わたしの町の在宅クリニック 4 立川在宅ケアクリニック
患者、家族とともに幸せな最期を求めて
井尾和雄さん
〒190-0002 東京都立川市幸町5-71-16 コンフォートフラッツⅢ1F
TEL:042-534-6964 FAX:042-534-6965
URL:www.tzc-clinic.com
東京・立川に、全国屈指のがん患者の在宅看取りを行っているクリニックがある。それが、立川在宅ケアクリニックだ。院長の井尾和雄さんによると、立川市の自宅で亡くなる末期がん患者の6割以上を同クリニックだけで看取っているという。
幸福に見えなかった父親の死に際
人生最期のときを、長年住み慣れた自宅で迎えたい――
最近になって在宅死を望む声が、がん患者のみならず、多くの人たちの間で静かな広がりを見せている。立川在宅ケアクリニックは、そうした自宅での死を望む人たちを対象にしたクリニック、いわゆる在宅ホスピスクリニックだ。
それまでは病院勤務の麻酔科医だった院長の井尾和雄さんが、東京・立川市に同クリニックを開業したのは2000年2月。クリニックを開設した動機を井尾さんはこう語る。「父親をある病院で看取った経験がそもそもの発端でした。無味乾燥としかいいようのない病院のベッドで、父親は苦しげに息を引き取った。その死に様を見て、もっと幸福な死があってもいいのではないかと考えざるを得なかったのです」
立川市の自宅で亡くなる6割以上の末期がん患者を看取る
当初はマンションの一室でささやかにスタートしたクリニックは、地域に医療の軸足を置く地域包括医療政策が推進されたこともあって、年を追うごとに業務の拡大を続ける。現在では、立川市を中心に昭島市、国分寺市、府中市など多摩地区全域に活動範囲が広がっている。その活動を支える医療スタッフは常勤医師4名、非常勤医師2名、看護師3名。さらに外部の訪問看護ステーションとも連携し、高密度の在宅ケアが行われている。
2013年の同クリニックの看取り患者数は210人、開業から今年3月までの看取り患者総数は2,234人に達する。これは全国でも屈指の看取り数だ。その中の8割強が末期がん患者で占められている。立川市に限って言うと、自宅で亡くなる末期がん患者の6割以上が同クリニックの看取りによるものだ。
井尾さんは、こうして多くの患者やその家族と接し続ける間に何度となく、在宅ホスピスの意義を噛みしめているとも言う。「ある男性の末期がん患者さんは、自宅からホスピスへの入院を止めたとき、看護師さんの代わりはいてもカミさんの代わりはいない、だから俺は家に居たい、とポツリとつぶやいたことがある。自宅で家族とともに過ごすことで、気持ちが落ち着き、安堵のなかで死を迎えられるのです」
そして安らぎの中で患者を見送ることで、家族にも満足感や達成感が得られるという。
誰でもできる自宅での看取り
このように自宅での看取りには、患者はもちろん家族にとっても、意義深い特長がある。とはいえ、中には容体急変時の対応などが気がかりで、在宅ホスピスに二の足を踏む家族がいるのも事実だ。しかし井尾さんは、そうした不安は杞憂に過ぎないという。
「例えば末期がんの場合であれば、あらゆる容体変化をシミュレーションして、座薬などの準備をあらかじめ整え、具体的な指示も行います。もしもの場合には、その指示に従って対応すれば症状は緩和されます。気が動転している場合には、どんな時間でもいいから、電話をしてもらえば適切なアドバイスを行います。もちろん必要なら、すぐに医師が自宅に駆けつけます」
そのためにクリニックでは24時間体制の電話連絡のネットワークが敷かれている。とはいえ、「自宅での死」を実現するには、家族にはある1つの条件が求められるのも事実だ。それは「自分で患者を看取る」という覚悟だ。
「当たり前のことですが、看取りの主体はご家族で、私たち医療スタッフではありません。自分でしっかりと最愛の人を送り出す心積もりが必要です。それがなければ、いざというときに、自分で行動することをためらって、また病院に搬送される結果になりかねない。それでは在宅ホスピスを選択したことの意味がありませんからね」
幸せな最期を迎えることは難しいのかもしれない。ただ、立川在宅ケアクリニックなら、患者、家族と一緒になってそれを探してくれる。だからこそ、多くの患者が最期のときを同クリニックに委ねているのだろう。