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前立腺4分の1領域の部分治療にも着手

機能温存し、合併症も回避できる 前立腺がんの小線源部分治療

監修●齋藤一隆 東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学講師
取材・文●伊波達也
発行:2017年1月
更新:2017年1月

  

「部分治療は、機能を温存し、合併症を回避するという点でも意義のある治療法だと思います」と語る齋藤一隆さん

前立腺内に限局したがんに対して、がんが存在する領域のみに小線源(しょうせんげん)を植え込み、患部のみに部分照射する「小線源部分治療」。根治療法である手術や放射線治療と比べて、排尿障害や性機能障害を軽減でき、患者にとってもメリットの大きい治療法だ。どういった治療法なのか、気になる治療成績は? 国内でも先駆けてこの治療を導入している専門医に話をうかがった。

がんが存在する部分のみを治療する

前立腺がんは、男性特有の臓器に発症するがんだが、他のがんと比べて進行がゆっくりで、比較的予後が良好ながんであると同時に、治療の選択肢も幅広いことが知られている。ごく早期の場合は、無治療で経過観察をする待機療法(watchful waiting、もしくはPSA監視療法)という方法もある。

そうした中、前立腺内に留まったがんに対して、治療成績で手術と遜色ない治療法として知られているのが、永久密封小線源療法(以下、小線源療法と記載)だ。

放射線治療の一種だが、体外から放射線を照射する方法と異なり、ヨウ素125というアイソトープを、シード線源と呼ばれる小さなカプセルに密封して、腰椎麻酔のもと前立腺内に植え込む治療法となる。

通常、小線源療法は、前立腺全体に線源を植え込み照射する「全照射」が標準的だが、これをがんの局在する領域のみ線源を植え込み、患部のみに「部分照射」する小線源による部分治療を先駆的に行っている施設がある(写真1)。それが、東京医科歯科大学大学院腎泌尿器外科学講師の齋藤一隆さんらのグループだ。齋藤さんは言う。

「部分治療とは、手術で前立腺を摘出したり、放射線を前立腺全体に照射するのではなく、がんが限局する部分だけを治療する方法です。当科では2010年より行っており、これまで40例ほどの患者さんに小線源による部分治療を行ってきました」

写真1 小線源療法による部分治療の実際

根治療法と待機療法の間を埋める治療

部分治療の考え方は、現在様々ながん種で取り入れられており、機能を温存した治療が行われることが多い。ただ、前立腺がんの場合、部分治療が模索されてはいるものの、なかなか進まない現状があるという。

「前立腺がんは、主病巣の他にも病変が多発しているケースがほとんどです。そのため、治療域の設定が比較的難しいなどの問題があり、部分治療がなかなか進まない現状がありました」

ただ近年、限局した前立腺がんに対する根治療法の意義を考えさせられるデータが出てきているという。イギリスで行われた、限局性前立腺がんに対する臨床試験において、根治的前立腺全摘除術、根治的放射線療法、待機療法の3群それぞれを10年間追跡した結果、前立腺がんによる死亡率に差がなく、一方、手術、放射線治療群では排尿、性機能低下が起きるという結果が示されたのだ。

「前立腺がんを早く見つけて、早く治療することの意義づけを考えさせられる結果でした。全ての前立腺がんに、早期診断、早期治療が適しているとは言えないのかもしれません。かといって、何も治療をせずに経過観察を行う待機療法も、患者さんの中には不安に思われる方もいるかと思います。部分治療は、根治療法と待機療法の間を埋める治療として存在意義があると我々は考えています」

その時点で明らかとなっている病巣に治療をし、仮に他に小さな病変があるとしても、きちんと経過観察をした上で逐次、治療で対応していく――。齋藤さんたちは、こうした考えのもと部分治療を行っている。

排尿障害、性機能障害も軽減

小線源による部分治療には、通常の根治療法(手術、放射線外照射及び小線源による全照射)と比較して、合併症を軽減するというメリットもある。

「根治療法である手術や放射線療法と比べて、排尿障害や性機能障害に対する影響は軽減されると思います。とくに性機能障害の1つ、射精障害を回避できる点は、小線源による全照射との違いです」

性機能障害というと、一般的に「勃起障害」だけがフォーカスされやすいが、精液が射出できない「射精障害」も、性生活を送る上では大きな問題となる。小線源による全照射の場合、「勃起障害」は防げることは多いが、「射精障害」は次第に起きてくるケースが多い。その点、部分治療の場合、前立腺の組織をある程度温存することができるため、射精機能も維持できることが期待されるという。

治療の流れは小線源全照射と同様

それでは、実際に部分治療の適応となるのはどういう人だろう。

「がんの場所がきちんと同定できること、病期がT2までであること、PSA(前立腺特異抗原)値が20ng/ml未満など、いくつかあげられます」(表2)

表2 部分治療適格症例選択基準(東京医科歯科大学泌尿器科)

悪性度などの数値は、小線源の全照射の場合に準じるほか、ケースバイケースで判断していくという。治療の流れとしては、小線源療法の全照射の場合と同様で、入院期間は3泊4日で済む。

診断の結果、部分治療の適応があると判断された人に対して、齋藤さんたちは事前に臨床研究の治療であることを説明して、希望する人に対して行っている。

なお、部分治療のデメリットとしては、未治療部位を残すため定期的な経過観察が必要になる点があげられる。また、それが心理的に負担になり耐えられない人は、手術や全照射による根治療法を選択したほうがいいかもしれない。あくまでも患者個々人の考え方によって決めてもらうのが良いでしょう、と齋藤さんは話している。

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