いがある場合は、黄疸の症状があったとしてもまずCT撮影を行い、胆道がんの進展範囲を確認することが強調されています。その際、胆道ドレナージ(管を挿し入れて溜まった胆汁を流し出す)よりも先に行うことが重要です。ドレナージを先に行うと画像が見えにくくなってしまうのです」
*CT=コンピュータ断層撮影 *MRI=核磁気共鳴画像法
黄疸の対処は?
胆道がんの初期症状である閉塞性の黄疸が長く続けば続くほど、肝細胞がダメージを受ける。したがって、手術ができるかどうかに関わらず、まず停滞している胆汁のドレナージを行い、黄疸症状を減じる 〝減黄処置〟を行ってきた。
ところが欧米では1980年代頃からこの胆道ドレナージによる減黄処置を術前に行うべきかどうかしばしば疑義が唱えられ、無作為化比較試験が行われた。その結果、術後の合併症発生率、死亡率には差がなかったとして胆道ドレナージに対して否定的な意見が多く見受けられるようになった。「この欧米の姿勢をガイドラインではどう扱うかが問題になった」と宮崎さんは言う。
「欧米の報告ではそもそも胆道ドレナージによる治療合併症の発生率が極めて高く、日本のように技術が高くないのですね。また無作為化比較試験の対象となった手術内容も、バイパス手術などの症状を取り除くための姑息的な手術法が大部分で、日本で行われる根治を目的とした大きな手術はほとんど行われていません。したがってこれをそのままわが国のガイドラインに受け入れるわけにはいかず、第1版のガイドラインでは、黄疸症状がある患者さんの術前胆道ドレナージは、推奨度Bの『必要である』としたのです」
第2版でも術前の胆道ドレナージは必要というスタンスに変わりはないが、方法に変更があった。
胆道ドレナージにはいくつか方法がある。代表的なのは皮膚に穿刺して開けた孔から管を挿し入れる経皮経肝胆道ドレナージ、内視鏡的に十二指腸乳頭部から管を挿し入れる内視鏡的胆道ドレナージだ(図3)。
第1版では、閉塞部位に関わらず、いずれを用いてもよいとされていたが、第2版では内視鏡的な処置が第1選択として推奨される。
「皮膚を介したドレナージでは菌感染などのリスクが高くなるというエビデンスが出てきたために、内視鏡的な処置が第1選択となりましたが、皮膚を介した方法が否定されたというわけではありません。胃を切除していて内視鏡の挿入が難しかったり、また管を2本入れてドレナージを行わなければならない場合などは、経皮的処置が選択されます」
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