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未治療転移性前立腺がんの治療の現状を検証 去勢抵抗性後の治療方針で全生存期間に有意差認めず

監修●成田伸太郎 秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授
取材・文●伊波達也
発行:2020年3月
更新:2020年3月

  

「進行がんの予後改善が目標です」と述べる成田伸太郎さん

『みちのく泌尿器癌研究班』は東北地方の大学医学部を中心とした多施設が協力体制を敷き、患者の後ろ向き(レトロスペクティブ)データを蓄積してデータベースを構築している。そのデータを解析しながら、様々な研究報告を行っている。前立腺がんにおいてもその成果は様々ある。そんな研究班の一員である秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授の成田伸太郎さんに、「未治療転移性前立腺がんに対するホルモン療法の治療成果」に関する研究の内容について伺った。

初診時での転移症例は約16%

前立腺がんは、予後の良いがんとして知られているが、進行がんになると難治性となる。報告によって違いがあるものの初診時すでに転移のある症例が約16%と言われる。それらの初期治療は、従来、男性ホルモンをブロック(遮断)する治療であるホルモン療法(アンドロゲン除去療法:ADT)を中心に行われてきた。

現在、その治療方法は海外を中心に大きく変わってきている。2015年以降、未治療転移性前立腺がん(mHNPC)に対して、初めからホルモン単独療法を行うだけではなく、そこに抗がん薬や新規のホルモン薬を併用することで、予後が延長するという大規模な前向き(プロスペクティブ)試験の結果が複数出たことで、日本での治療も大きく変わってきている。

転移性前立腺がんでの治療の現状を検証

「海外で治療指針が大きく変化したこのタイミングで、初診時から転移のあった患者さんのこれまでの本邦の治療状況はどうなっているのかを、研究班のデータベースをもとに検証してみようということになったのです。そして、2008~2016年の期間で、東北地方の9施設(青森県立中央病院、弘前大学病院、東北大学病院、山形大学病院、山形県立中央病院、岩手県立胆沢病院、仙台市立病院、宮城県立がんセンター、秋田大学)における、新規に転移がある前立腺がんと診断された症例に対して、どういう治療が行われ、どういう状況になって、どのような転帰(アウトカム)に至ったかというデータベースを作成しました」と秋田大学大学院研究科腎泌尿器科学講座/同大学附属病院血液浄化療法部准教授の成田伸太郎さんは話す。

ADT単独の5年生存率は58.2%

成田さんは2016年にこの研究を企画し、責任者となって研究を進めてきた。このデータにおける605例では、ホルモン単独療法で治療を始めた初診時mHNPC患者の追跡期間の中央値は2.95年、5年生存率は58.2%というのが示された基本データだ。

日本では、2014年、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して、ザイティガ(一般名:アビラテロン酢酸エステル)やイクスタンジ(同:エンザルタミド)など第二世代のアンドロゲン受容体標的薬(androgenreceptor-axis-targeted:ARAT)が承認されている。このことで、最初の治療が効かなくなった場合でも様々な薬剤を投与する可能性が増えたため、それらの治療法に対する研究の必要性も出てきた。

「私たち『みちのく泌尿器癌研究班』のデータベースには、すべての後治療が網羅されているわけではありませんが、ホルモン単独療法で治療を始めたmHNPC患者さんがCRPCとなった時点で抗がん薬のタキソテール(一般名:ドセタキセル)、ジェブタナ(同:カバジタキセル)を使用したかどうか、使ったならいつから開始したかという情報と、ARATを使用したかどうか、いつ使われたかという情報が網羅されています。そのデータを用いて弘前大学の大山力先生たちのチームが解析を行ってくれました」

治療パターンが予後に与える影響を検討

mHNPCにADT治療が行われた後、去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)となった患者268例で異なる治療パターンがどれくらい予後に影響したかという研究を行った。

「ホルモン単独療法で治療を始めて、それに抵抗性になって、しかも転移のある患者さんが次に行う治療はどういうものにしたら、予後がどうなったかを見た研究です。そこにはいろいろなパターンがあります」

去勢抵抗性になった後の1次治療から4次治療までの治療パターン(ラジウム223、フルタミドなど一部のヴィンテージドラック、治験薬の情報を除く)を調べると、1次治療はARATが68%、ドセタキセルが32%。2次治療はARATが71%、ドセタキセルが22%、カバジタキセルが8%。3次治療はARATが49%、ドセタキセルが18%、カバジタキセルが33%。4次治療はカバジタキセルが100%だった。また1次治療から2次治療への組み合わせはドセタキセル→ARATが46%、ARATA→ARATAが26%、ARAT→ドセタキセルが22%、ドセタキセル→カバジタキセルが6.9%と様々なパターンがあった(図1)。

■図1 去勢抵抗性前立腺がん(mHNPC)の去勢抵抗性後の治療パターン

Treatment patterns : 治療パターン
% of patients : 患者比率
Treatment line : 治療ライン
1st line : 1次治療
2nd line : 2次治療
3rd line : 3次治療
4th line : 4次治療
ARTA : ARATアンドロゲン受容体標的薬
DTX : ドセタキセル
CBZ : カバジタキセル

Treatment sequence n=146 :治療シークエンス(逐次治療) 146例
(1st ➝2nd-line): (1次➝2次治療)
% of patients : 患者比率
DTX : ドセタキセル
ARTA :(ARAT)アンドロゲン受容体標的薬
CBZ : カバジタキセル

去勢抵抗性にならないようにすることが重要

「去勢抵抗性後のこれらトリートメントシークエンス(逐次治療)で、どの治療パターンが、どれくらい予後に影響したのかを見たのが今回の研究です。結論から言うと、どのパターンでも去勢抵抗性後の全生存期間(OS)での有意差は認められませんでした(図2)。これは本研究が行われた時点までの標準治療の成績であり、薬物療法のバリエーションが増え、治療タイミングの変わった現在では治療が進化しており、今後は治療成績がより向上してくる可能性があります」

そして、この研究結果や最近の報告から推測されるのは、CRPCにならないようにすることが重要である可能性があるということだという。mHNPC患者さんへ一昨年(2018年)からはザイティガという薬がホルモン療法効果のある時期から保険診療で使用できるようになり、今後さらに新たな治療薬が登場してくる可能性もある。

「CRPCになる前の期間を、治療の工夫によって延長していくことが生命予後にとって大切だ」と成田さんは話す。

■図2 去勢抵抗性後の全生存期間(OS)の比較

OS after CRPC (Unadjusted) : 去勢抵抗性前立腺がん後の全生存期間(無調整)
Percent survival : 生存率
Months : 生存期間(月)
First-line DTX : 1次治療 ドセタキセル
First-line ARTA : ARAT 1次治療 アンドロゲン受容体標的薬
First Line ABI : アビラテロン酢酸エステル
First Line ENZ : エンザルタミド

※CRPC の全生存期間(OS)において、1次治療ARATおよびDTX、さらに1次治療ABIおよびENZ間で、有意差は認められなかった。

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