わたしの町の在宅クリニック 6 めぐみ在宅クリニック
患者さんの〝支え〟を見つけ出し、穏やかな最期を
院長の小澤竹俊さん
〒246-0037 神奈川県横浜市瀬谷区橋戸2-4-3
TEL:045-300-6630 FAX:045-300-6631
URL:www.megumizaitaku.jp/index.php
小澤竹俊さんは大学医学部の博士課程を修了後、救命救急センター、過疎地医療に従事し、その後、病院の緩和ケア病棟に勤務。約1,300人を看取り、緩和ケアの大切さを痛感した。ここで身につけた緩和ケアを、在宅(自宅や介護施設)で最期のときを過ごす人たちにも提供したい――。その思いから、2006年に訪問診療に力を入れた「めぐみ在宅クリニック」(横浜市瀬谷区)を開設した。
目に見える苦しみを取り除くだけが 緩和ケアではない
クリニック開設以来、小澤さんは年間170~180人、週平均3~4人を看取ってきた。訪問診療の対象は、瀬谷区を中心とした半径5㎞ほどの周辺地域だ。しかし必要があれば、それより遠方でも訪問する。在宅医療が手薄な地区が存在するからだ。
「この数年、在宅で最期のときを過ごそうという人は増えていますが、看取りまでを支援する地域の医療・介護施設は少ないのが現状です」と小澤さんは言う。
そうした状況の中、小澤さんは「緩和ケアとは何か?」を自分自身に、そして周囲のスタッフなどにしばしば問いかけてきた。痛みなどの目に見える苦しみを和らげることは、緩和ケアの最も基本となるテーマではある。「しかし実際の緩和ケアは、痛みを和らげるだけではありません。痛みを和らげたとしても、昨日まで歩いていた人が今日は歩けなくなり、人に頼らないで生活できていた人が、誰かの助けがないと生活ができなくなる。それが在宅緩和ケアの現場です。ですから目に見える苦しみさえ取り除けば良いというわけではないのです」と小澤さんは断言する。
苦しみの中にいる患者さんの〝支え〟を見つけ出す
緩和ケアを求める患者さんには4つの苦しみがある。肉体的な苦しみ、精神的な苦しみ、社会的な苦しみ、*スピリチュアルな苦しみだ。これを家族や医療従事者が手分けして和らげようとするが、しばしば壁にぶち当たる。小澤さんによると、いくら医療が発達しても「スピリチュアルな苦しみから発する問いかけにはしばしば応えることができない」という。しかし、そこを何とか突き崩せないか、小澤さんは模索する。「苦しみを抱えながらも人は穏やかに生きていくことができるのだろうか?」
自問することからスタートし、考えあぐねた結果、「人はたとえ困難な苦しみを抱えたとしても、自らの支えを持つとき、穏やかさを保つことができることを学んだ」という。
この視点を得て、小澤さんは自らが目指す緩和ケアの方向性をイメージすることができた。
*スピリチュアルな苦しみ=自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛。無価値と感じるなど
最期を穏やかに過ごすためにサポート
緩和ケアの講演では、よく〝暖かい人間性〟とか〝寄り添う気持ち〟という抽象的な言葉が使われるが、小澤さんが重要視しているのは、何をすると良いのか、具体的な言葉に落とし込み、実践することだ。「具体的にどんなときにその人が穏やかな顔になれるのか、に注目します。すると穏やかになれる条件は人によって異なることに気づきます。ある人は、最期まで病気と徹底抗戦することが安心立命であったり、ある人は、自宅で家族に囲まれて過ごすことが穏やかであったりします」
そこに気づき、日々のケアに繋げていくのだ。小澤さんはこれを「めぐみ在宅援助モデル」とし、次のように具現化する。
❶相手の苦しみをキャッチする
相手の希望と現実の開きを意識するとキャッチしやすい。
❷相手の支えをキャッチする
孫の結婚を見たいなどの願望、支えとなる人の存在、自分でトイレに行くという選ぶことのできる自由(自律)などが、患者さんの支えになる。
❸どのような私たちであれば相手の支えを強めることができるのかを知り、実践する
相手の支えを強めることは、励ますことでも苦しみの原因をわかりやすく説明することでもない。苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しいということを常に意識しながら、相手の話に耳を傾ける。
❹支えようとする私たちの支えを知る
緩和ケアの現場は決して良い話だけではなく、力になれなくて逃げ出したくなることがある。ただ、そこで逃げずに関わり続けることが大切で、そのためには、支えようとする私たちの支えが必要となる。「苦しみを抱えながらも穏やかに生きていくためのサポートこそが緩和ケアである」と話す小澤さん。苦しみを抱えていたとしても、その人の〝支え〟を見つけ出すこと、そのことによって心は穏やかになれる――。めぐみ在宅クリニックでは常に患者さんの心根に耳を傾けた診療が行われている。