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副作用を最小限に抑え、最大限の治療効果を引き出す

進行肝がんに対するネクサバールのマネジメント

監修●池田公史 国立がん研究センター東病院肝胆膵内科長
取材・文●池内加寿子
発行:2016年7月
更新:2016年6月

  

「ネクサバールの副作用である手足症候群は予防が重要です」と
語る池田公史さん

進行した肝がんでは、標準的な化学療法として血管新生阻害薬であるネクサバールが使用されている。しかし、ネクサバールには手足症候群、高血圧、肝機能障害などの副作用があり、これらが治療の休止や中止の一因になることがある。医療チームを立ち上げ、ネクサバールの副作用マネジメントに取り組んでいる専門医に話をうかがった。

世界で2番目に肝がんが多い日本

肝がんの罹患数は現在6位であり、決して軽視できない。

「わが国において、肝がんは2000年頃まで長い間、右肩上がりで増加していましたが、最近ようやく減少に転じています。理由は、B型肝炎、C型肝炎のウイルスがコントロールできるようになってきたこと、輸血からの感染が減少したことなどが挙げられます。今後、肝炎の治療薬の進歩に伴って、さらに減っていくことが予測されます。とはいえ、最近は肥満による脂肪肝由来の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)から肝がんを発症する例も増えています。世界的にみると、日本は中国に続いて肝がんの多い国です。罹患数が半分になるまでにはまだ10~20年かかるといわれています」と、国立がん研究センター東病院肝胆膵内科長の池田公史さんは述べる。

原発性肝がんの約95%を占めるのが、肝細胞から発生する肝細胞がん(HCC)だ。肝細胞がんの5年生存率は、日本では42.7%(2005年)で、米国(13%)や韓国(18.2%)に比べて群を抜いて高い。池田さんはその理由について、次のように話す。

「日本では検診による早期発見率が高いこと、治療がかなり進んできていることから、好成績につながっていると推測できます」

肝機能とがんの量を考慮し 治療法を選択

肝細胞がんの治療法には、3大治療法と呼ばれる「肝切除」「ラジオ波焼灼療法」「肝動脈化学塞栓療法」をはじめ、放射線療法、肝動注化学療法、全身化学療法、肝移植がある。初回治療には、3大治療法がほぼ3割ずつ行われているという。

「肝細胞がんの治療は、肝機能(肝予備能)とがんの量(個数・大きさ)の両面を考慮して選択されます。『肝癌診療ガイドライン』では、肝機能、腫瘍数、腫瘍径に応じた治療のアルゴリズムを定めています。肝機能は、チャイルド・ピュー(Child-Pugh)分類といって、脳症、腹水の有無、血清ビリルビン値、アルブミン値、凝固因子などによりA(良)~C(不良)にランク付けして判断します(表1)」(池田さん)

表1 チャイルド・ピュー分類

肝機能が比較的保たれていて、腫瘍径3cm以内、3個以下であれば、「肝切除」か、腫瘍に針を刺してラジオ波でがんを焼き切る「焼灼療法」が選択肢となる。3cmを超えた場合や4個以上の多発例には、肝動脈を通してカテーテルから抗がん薬と塞栓物質を注入してがんにつながる血管を塞ぎ、がんを壊死させる「肝動脈化学塞栓療法」が選択される。

がんの量が多い場合や、「肝動脈化学塞栓療法」が困難な場合は、「全身化学療法」または「肝動注化学療法」(抗がん薬:シスプラチンまたはシスプラチン+5-FUなどを肝動脈に注入)が選択される。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ 5-FU=一般名フルオロウラシル

分子標的薬ネクサバールで、がんの増殖抑制、延命が可能に

「肝臓外にがんの転移があり局所療法を行えない場合や、局所治療の効果がみられなくなった、または効果が期待できない場合は、全身化学療法が適応になります」

実は7年ほど前まで、肝細胞がんには局所効果の高い治療が中心に行われ、全身化学療法はほとんど行われていなかった。そこへ、2007年に分子標的薬ネクサバールの延命効果が示され、日本でも2009年に進行肝細胞がんの全身化学療法薬として唯一承認された。ネクサバールの登場で、局所療法ができない進行肝細胞がんの治療の選択肢が広がったと言える。

ネクサバールは肝細胞がんにどのように作用するのだろうか。

「腫瘍細胞では、細胞内RAFタンパク(腫瘍遺伝子)を阻害し、がん細胞の増殖の経路を抑えます。また、腫瘍周辺の血管新生を促進させるVEGF(血管内皮増殖因子)やPDGF(血小板由来増殖因子)の活性を阻害し、血管新生を抑制します。このように、腫瘍細胞と腫瘍血管の両方に作用してがんの増殖を抑制します」

ネクサバールは1回2錠(200mg×2)、1日2回(800mg)を経口投与するのが基本だ。

「自宅で服用でき、簡便な点がメリットです。ただ、他の治療法と異なり、がんの縮小効果は5%程度といわれ、治療効果はあまり期待できません。がんの増殖を抑えて現状維持を目指し、延命を図ることが目的となります」(池田さん)

ネクサバール=一般名ソラフェニブ

「チームネクサバール」で副作用にきめ細かく対応

ネクサバールが標的とする分子は、正常な皮膚などにも存在するため、手足症候群などの副作用が高頻度で出現する。

「治験の段階でしたが、68歳の女性患者さんに、思わぬ副作用が発現しました。足の裏の皮が剥けて歩けなくなり、タクシーで来院されたのです。重度の手足症候群という苦い経験から、きちんとしたマネジメントをしなければならないと考えました。そこで当院では、承認前の2008年に「チームネクサバール」を立ち上げ、医師、薬剤師、治験コーディネーター、看護師など25人のチームで、徹底的に副作用対策を検討したのです」(池田さん)

池田さんによると、副作用として注意すべき3大症状は、手足症候群、高血圧、肝障害だ。発現率(全グレード)は、手足症候群が40~80%、高血圧が20~40%、肝機能障害が1~50%。このほか、下痢、脱毛、多形紅斑等の薬疹、間質性肺炎などがある。施設や調査によって発現率は異なるが、全体の約8割に何らかの副作用が起こるとされる。

これらの副作用によって、患者のQOL(生活の質)が著しく損なわれるだけでなく、治療中止になるケースも41~44.5%と少なくない。副作用対策が不十分であると考えた池田さんらは、それぞれの副作用に対して、統一したフォローアップチャートを作成し、患者向けパンフレットや問診表、治療日記等も用意した。

「患者さんには治療日記をお渡しして、週1回(治療開始1カ月以降は、2~4週に1回)の外来時に持参していただきます。外来時にはまず薬剤師が患者さんに副作用の症状についてヒアリングを行い、電子カルテに入力し、医師にバトンタッチします。医師は診察時に症状を確認し、副作用グレードに応じた治療法を指導します。また、次の外来までの中間日には、薬剤師が患者さん宅に電話をして、副作用などの困りごとを聞き、医師に伝えています」

このようなきめ細かな対応により、同院では手足症候群で治療中止になるケースは0%になっている。

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