グレード2のびまん性星細胞腫。手術後の残存病変の治療法は?

回答者・田部井勇助
日本赤十字社医療センター脳神経外科専門医
発行:2015年8月
更新:2015年11月

  

延髄付近に神経膠腫(グレード2のびまん性星細胞腫)が見つかり、手術を受けました。主治医からは障害が出ないぎりぎりの所まで腫瘍を摘出したものの、MRIで見ると3㎜ほどの残存が認められるとのことです。今後は、残りの腫瘍を取り除くために、ガンマナイフを行うことを勧められています。
ただ、違う医師にも話を聞いてみたところ、機能障害が起きない程度のガンマナイフ照射では、結局は完全に腫瘍を取り除くことはできないので、今後は経過観察で良いのではと言われました。今後の治療法について、どのように考えたらよいでしょうか。

(52歳 男性 滋賀県)

残存病変がある場合 放射線治療を勧める

日本赤十字社医療センターの
田部井勇助さん

延髄とは、大脳と脊髄の間に存在する「脳幹」を構成する重要な脳の一部です。脳幹には、目や口、顔の動き、聴覚・平衡感覚や発声・嚥下(のみ込み)を司る脳神経が存在します。また脳から全身に情報を伝える運動神経路、逆に全身の情報を脳に伝える感覚神経路があり、意識、呼吸、循環といった生命維持機能を司る重要な部分です。

脳幹から発生する代表的な脳腫瘍の1つが脳幹神経膠腫で、その中にもいくつかタイプがあります。非常に難治性として知られているのが、10歳未満の小児で発症し、脳幹(とくに橋)そのものが腫大し、浸み込むように広がる、いわゆる浸潤性に発生するタイプです。

一方、ご相談者の場合、それとは違うタイプの脳幹神経膠腫だと思われます。腫瘍が延髄から部分的に発生して、浸潤性が乏しく後ろ側に突出するタイプで、病理学的には低悪性度であることが知られており、手術による摘出も可能です。恐らく、ご相談者の場合も、このタイプの脳幹神経膠腫で、手術を行ったのだと思います。

このような限局性の脳幹神経膠腫は極めて稀な疾患であり、標準的と言える治療法は現時点で確定していませんが、一般的に残存病変がある場合、放射線治療が勧められます。その場合、ガンマナイフといった定位放射線照射ではなく、通常の分割局所照射(54Gy程度)で治療することが勧められます。手術後の残存病変に対してガンマナイフでの治療報告も散見はされますが、標準的な治療法とは言い難いです。

当院には、定位放射線治療機器であるサイバーナイフがあり、治療選択が限られる再発の患者さんにはサイバーナイフによる低分割定位放射線照射を行っていますが、原則として初発の脳幹神経膠腫の患者さんには行っていません。脳幹は脳の重要な機能が集約されている場所で、後遺症のリスクが考えられるためです。もちろん、分割局所照射もリスクがないわけではありませんが、定位放射線照射よりも線量を分割して照射する分、リスクが低減できる可能性があります。

また画像所見、病理所見や治療までの経過などの詳細が不明なため断定的に申し上げることは難しいのですが、もし画像上、浸潤性が乏しく、病理学的にも極めて活動性が低い腫瘍と判断される場合には、経過を見て増大傾向が見られれば放射線治療を考慮するという選択肢も考えられます。繰り返しになりますが、残念ながら稀な疾患なので、標準的な治療法は現時点で確立されておらず、どの治療法が最も良いか、確定的なことは申し上げられません。ですので、以上を踏まえて今後の治療法を検討されるとよいかと思います。

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