がん看護専門看護師 山田みつぎの
副作用はこうして乗り切ろう!「抗がん薬治療中の下痢」
抗がん薬治療中に下痢の症状で悩む人は少なくありません。でも「下痢なんて……」と軽く見てはいけません。下痢は栄養や水分の吸収を阻害して栄養状態を悪化させ、全身状態を悪化させる要因になりますから、適切に対処することが大切です。
早発性と遅発性、タイプは2種類
抗がん薬治療中に起こる下痢には、2種類あります。1つは、抗がん薬投与後24時間以内に起こる早発性の下痢。主に、*カンプト/トポテシンという抗がん薬を投与した場合に起こります。
抗がん薬が副交感神経を刺激して腸の蠕動運動が激しくなり、腸で栄養分や水分を吸収する間もなく、食べ物が急速に腸管を通り抜けてしまうことで下痢が起こります。このタイプは重症化が少なく、下痢止めで対応できることがほとんどです。
もう1つは、抗がん薬投与後1週間過ぎた頃に起こる遅発性の下痢です。こちらのほうが厄介です。抗がん薬は、がん細胞を攻撃するとともに、体中の細胞分裂が盛んな部分にも作用するため、消化管粘膜が傷害されて下痢が起こります。
腸の粘膜には、表面積を広くするためにたくさんのヒダがあり、食べ物が腸に入るとゆっくり進みながら小腸でおもに栄養分が吸収され、次いで、大腸で水分が吸収されて、やがて固形便になります。
ところが、抗がん薬で粘膜が傷んでしまい、ヒダがなくなると、栄養分や水分を吸収できなくなり、そのまま腸管内を通過して水分を多く含んだ下痢便になるのです。
*カンプト/トポテシン=一般名イリノテカン
水のような下痢を放置するのは危険
*ゼローダや*TS-1、*5-FU といったフッ化ピリミジン系の抗がん薬での頻度が高く、これらを服用する患者さんの4割ほどが下痢を起こすと言われています。
「下痢なんて……」と思いがちですが、水のような下痢が1日に10回以上起こるときは、自己判断せずに病院に連絡して、抗がん薬を休薬するか確認してください。
ひどい下痢を放置すると、栄養失調や脱水症状を起こしたり、腸内で異常に増えた細菌が、腸から血管内に逆行して敗血症を起こすこともあり、非常に危険です。
こうしたひどい下痢の場合、食べ物が腸管を通るだけで刺激となり、さらに悪化するため、入院して点滴を行い、傷んだ粘膜が回復するまでの10日~2週間、絶食して腸を安静に保つこともあります。
*ゼローダ=一般名カペシタビン *TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム *5-FU=フルオロウラシル
下痢止めは飲み過ぎない
フッ化ピリミジン系のほかに下痢を起こしやすい抗がん薬がカンプト/トポテシンです。
カンプトは、早発性の下痢の他に、カンプトの代謝物が腸管で再吸収されて腸管の粘膜が障害され、遅発性の下痢を起こすことが特徴です。早発性の下痢は下痢止めでほぼ治まりますが、遅発性の下痢の場合は、重症化しやすいので要注意です。ひどくなると1日に20回以上、水様の便が出続け、重度の脱水や栄養障害で、生命の危機に晒されることすらあるのです。
カンプト以外にも下痢を起こしやすい抗がん薬がありますし、投与量によっても異なるので、治療前に下痢の起こりやすさを医師や薬剤師、看護師に尋ね、予め整腸薬や下痢止めを処方してもらうとよいでしょう。そして、下痢が起こったらすぐに服用するよう心掛けてほしいと思います。
ただし、下痢止めは飲み過ぎないようにしましょう。整腸薬や下痢止めは、日常生活で馴染み深いため、抵抗感なく飲む人が多いようです。しかし、飲み過ぎたり、下痢になってもいないのに予防的に飲んだりすると、逆に腸が動かなくなり便秘や、ひどいときは腸閉塞になることもあります。あくまでも、下痢が起きたら飲み、下痢が治まってきたらすぐに止める、これが鉄則です。
下痢といっても、程度は様々です。水まではいかないけれど、形のない便が1日5~6回出る程度なら、それほど粘膜の炎症はひどくないので、整腸薬や下痢止めを使ったり、食事を工夫しながら、抗がん薬はそのまま続けることもできるでしょう。
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