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適切な症例選択で開腹手術と遜色のない治療が

安全性と根治性を備えた肝胆膵領域の腹腔鏡下手術

監修●本田五郎 がん・感染症センター都立駒込病院肝胆膵外科医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年10月
更新:2019年7月

  

「適応症例の明確化、手術手技の標準化が安全な手術としての普及につながると考えます」と語る
本田五郎さん

胃がんや大腸がんに比べ、普及が遅れている肝胆膵領域の腹腔鏡下手術。腹腔鏡下手術用に開発された新しい手術器具が登場したことで、手術に要する時間は開腹手術に比べて長くなるものの、適切な症例を選ぶことで、安全性や根治性において、開腹手術と遜色ない結果を残せるようになっている。肝胆膵がんにおける腹腔鏡下手術の現状について、専門家に伺った。

新しい医療器具の登場により 開腹手術と同じことが可能に

腹腔鏡下手術が広く行われるようになっている。腹壁に数カ所の小さな孔を開け、そこから腹腔鏡と手術器具を挿入する。そして、腹腔に二酸化炭素(炭酸ガス)を入れて膨らませ、内部を映し出したモニターを見ながら、手術を行うという方法である(写真1)。

写真1 手術中の様子

がん医療の分野でも、胃がんや大腸がんなどの手術は、腹腔鏡下で行われることが増えてきた。肝胆膵領域でも行われているが、胃がんや大腸がんの腹腔鏡下手術ほどは普及していない。

がん・感染症センター都立駒込病院の肝胆膵外科では、腹腔鏡下手術にも意欲的に取り組んでいるが、この手術を行うようになったきっかけについて、同科医長の本田五郎さんは次のように語っている。

「腹腔鏡下手術用の新しい手術器具が開発されたことが大きいです。腹腔鏡下手術が安全にできるかどうかを判断する大事な基準は、開腹手術で行うのとほぼ同じことが、腹腔鏡下でも行えるのか、ということだと思います。私はそういう基準で判断していますが、腹腔鏡下手術用の新しい器具が登場してきたことで、これなら安全にできると判断しました」

新しい器具とは、例えばシーリングデバイスだという。ある程度までの太さの血管であれば、数秒挟むだけで結紮したのと同じ状態になり、切断もできる器具が登場したのだ。血管の結紮は、腹腔鏡下ではものすごく時間がかかるが、これを使えばスピードを落とさずに手術できる。こうした医療器具の進歩で、肝胆膵領域の腹腔鏡下手術は、一部の医療機関で行われるチャレンジングな治療ではなく、一般的な治療として行われるようになってきた。

「初めて行われたのはもう20年前くらいになりますが、普及し始めたのは、肝臓の手術が8年ほど前から、膵臓では、膵体尾部切除が10年ほど前から、膵頭十二指腸切除は4年ほど前からです」

傷が小さいことで 手術直後の元気さが違う

腹腔鏡下手術と開腹手術には、どのような違いがあるのだろうか。

「切開する大きさが違います。肝臓の開腹手術を行う場合、肝臓は大きな臓器ですし、それが肋骨の中に入っているため、かなり大きく切開する必要があります。当院で右葉側の手術を行うときは腹部を縦に切開しますが、へその下まで切らないと肝臓の手術はできません。一般的には腹部を横に切り、脇のほうまで30~40㎝ほど切開します(写真2)。肋骨の間を切り、肋骨を開く方法もあります。左葉側の手術では、お腹の中央付近の手術ですので、比較的小さな切開でも可能なことがあります。腹腔鏡下手術なら、5~15㎜の穴を5カ所ほど開けるだけです」(写真3)

写真2 開腹術創
写真3 腹腔鏡下手術創
表4 腹腔鏡下肝切除後の経過

痛みは患者さんの感じ方にもよるし、切った部位にもよるので、一概には言えないが、手術後の患者さんの状態には、大きな差があるという。

「あくまで印象ですが、手術を終えた患者さんのくたびれ方が違います。開腹手術では大きく切開して、筋肉が引っ張られたりしますから、それだけ体力的な侵襲があるということでしょう」(表4)

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