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再発乳がんへの対応

長期戦の覚悟と対策を持って生き抜くために ホルモン陽性HER2陰性の乳がんは、なぜ10年経っても再発するのか

監修●中村清吾 昭和大学医学部乳腺外科教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2018年6月
更新:2018年6月

  

「背骨や腰など体のどこかに痛みが出たときは、まず乳腺外科を受診しましょう」と語る中村さん

術後10年以上経っても、再発の不安から逃れられない乳がん。しかし、ホルモン療法のメカニズムを知り、その理由と傾向がわかれば、何に注意して日々を過ごしたらよいかが見えてくる。過剰な心配は必要ない。万が一、再発したとしても、新薬も年々増え、治療法の選択肢も広がっている。大切なのは、知ること。そして、不安を捨てて楽しく生きていくことだ。

閉経後のホルモン陽性乳がんが増加している

女性が罹患するがん種の1位が、大腸がんから乳がんにとって代わったのが2000年代初め。それから15年を経た今も、乳がんは罹患数を年々増やしながら1位を独走している(図1)。その増加の内訳を見ていくと、ある特徴が見えてくるそうだ。

「乳がん罹患率の推移を年代別に見ていくと、閉経後、つまり50代以降におけるホルモン陽性タイプの乳がん患者が大幅に増えていることがわかります」と昭和大学医学部乳腺外科教授の中村清吾さんは指摘する(図2)。

そこには、食生活の変化、つまりエネルギー摂取量に占める脂質の割合が急速に増え、肥満が増えていることが関わっていると見られる。過食、運動不足などを原因とする肥満傾向が、閉経後のホルモン陽性乳がんを増やす下地になっているというのだ。ちなみに、自家用車保有台数と糖尿病の疾病患者数の推移が重なるというデータがあり、そこに乳がんの罹患数の推移もほぼ重なってくるそうだ。

ホルモン陽性HER2陰性タイプの再発は、なぜ10年後も続くのか

今回は、日本人の乳がんの7割を占め、とくに閉経後の高齢女性に増加している「ホルモン陽性HER2陰性」タイプの乳がんについて、その再発・転移の特徴と対策、そして実際に再発したときの治療法について考えたい。

他のがん種や、ホルモン陽性HER2陰性タイプではない乳がんは、術後10年を超えて再発の不安を抱えるということは、ほぼないという。なぜ、この種類の乳がんだけ、10年、15年を経てなお、再発・転移の不安と隣り合わせなのだろうか。

「ホルモン陽性HER2陰性タイプの乳がんは、メインの治療がホルモン(内分泌)療法です。ホルモン療法は、がん細胞そのものを攻撃するのではなく、がんの増殖シグナルを受け取る受容体にくっついて、そのシグナルを抑えるという治療法。つまり、がん増殖シグナルを抑え込むことはできても、がん細胞自体を死滅させたわけではない、というのがポイントです」と中村さんは指摘する。

言い換えると、ホルモン療法を5年続けた人は、止めてから数年はがん増殖シグナルを抑えられていたとしても、徐々にその効果が薄れていくことがある、と考えられるのだ。ホルモン療法終了時点で、がん増殖シグナルが駆逐されていれば、再発することはない。しかし、単にホルモン療法によって抑えられていただけで、がん細胞がまだ存在している場合は、10年、15年経ってから再び立ち上がってくることがある、というわけだ。

「閉経前の人が服用するタモキシフェンでいうと、5~6年前までは、5年服用で十分という考え方が主流でした。ところが、経過を追うと、ホルモン療法終了後の5年後、つまり術後10年から15年にかけても再発するケースが見られ、何年間服用すべきかを模索する臨床試験が、長年行われてきました。その結果、タモキシフェンは10年服用したほうが再発予防効果の高いことが明らかになり、現在は10年服用がスタンダートです。

閉経後の人はアロマターゼ阻害薬を服用しますが、こちらも以前は5年がスタンダードでした。今は、5年より7年服用したほうが予防効果が高いという方向に落ち着いています。ただ、10年服用するかとなると、7年と10年では効果はほぼ同じ。むしろ、アロマターゼ阻害薬は骨を弱くする副作用があるので、長期服用による骨粗しょう症、それに伴う骨折の頻度が高くなることのほうが懸念されます。私は、アロマターゼ阻害薬については、10年は必要ないと感じています」

がんの性質によって違うホルモン療法の年数

ただし、十把一絡(じっぱひとから)げに「タモキシフェンは10年、アロマターゼ阻害薬は7年」とは言えないという。なぜなら、一口に「ホルモン陽性HER2陰性」といっても、1人ひとりのがん細胞そのものの性質と増殖力が違うからだ。それを表すのが、ルミナルA、ルミナルBといったサブタイプ分類だ(図3)。

乳がんは、がん細胞が持つ遺伝子の性質と増殖力によって5つのタイプに分類される。ホルモン受容体、HER2、がんの増殖力を示すKi67値という3要素の組み合わせでタイプが決まるが、今回取り挙げる「ホルモン陽性HER2陰性」乳がんは、ルミナルA型、もしくはルミナルB型になる。

「大切なのは、最初の段階で、自身の乳がんが、ホルモン療法を5年ではなく10年(7年)続けなくてはならないリスクのあるものだったかどうか、です」と中村さん。

「ルミナルBの場合は、5年目以降も潜在的に再発するリスクを抱えている可能性があると判断して、閉経前でタモキシフェンを服用する場合は、5年でなく10年服用が推奨されます。同じく、閉経後でアロマターゼ阻害薬を服用するなら、5年でなく7年ということになるわけです。かつ、ルミナルBは繁殖力が高く悪性度が高いと判断されるので、ほとんどの場合、術後化学療法を受けることになります」

ただし、10年ほど前まで、つまり、Ki67が調べられていない時代、オンコタイプDX検査もなかったころは、臨床の医師が、リンパ節転移の有無と、がんの大きさ(2㎝以上か以下か)をもとに、がんの悪性度を判断していた。

悪性度が高そうで、今で言うルミナルBに近いと判断した場合は、術後化学療法ありのホルモン療法10年(7年)を選択。一方、悪性度が低く、ルミナルA寄りと判断した場合は、術後化学療法なし、かつ、基本的にホルモン療法は5年で終了、という道筋だ。

ルミナルAの場合、「必要とされたホルモン療法を完了すれば、術後10年、15年経ってから再発してくる可能性はほとんどない」、と言っていいそうだ。ただし「ゼロではない」のが悩ましいところ。そこで現在、ルミナルAの人は、ホルモン療法5年の時点で、そのときの状態を見て、その後どうするかを判断する。

タモキシフェンを服用している場合、5年時点で日常生活の妨げになる副作用が発現していたり、婦人科健診で子宮内膜が厚くなってきているなど子宮体がんを懸念すべき状態が出ていたら、ホルモン療法は終了。一方、副作用も懸念事項もなく、タモキシフェン服用が日常生活に一切支障をきたしていないのであれば、万が一に備えて、ルミナルAでも10年服用という選択をすることもできる。

閉経後でアロマターゼ阻害薬を服用している場合も同じ。ルミナルAであれば、5年服用で基本的には終了。ただし、骨密度の低下などの副作用がなく、生活に支障がなければ、万一の再発に備えて服用を延長することも可能だ。ただし、アロマターゼ阻害薬は、骨粗しょう症リスクの兼ね合いから、7年が最長とのことだ。

5年、ないし10年(7年)でホルモン療法を終えた後は、最低10年は経過観察をするのが、乳がんの基本。ただし、「10年を超えても再発がゼロではないし、再発しなくても、別の新たながんができることもあります。1年に1度の健診の機会は、10年目以降もぜひ持って、定期的に体を総チェックしましょう。乳腺外科の医師との繋がりは長く続けていくことを勧めます」と中村さんはアドバイスする(図4)。

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