米国臨床腫瘍学会(ASCO2016)リポート

プレシジョン・メディシンや、リキッドバイオプシーの最新情報が報告される

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2017年2月
更新:2019年7月

  

ASCO2016会場写真

ASCO2016プレスカンファレンス

昨年(2016年)6月に米国シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2016)から、今号(2月号)の「肺がん最新特集」でも取り上げられている「プレシジョン・メディシン(より適確な医療:精密医療)」「リキッドバイオプシー liquid biopsy(液体生検)」、およびの話題を取り上げた。いずれもASCO2016のプレスカンファレンスで取り上げられた、注目度の高かった情報である。

分子的プロファイルをベースとした進行固形がんに対する標的治療

~「MyPathway試験」の早期結果~

分子標的治療薬の増加により、分子的変異の存在をベースとした特異的な腫瘍タイプでの使用が認可されるようになっている。同様の分子的変異がしばしば数多くの他の腫瘍タイプでも認められているが、承認済みの治療法の効果は、このような分子的変異を有する非適応の腫瘍タイプにおいては知られていない。

こうした中で、プレシジョン・メディシン(より適確な医学:精密医療)的アプローチで、腫瘍の遺伝子検査を行うことにより、現状の適応疾患以外にも同じ分子標的薬による治療効果が期待できる可能性が、米国での第Ⅱ相臨床試験「MyPathway」の早期結果で明らかになった。

現在、全米39カ所で進行中のMyPathway試験は、進行中の有益な治療法のない進行がん患者において、4つの治療レジメンを評価する非ランダマイズ、オープンラベル試験であり、関連性のある分子的変異を有する非適応腫瘍におけるHER2、BRAF、Hedgehog(Hh)、あるいはEGFR経路を標的とする薬剤の評価を目的としたものである。

12の異なるタイプのがん患者が標的治療に反応

試験の対象基準は、がんの分子レベルの研究において、HER2、BRAF、Hedgehog、EGFR経路の異常(増幅・過剰発現、変異)が認められるがん患者。患者らは、個々の遺伝子異常を標的とした治療薬がマッチ(使用)された。HER2異常のある患者には、トラスツズマブとペルツズマブの併用が、BRAF変異に対してはベムラフェニブが、Hedgehog経路変異にはvismodegib ビスモデギブが、さらにEGFR変異にはエルロチニブが投与された。これらの治療に対して、腫瘍タイプのみが唯一、現状の適応外基準として認められた。

試験に第1次参加した129例の内訳は、HER2異常82例、BRAF異常33例、Hedgehog異常8例、EGFR異常 6例であった。全患者とも進行固形がんで、治療回数歴の中央値は3回であった。

早期結果では、総計で12の異なるタイプのがん患者29例(22%)が標的治療に反応(奏効)した。奏効患者12例は治療期間中央値6カ月後(期間幅2-14カ月)に進行が見られた。また奏効患者15例は3~11カ月にわたり効果が継続した。

最も治療効果の認められたのはHER2増幅・過剰発現患者であり、大腸がん患者20例中7例(35%)、膀胱がん患者8例中3例(38%)、胆のう(胆管)がん患者6例中3例(50%)で腫瘍サイズが30%以上縮小する客観的(objective)奏効が見られた(図1)。

図1 HER2 遺伝子増幅および過剰発現症例(61例)における治療効果

Colorectal: 結腸直腸、Bladder: 膀胱、Biliary: 胆管、Non-small cell lung: 非小細胞肺、Pancreas: 膵臓、Head/neck: 頭頸部、Other (5 sites): その他(5部位)

非小細胞肺がんのBRAF変異集団でも同じような傾向が認められた。同集団の第1次患者15例中3例(20%)が客観的奏効、2例は最低4カ月間安定(SD:がんが縮小・増大なし)が継続した(図2)。

図2 BRAF遺伝子変異症例(33例)における治療効果

Non-small cell lung: 非小細胞肺、Ovary: 卵巣、Unknown primary: 原発巣不明、Colorectal: 結腸直腸、Pancreas: 膵臓、Head/neck: 頭頸部、Other (5 sites): その他(5部位)

トラスツズマブ=商品名ハーセプチン ペルツズマブ=商品名パージェタ ベムラフェニブ=商品名ゼルボラフ
vismodegib ビスモデギブ=商品名Erivedge エリベッジ エルロチニブ=商品名タルセバ

適応を超えたがん種でも治療効果認める

このような結果から、報告者の米Sara Cannon 研究所(テネシー州ナッシュビル)のJohn Haisworth氏は「アンメット・メディカル・ニーズ(unmet medical needs:治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)にベネフィットをもたらすために、腫瘍タイプに非依存的な腫瘍の分子的変動(alterations)の同定をベース(基盤)とした患者の臨床試験への導入は、実現可能かつ重要である」としている。

さらに同試験では、

①これらの分子標的薬において、現状では適応外の12の異なる腫瘍タイプの患者において、治療効果が認められた。

②持続性(継続性)のある治療効果(反応)が4つの主要な腫瘍コホート(HER2増幅大腸がん、膀胱がん、胆管がん、およびBRAF変異非小細胞肺がん)で見られた。

これらのことから、Hainsworth氏は「プレシジョン・メディシンのアプローチにより、患者がより便益を得られるようになることを示した今回の研究でみられるように、腫瘍の遺伝子検査がその可能性の増大をもたらせている。結論を下すには時期尚早だが、本知見は、例えばHER2標的療法は、現状のHER2陽性乳がんや胃がんなど適応を超えたものとなる可能性があり、HER2増幅大腸がん(HET2遺伝子の過剰コピー)におけるHER2標的療法の活性化(有効性)に対する強力な早期シグナルを提示している」と述べている。

本試験は患者数が500例まで増大することがデザイン(計画)されている。治療効果が小さい集団は早期に中断し、効果が示された集団は拡大(延長)が予定されている。研究者らは、これらの経路を標的とした別の新しい治療レジメンを組み入れる計画を立てている。

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