がんと食事7
前立腺がんの食事 タンパク質の摂り過ぎに注意!「お弁当箱」の配分をお手本に
中濵孝志さん
前立腺がんの治療後の食事には、特定の制限はない。しかし、中高年の男性に多発するがんであるため、食事の管理は重要である。
前立腺のしくみ
前立腺は、精液の一部(約50%)を作る男性固有の臓器で、膀胱の真下にあり、尿道を取り囲むようにして存在する。精巣や直腸とも隣接し、一般的に、3~4㎝大のクルミほどの大きさである(図1)。
正常な前立腺は円錐形をしていて、主に移行域と中心域と呼ばれる内腺部と辺縁域と呼ばれる外腺部からなる。良性の前立腺肥大症は移行域から、がんの多く(約70%)は辺縁域から発生することが知られている。
前立腺がんの場合、「消化器がんなどとは違い、予後の改善に寄与する食事の摂り方が特段あるわけではありません。ただし、前立腺がんを発症するのが主に中高年の男性であることから、何らかの生活習慣病を抱えている方に多い傾向があります。
ですから、治療後はエネルギーオーバーを控えて、太り過ぎや高血糖、脂質異常症などに気を配った、バランスの良い食生活を送ることをお勧めします」と、がん研究会有明病院栄養管理部の中濵孝志さんは語る。
生活習慣病を予防・改善する食生活は、指導は受けたものの継続していくのが難しいという患者さんの声も多い。しかし、あまり難しく考えずにポイントをしっかり抑えれば、誰でも取り組めるものという。
前立腺がんのリスクを減らす4つのポイント
それではここで、中濵さんお勧めの4つのポイントを紹介しよう。
①自分の適正エネルギーを把握する
健康的な食生活を送るためにまず必要なのが、自分に必要なエネルギー摂取量を把握していること。エネルギー摂取量の目安は体重1㎏あたりにつき25~30kcalという計算で簡単に割り出すことができる。
体重50㎏の人であれば、1日のエネルギー摂取量の目安は「50×25」~「50×30」kcalで1250~1500kcalということになる。60㎏の人なら、「60×25」~「60×30」kcalで1500~1800kcalだ。意外と少ないように感じられるが、中濵さんは「がんの治療中、体力をつけなければと、むやみに食べる患者さんがいるのですが、それはあまりよろしくありません。確かに、合併症予防のためにエネルギーは摂るべきとはいえ、過剰なエネルギー摂取は全身の健康状態を損ないかねないからです。
まずは、自分の体重を標準体重と比較しましょう。標準体重は、世界共通の肥満度の指標であるBMI(Body Mass Index の略)を使います(表2)。
BMIは身長と体重から計算され、BMI=体重(㎏)/{身長(m)×身長(m)}となります。標準は22とされています。
例えば、身長170㎝、体重70㎏の人なら、BMIは、70÷1・7×1・7で約24・2です。
標準(最も理想的なBMI値)が22ですから、プラス10%の肥満といえます。BMIの標準値22はやや厳しめの値ですので、中高年の方は25以内で収めるようにするのが、良いでしょう。
BMIの計算は、一見ややこしく感じられますが、インターネットサイトなどで、自分の身長・体重を入力すれば、そのままBMIの値を算出してくれるサイトがたくさんあるので、上手に活用するのもいいでしょう。
そのうえで、毎朝、排尿を済ませたあと、体重を測ってください。血圧を測っている人は、血圧と一緒に体重も確認する、といった形で習慣化するといいでしょう」とアドバイスする。
②タンパク質の摂り過ぎは要注意
適正体重をキープするために、欠かせないのが「太らない食べ方」である。
中濵さんは「最近は、糖質制限がマスコミなどでよく取り上げられているせいか、糖質摂取量は少な目で、脂肪やタンパク質を多く食べている患者さんが増えています。
ここで注意していただきたいのは、タンパク質にもエネルギーがある、ということです。患者さんたちに限らず、一般的に、糖質や脂肪は気にするものの、タンパク質にはあまり気を配らない傾向があるようで、タンパク質の過剰摂取により、エネルギーオーバーになっている場合があります。
糖質、タンパク質、脂質のエネルギーはそれぞれ1g当りで、糖質4kcal、タンパク質4kcal、脂質9kcalとなります」と語る。
ちなみに、代表的なタンパク源である卵は1個でおよそ100kcal、ヘルシーなイメージのある納豆でも1パックおよそ100kcal、刺身のマグロのトロは、わずか3切れで100kcalである。
こうしてみると、確かにタンパク質のエネルギーは私たちのイメージより高めである。では、タンパク質の適正な摂取量の目安は、どれくらいなのだろうか。「タンパク質は、1日のトータルの摂取量が体重1㎏あたり1gという計算です。ですから、体重が60㎏の方であれば、60g、70㎏の方であれば70gというのが、おおよその目安になります」
その結果、60㎏の人であれば、1日あたりのタンパク質の総量としては、3回の主食と、「卵1個、魚一切れ、豆腐半丁、牛乳200ml」くらいが、適正な摂取量ということになるという。
③独居男性の食事の摂り方のコツ
前立腺がんの患者さんの場合、高齢男性の罹患率が高く、年齢的に独居されている方も多い。
そうした生活環境の中で、いかにバランスの良い食生活を継続していくかは、治療後の健康状態に大いに関係する。
自炊が難しい人は、どのようにして食事を摂っていけばよいのだろうか。中濵さんによれば「たとえば、朝食はコンビニエンスストアのおにぎり2個と野菜ジュースなどで構いません。面倒だからと何もとらないと、後でドカ食いに走ってしまいやすいので、何かお腹に入れておくということが重要です。
サラダがあればベストなのですが、なければ野菜ジュースで代用するのも良いです。サラダを食べることは、ビタミン・ミネラルなどの栄養素を摂取できるというだけではなく、咀嚼することで唾液の分泌が促され、消化管の活動が活発になったり、満足感を得やすいというメリットがあります。
また、おにぎりに飽きたときは、サンドイッチを食べてもOKです」ということである。
同じカテゴリーの最新記事
- 高血糖や肥満は放っておかない インスリン増加とがん化促進の関係がわかってきた
- 腸内細菌、歯周病菌が大腸がんの進行にも関与⁉︎ 大腸がん再発予防は善玉菌を減らさない食事とリズム感ある生活で
- 高齢進行がん患者の悪液質を集学的治療で予防・改善 日本初の臨床試験「NEXTAC-ONE」で安全性と忍容性認められる
- 第3回(最終回)/全3回 夫が命をかけて私に残してくれたもの
- 体力が落ちてからでは遅い! 肺がんとわかったときから始める食事療法と栄養管理
- 第2回/全3回 〝噛めなくてもおいしく食べられるごはん〟 アイデアが次々に沸いてきた!
- 第1回/全3回 ある日突然、夫が普通のごはんを食べられなくなった――
- がん悪液質に対する運動介入のベスト・プラクティス
- 進行・再発がんでケトン食療法が有効か!? 肺がんⅣ(IV)期の介入研究で期待以上の治療成績が得られた
- 栄養補助食品を利用して食べる意欲へつなげる