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国際共同前向き試験「PRIAS-JAPAN」でエビデンスが蓄積 早期前立腺がんに対する監視療法は、高齢者だけでなく働き盛りの世代にも選択可能

監修●杉元幹史 香川大学医学部泌尿器科学教授
取材・文●植田博美
発行:2019年1月
更新:2019年2月

  

「PRIAS-JAPANの9年間で積み上げられたデータによって、条件さえ満たしていれば、監視療法は年代に関係なく自信をもって勧められることがわかってきました」と話す杉元幹史さん。

積極的治療が必要になるまで経過観察を行う「監視療法」は、進行が比較的緩やかな前立腺がんならではの治療法だ。しかし、そうは言っても、体内にがんがあるのに放置しておいても大丈夫? ――当事者(患者)ならだれもが思う疑問だろう。

この早期前立腺がんに対する監視療法については、2006年からオランダのエラスムス大学医学部を中心にした国際多施設共同前向き試験「PRIAS(Prostate cancer Research International:Active Surveillance)」が開始され、日本でも2010年から「PRIAS-JAPAN」として継続中だ。今回は、日本の主要大学病院・基幹病院の代表として参加している香川大学医学部泌尿器科教授の杉元幹史さんに話を伺った。

監視療法は過剰治療や合併症を避ける最善策

まず、「監視療法(AS=Active Surveillance)」とはどういうものだろうか。

PSA(Prostate-Specific Antigen:前立腺特異抗原)とは前立腺から分泌されるタンパク質の一種で、健常者でもごく一部が血液中に取り込まれている。しかし、前立腺がんを発症すると血中のPSA値が増加するため、血液検査で前立腺がんの可能性を調べることができるのだ。このPSA検査は、前立腺がんの早期発見に最も有効な検査として広く行われている。

「前立腺がんは高齢者に多く、反対にAYA世代(思春期・若年成人:15~39歳)ではほぼ罹患しません。しかし、このがんは遺伝性があることが分かっていますので、親兄弟や親戚(しんせき)に前立腺がんを患った方がいる場合は、40歳を過ぎたころから定期的にPSA検査を受けるとよいと思います」と杉元さんは述べる。

PSA検査の普及によって、前立腺がんは転移のない早期の状態で発見されるケースが激増した。しかしその反面、皮肉にも問題となったのが、過剰治療とその副作用によるQOL(生活の質)の低下だ。早急な治療を必要としない前立腺がんにまで手術や放射線治療を行った結果、尿失禁や性機能障害などの合併症に悩まされている患者は少なくない。

「監視療法は、このような過剰治療や、治療による副作用を避けるための方策です」と、杉元さんは語る。

「過剰治療を避けるといっても、『治療の必要がない“おとなしい”がんは見つけないようにする』のは現実的ではありません。『とりあえずがんを発見し、そのあとで本当に治療が必要ながんだけを選んで治療する。それ以外は様子を見る』のが、一番の方法ではないでしょうか。

PSA検査で発見される早期の前立腺がんの中には、当面は治療をしなくても“悪さ”をしないと考えられるものも多いのです。そのようながんに対しては、定期的に検査をしながら経過をきめ細やかに観察し、もし進行の予兆があれば直ちに根治を目指した治療に切り替えていきます。結果、適切な時期まで積極的治療を遅らせることができ、副作用も回避することができる。これが監視療法です。

ただ、この治療法は今世紀に入ってからの比較的新しい概念のため、長期的なアウトカム(研究成果)やエビデンス(科学的根拠)が構築されていませんでした。そのための世界規模の研究がPRIASなのです」

PSA値10ng/ml以下、GS3+3以下、生検陽性本数2本以下の患者が対象

2010年からオランダを中心に世界中で行われている、早期前立腺がんに対する監視療法の前向き観察研究「PRIAS(プライアス)」。2018年の報告では、参加国数は23カ国を数え、これまでに7,700人以上が登録している。日本では全国40機関で841人が参加(2018年7月時点)。オランダ、イタリアに次ぐ登録数だ。研究は現在も継続中で、参加国、登録数ともに今後も増えていく予定である。

患者の選択規準や経過観察の方法は、一般的な監視療法より少し厳密に設定されている。年齢制限はないが、すでに前立腺がんの治療歴のある患者は適応外だ。

<選択規準>
1. 生検で病理学的に確認された前立腺がん
2. 前立腺全摘除や放射線療法などの根治的治療が実施可能な全身状態(PS)の患者
3. 臨床病期(ステージ):T1cまたはT2でN0、M0
4. グリソンスコア:3+3(6)かそれ以下
5. 陽性コアの本数(生検陽性本数):1本または2本。ただし生検本数は最低8本
6. PSA濃度(PSAD):0.2未満
7. 生検前のPSA値:10ng/ml以下
8. 本研究の経過観察プロトコールに従って外来受診を積極的にできる患者

グリソンスコア(GS)=前立腺がんの悪性度を数値で表したもの。病理標本で組織の悪性度を1(低)から5(高)までの5段階に分類し、一番面積の大きいものと2番目に大きいものの合計の数値で表す。2(1+1)から10(5+5)までの9段階のうち、6以下は性質のおとなしいがん、7は中位の悪性度、8~10は悪性度の高いがんとされる

陽性コア=前立腺針生検でがん細胞が認められた針

図1は、患者登録時の数値データを表にしたものだ。これによると、年齢の中央値は68歳、PSA値の中央値は5.26ng/ml。また、グリソンスコア6、がん生検陽性本数1本、病期T1cの患者が多いことがわかる。

経過観察は、3カ月ごとのPSA採血(検査)と6カ月ごとの直腸診、1・4・7・10年目に再生検を行う。病理学的な悪化もしくは臨床病期の進行がみられた場合には、根治を目的とした積極的治療が勧告される(図2)。

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