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治療回数を減らす寡分割照射法

放射線の外照射治療に新しい流れ 1回の照射量を増やして総線量を減らす

監修●萬 篤憲 国立病院機構東京医療センター放射線科医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年1月
更新:2016年3月

  

「長い目で見ると、患者さんが受けやすいように照射回数を減らしていくという流れが次第にできるかもしれません」と語る萬さん

放射線療法において、1回の照射線量を増やして回数を減らす方法を寡分割照射法という。前立腺がんは前立腺の性質上、1回に高線量を当てるのが効果的とされている。一方で、高線量となると副作用も心配される。欧米では広まりつつあるが、日本ではまだ数施設で臨床試験として行われている段階で、今後の展開が注目される。日本での寡分割照射法の現状を専門医に伺った。

外照射のデメリットに対応

前立腺がんの治療選択の1つに放射線療法がある。放射線療法には、体の外から放射線を当てる外照射と小線源を前立腺に埋め込むなどの組織内照射があり、それぞれにメリット、デメリットがある。外照射を選ぶ際に大きなネックとなるのは長期間通院しなければならないことだ。

前立腺がん診療ガイドラインには、根治的放射線治療では総線量70Gy(グレイ)以上が必要で、分割法については1回1.8Gyから2.0Gyが標準と記されている。75Gyを超えるケースも多いため、患者は毎日のように通院して8週間ほどかかる。ガイドラインには一方で、「1回あたりの線量を増やして総線量を下げる寡分割照射の有効性が検討されているが、現時点では探索的治療の範疇に入るものである」との記載もある。

欧州では 医療費削減のために広く行われる

寡分割照射は1回の照射量を増やす照射法のことで、その代わりに治療終了までの総線量を少なくする。

「前立腺という臓器は高線量を少数回かけるほうがよく効くかもしれないということが、生物実験や組織内照射の結果から数年前より指摘されるようになりました」

放射線療法に詳しい国立病院機構東京医療センター放射線科医長の萬 篤憲さんは新しい発想の治療法であると指摘する。萬さんによると、例えば英国の一部の地域では3Gyを20回程度というのがスタンダードだという。

「欧州は医療費削減のためになるべく治療回数を減らす治療法を好みます。一方で、寡分割と従来法のどちらが効果的なのかというデータはなかったため、5年ほど前からいろいろな機関で臨床試験が始まりました。徐々に結果が報告され始め、従来法との比較でほぼ同等だとする結果が出てきました。日本でも1回線量2.5Gyで28回(総線量70Gy)を照射する臨床試験(第Ⅱ(II)相)が行われています」

日本の臨床試験の紹介の前に、寡分割照射法について見ていく。

先端機器と高い手技で成り立つ高難度治療

用いられるのは、強度変調放射線治療(IMRT:Intensity-modurated radiation therapy)と画像誘導放射線治療(IGRT:Image-guided radiation therapy)の併用だ。高い線量の放射線を照射するので、少し間違えば治療が上手くいかないだけではなく、正常組織に当って副作用も強く出てしまう。それを防ぐ方法だ。

IMRTとは、コンピュータを駆使した機器を使用してがん部分に放射線を集中して、周囲の大腸や膀胱などの正常組織への影響を抑えようという技術。がん制御率の向上と副作用の軽減が期待される。

具体的には、多方向から強弱をつけた放射線をがん部分に集中して照射する。それにより、がんの形が複雑でもその形に合わせた線量分布を作ることができるのだ(図1)。日本では2000年ごろから導入され始めた(写真2)。解剖学的に込み入った位置にある前立腺には適した治療法とされるが、萬さんは「まだ十分には広まっていない。普及は遅い感じがします」と述べる。

図1 通常の放射線治療(上)と
強度変調放射線治療(IMRT、下)との違い

写真2 定位放射線治療装置

様々な方向からの立体照射ができるとともに、強度変調放射線治療も可能

また、放射線治療で大切なのが、精度。適切な場所にピンポイントで照射しなければならない。そこで、補助技術として行うのがIGRTだ。IGRTは放射線治療時の患者の位置の微妙な変化を3次元的に計測し、治療計画で決定した照射位置を再現する照合技術を指す。保険収載されたのは2010年という新しい技術だ。

「ともに先端機器と医師や技師らの高い技術と経験がないと様々ながんに日常的に使い、数もこなすのは難しい」(萬さん)という。

全国20施設で臨床試験

日本で行われている臨床試験は、「前立腺癌に対するIMRT/IGRT併用寡分割照射法の第Ⅱ(II)相臨床試験」。総線量70Gyを28回(6週間)で照射する。1回あたりは2.5Gyだ。

対象は、50歳以上80歳未満の男性で、PSA(前立腺特異抗原)値が20以下、悪性度を示すグリソンスコアが7以下の低・中リスクがん、またはPSA値30以下でグリソンスコアが8か9の高リスクがん。ほかに、治療歴や他疾患との関連など除外基準もある。2012年7月から登録を開始し、現在は終了し、観察中である。

主要評価項目は遅発性有害事象(イベント)発生割合で、副次評価項目は急性期有害事象発生割合、無再発生存割合、全生存割合とされている。

参加医療機関は、北海道大学、札幌医科大学、埼玉県立がんセンター、埼玉医科大学、国立がん研究センター東病院、千葉県がんセンター、国立がん研究センター中央病院、聖路加国際病院、がん研究会有明病院、都立駒込病院、昭和大学、東海大学、山梨大学、愛知県がんセンター、名古屋大学、京都大学、大阪府立成人病センター、先端医療センター、兵庫県立がんセンター、九州大学の計20施設。

前立腺がんは長いスパンで経過観察を必要とすることもあり、まだデータの報告は出されていない。

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