症例を選択すればTKI単独療法でも十分に対応可能! 転移性腎細胞がん中リスク群での一次治療に対する治療薬選択
現在、転移性腎細胞がんに対する薬物治療の中心となっているのは、2018年に承認された免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のヤーボイ(一般名イピリムマブ)とオプジーボ(同ニボルマブ)との併用療法であり、今やICIが主流になりつつある。しかし、ICIは重い免疫関連有害事象(irAE:副作用)の発現頻度が高いという側面があり、すべての中リスク群に分類される症例に適応するとは言い切れない。
そこで考慮されるのが、低リスク群の症例に対する第一選択薬である、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)単独療法だ。京都府立医科大学泌尿器外科学准教授の本郷文弥さんは、「症例を選べば中リスク群の症例でも十分に適応が可能」という。その可能性について話をうかがった。
転移性腎細胞がんの治療薬選択はリスク分類によって決まる
腎臓は、大きく腎実質(尿を作る部分)と腎盂(じんう:尿が集まる部分)に分けられ、このうち腎実質を構成する細胞ががん化したものを〝腎細胞がん〟と呼ぶ。
根治が期待できるものに対しては手術による外科治療(手術)が標準だが、がんが他の臓器に転移しているなど、手術が難しいケースでは薬物療法が選択される。
「転移性腎細胞がんの薬物療法は、かつてはインターフェロン-α(INF-α)などのサイトカイン療法が中心でしたが、現在は分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が主流となり、予後も大幅に改善されています」と本郷さんは説明する。
抗がん薬(化学療法)は腎細胞がんには効きにくいため、一般的には使われない。
転移性腎細胞がんの治療薬の選択は、予後予測因子を用いたリスク分類によって決められている。*MSKCC分類と*IMDC分類という2種類のリスク分類方法があり、このうち分子標的薬治療の予後を予測する指標がIMDC分類(図1)だ。
予後に関連することが知られている6項目のうち、当てはまる数で低・中・高の3つのリスク群に分けられる。このIMDC分類によって推奨される治療薬の一覧が図2となる。
*MSKCC分類:分子標的薬が普及する以前に、転移性腎がんの治療成績を後ろ向きに解析し、統計学的に独立して生命予後と関連する因子を同定し、それらの因子の組み合わせることにより生命予後予測分類として提唱されたもの。MSKCC分類は分子標的薬時代においても生命予後と関連していることが多数例での検証で示されている。
*IMDC分類:MSKCC分類と同様の手法を用いて、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)標的治療薬による治療を施行した転移性腎がん患者の成績を解析して、生命予後と関連する因子を同定することにより,提唱されたもの。分子標的薬時代の予後予測分類として広く使用されている。
※これ以外に、日本人を対象にして開発されたJMRC分類がある。
*淡明細胞型腎細胞がん:組織型の一つ。最も多いタイプで、腎細胞がんの約70~80%を占める
分子標的薬 「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」
チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は分子標的薬の一つだ。分子標的薬とは、がん細胞の増殖や、がんに栄養を運ぶ血管の新生などに関わる特定の分子を標的とすることで、がんの成長(増殖)を抑える薬である(図3)。TKIはがん細胞の増殖や血管新生を促すチロシンキナーゼというタンパク質をブロック(遮断)する働きを持つ(図4)。
腎細胞がんの治療に使用されるTKIは、スーテント(一般名スニチニブリンゴ酸塩)、ヴォトリエント(一般名パゾパニブ塩酸塩)、ネクサバール(一般名ソラフェニブトシル酸塩)、インライタ(一般名アキシチニブ)の4種類。
「日本では、スーテントとネクサバールが2008年に、インライタが2012年に、ヴォトリエントが2014年に承認されました。現在一番よく使われるのがスーテント、次がヴォトリエント、ネクサバールの順です。インライタは二次治療以降に使用する薬です」と本郷さんは話す。
腎細胞がんに使われる分子標的薬には、TKIのほかに、mTOR(エムトール)阻害薬もある。トーリセル(一般名テムシロリムス)とアフィニトール(一般名エベロリムス)の2種類が承認されているが、現在では使用頻度は少ない傾向にあるようだ。
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