QOLを維持するための治療法の選択を
Ⅳ(IV)B期および再発子宮頸がんの化学療法とサイバーナイフ
子宮頸がんの罹患者数は20代後半から40代前半が多く、若年層の罹患者が増えているのが特徴だ。初発Ⅳ(IV)B期と再発子宮頸がんでは、症状の緩和やQOL(生活の質)の向上のため、化学療法が行われる場合が多い。また、がんの局所制御に効果を発揮する、サイバーナイフによる放射線治療も注目されている。
子宮頸がんは治療の前に病期を判断する
子宮頸部とは、腟から子宮へ至る通り道の部分だ。この部分の上皮粘膜に発症するがんを子宮頸がんという。
昨今では、若い女性の発症も多々あり、これから結婚出産を考える女性にとってはつらい病気だ。さらには、出産年齢の高齢化とともに、妊娠時の検査で発見されるケースもある。
子宮頸がんでは、治療の前に病期を決め、それに従って治療法が選択される。がんの進行具合によっては、手術だけでなく、化学療法や放射線療法なども組み合わせ、根治を目指した治療が行われる(表1)。
しかし、初発でステージⅣ(IV)B、あるいは再発子宮頸がんの治療においては、手術による根治切除、もしくは根治的照射によって、がんを完全に抑制できない限り治癒は望めない。臨床の現場では、根治的治療の対象となる患者は少なく、症状の緩和やQOL(生活の質)の向上を目指す場合が多いのが現状だ。
卵巣がん治療に追随したTP療法、TC療法
Ⅳ(IV)B期や再発転移の子宮頸がんについては、卵巣がんの化学療法に追随する形で、有効な治療法を模索してきた経緯がある。
「1985年ごろから数々のランダム化比較試験が行われてきましたが、*シスプラチン単剤療法を上回る治療法は長く見い出されませんでした。そこで、卵巣がんで有効だったシスプラチン+*タキソール併用治療(TP療法)が注目され、シスプラチン単剤療法との比較試験が行われました(GOG169試験、2004年)。その結果、TP療法は奏効率(RR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)のすべてでシスプラチン単剤療法を上回り、子宮頸がんにおいても標準治療となりました。TP療法ができるようになったことは、画期的なことだったと思います」
そう説明するのは、新百合ケ丘総合病院(神奈川県川崎市)がんセンター長で自治医科大学名誉教授の鈴木光明さんだ。
「ただし、TP療法のシスプラチンは、腎毒性や消化器毒性が強いため、治療を完遂できず、途中で治療を止めてしまうケースも多かったのです。そこでシスプラチンの代わりに、卵巣がんで有効性が認められていた同じプラチナ製剤の*カルボプラチンを使う治療法(TC療法)が試みられるようになりました。カルボプラチンは腎毒性が低いためコントロールしやすく、通院治療も可能です。手足がしびれたりする神経毒性は強く出るのですが、コンプライアンス(規定通りの投与)はシスプラチンに比べて良いのが特徴です」
*シスプラチン=商品名ブリプラチン、ランダなど *タキソール=一般名パクリタキセル *カルボプラチン=商品名パラプラチン、カルボプラチン、カルボメルクなど
完遂しやすく、管理しやすいTC療法
鈴木さんが教授を務めていた自治医科大学附属病院など先端的な施設では、TC療法がいち早く実施されていた。その後、Ⅳ(IV)B期と再発の患者を対象にしたTP療法とTC療法の比較試験で、TC療法のTP療法に対する非劣性が認められ、TC療法の有効性が裏付けられた(表2)。
現在、Ⅳ(IV)B期及び再発子宮頸がんでは、TP療法、TC療法などが基本となっている。(*患者の状態によってはシスプラチン単剤療法も行われる)
「1990年代の臨床試験では、カルボプラチンは単剤での奏効率が低いと言われていました。ただ、この時期はまだ腎機能に応じて投与量を決定する方法が定着していなかったので、過少投与による治療効果不足、もしくは過量投与によって予想以上の有害事象が発現して中止になるなど、安定した投与ができていなかったと思われます。TC療法は患者さんにとって完遂しやすく、医療者にとっても管理しやすい治療法です」
さらに、TC療法(タキソールとカルボプラチンを3週間ごとに1回投与)とdosedense TC療法(カルボプラチンが3週間ごとに1回、タキソールは毎週投与)との比較試験も現在進行している(JCOG1311)。しかし、鈴木さんはdosedense TC療法について、「すでに抗がん薬投与歴のあるⅣ(IV)B期の患者さんや、再発転移の患者さんが完遂するのは、かなり厳しいのではないかと思います」と指摘する。
アバスチンの追加併用により 全生存期間などが有意に改善
今後、注目される治療法は、2013年に卵巣がんで適応になった分子標的薬の*アバスチンだ。血管新生阻害薬であるアバスチンは、がん細胞への栄養補給を遮断する作用がある。
進行再発子宮頸がんの患者を対象に、抗がん薬とアバスチンを併用した場合の比較試験が米国で行われた(GOG240試験)。この試験では、シスプラチン+タキソール群もしくは*ノギテカン+タキソール群のいずれかに患者を割り付け、さらにアバスチン併用群(追加群)もしくは非併用群に割り付けた。
その結果、アバスチン非併用の抗がん薬群は、OS中央値13.3カ月、PFS中央値5.9カ月、RR36%だったのに対し、アバスチン追加併用群は、OS中央値17.0カ月、PFS中央値8.2カ月、RR48%で、アバスチン併用群においてすべての項目で有意に改善された。
「アバスチンを加えたことにより、OSの中央値が3.7カ月も延長したことは意義のあることです。ここ10年は、OSがここまで延長する臨床試験はありませんでした(図3)。この結果は注目されるべきことです」
*アバスチン=一般名ベバシズマブ *ノギテカン=商品名ハイカムチン *イホマイド=一般名イホスファミド
*BEMP=ブレオ(一般名ブレオマイシン)、フィルデシン(一般名ビンデシン)、マイトマイシン(一般名マイトマイシン)、シスプラチン
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