iPS細胞を用いた治療の可能性も見えてきた
先進医療の結果次第で、大きく進展する可能性も! 進行・再発非小細胞肺がんに対するNKT細胞療法
活性化することで、がんを攻撃する働きを持つNKT(ナチュラルキラーT)細胞を使った免疫療法の研究が進んでいる。進行・再発した非小細胞肺がん患者を対象に、2012年から先進医療としてNKT細胞療法が行われ、現在登録が終了、結果を解析中だという。これまでに行われた臨床試験では、NKT細胞療法を行うことで生存期間の延長が見られた人もおり、先進医療の結果次第では、大きな進展が期待できそうだ。
NK細胞とT細胞の働きを持つ免疫細胞
NKT細胞を使った免疫療法の研究が進められている。免疫療法に関心があっても、NKT細胞は知らないという人が多いかもしれない。千葉大学大学院医学研究院免疫細胞医学教授の本橋新一郎さんによれば、この細胞が発見されたのは1980年代のことだという。
「千葉大学と海外のいくつかの大学で、ほぼ同時に発見された細胞です。その後、千葉大学ではNKT細胞を活性化できる物質を発見し、1997年の米科学誌『サイエンス』に論文が掲載されています」
NKT細胞は、活性化するとがん治療に利用できるほど強い抗腫瘍効果を発揮することがわかり、その研究が進められてきた。
NKT細胞は、NK細胞とT細胞の両方の性質を持っていることから、このような名前がつけられている。NK細胞は、常に体内をパトロールし、がん細胞などを見つけて殺傷する働きをしている細胞。キラーT細胞は、がん抗原という目印を頼りに、対象を絞り込んで攻撃する細胞である。
「NKT細胞は、α-ガラクトシルセラミドという物質で活性化することがわかっています。免疫の司令官役である抗原提示細胞が、その表面にあるCD1dという分子に、α-ガラクトシルセラミドを提示しますが、それによって活性化されるのがNKT細胞なのです」
活性化されたNKT細胞は、どのように抗腫瘍効果を発揮するのだろうか。
「まずNKT細胞自身ががん細胞を攻撃します。さらに、活性化されたNKT細胞はインターフェロンγ(IFN-γ)という物質を放出し、NK細胞やキラーT細胞など、他の免疫細胞を活性化する働きもします。がんとの総力戦に持ち込んで、抗腫瘍効果を発揮するのです」(図1)
体内でNKT細胞を活性化させる治療
NKT細胞を用いた治療は、次のように行われている。
まず、患者の血液から、成分採血という方法で単核球(リンパ球と単球)だけを取り出す。これにGM-CSF(顆粒球単球コロニー刺激因子)とインターロイキン2(IL-2)というサイトカインを加えて培養する。これにより、単球はGM-CSFの働きで抗原提示細胞になり、リンパ球はIL-2の働きで活性化する。
次に、抗原提示細胞にα-ガラクトシルセラミドを加えると、抗原提示細胞は細胞表面のCD1d上に、α-ガラクトシルセラミドを提示するようになる。この抗原提示細胞を、リンパ球と一緒に、点滴で患者の静脈内に投与する(図2)。
これにより、患者の体内でNKT細胞が活性化する。そして、NKT細胞は自らがん細胞を攻撃するだけでなく、IFN-γを放出して、NK細胞やキラーT細胞も活性化してくれるのである。
この治療によって、どのような治療効果が得られるのか、肺がん(非小細胞肺がん)を対象に臨床試験が行われてきた。
IFN-γの産生が高まると治療効果も高い
臨床試験の対象となったのは、手術できない進行または再発の非小細胞肺がんで、標準治療の化学療法がすでに行われた患者である。このような患者を対象に、前述したNKT細胞療法が行われた。
「この治療によって、がんが縮小した人はほとんどいませんでした。しかし、臨床試験に参加した人の中には、がんと共存しながら、5年近く生存した人もいたのです」
まず、17人の患者でデータの解析が行われた。その結果、生存期間中央値は18.6カ月、2年生存率は35.4%だった。
「試験の対象となった切除不能・進行再発非小細胞肺がんで、化学療法が終了している患者さんの場合、平均生存期間は半年ほどですから、生存期間はかなり延長していると評価できます。ただ、全ての患者さんに効果があったわけではなく、よく効いた人もいれば、ほとんど効かなかった人もいました。その理由を探る必要がありました」
NKT細胞が活性化すると、IFN-γの産生が高まるので、治療後のIFN-γを調べてみることにした。産生が2倍以上になった人をA群、2倍未満だった人をB群とし、治療成績を比較してみた。すると、治療成績に明確な差が現れた。生存期間中央値は、A群が29.3カ月、B群が9.7カ月だったのだ。(図3)
「IFN-γの産生が高まるかどうか、つまりNKT細胞が活性化したかどうかで、治療成績に大きな差が出ることが明らかになりました。ただし、IFN-γの産生が低くても、生存期間の延長が認められた人もおり、IFN-γ産生以外の要素も関与していると考えられています」
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