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進行・再発乳がんにも効果が期待でき、副作用が少なくQOLが保てる
患者さんの症状に合わせて使い分けが可能な最新薬物療法

監修:岩田広治 愛知県がんセンター中央病院乳腺科部長
発行:2011年7月
更新:2013年4月

  
岩田広治さん
乳がんの最新治療の
研究に邁進する
岩田広治さん

進行・再発乳がん患者さんに対して、ゼローダとさまざまな薬の組み合わせによる治療法が注目を集めている。
患者さんの症状やニーズに合わせて治療法が選択でき、効果があって副作用も少ないということは、患者さんにとって何よりの朗報だ。

進行・再発乳がんでも、「長く元気に」が可能に

転移するなど病期の進んだ進行乳がんや、手術後に再発した乳がんに対しては、患者さんが少しでも長く元気に生活を送ることを目的に治療が行われます。治療は主に抗がん剤による薬物治療ですが、乳がんはほかのがんに比べて抗がん剤が効きやすい上、近年、使える薬が飛躍的に増えています。

ですから、1つの薬が効かなくなっても、別の薬に変えたり、複数の薬を組み合わせたり、組み合わせを変えたりすることで、長期の延命をはかれる可能性が高くなりました。事実、薬を「乗り継いで」、再発転移後に長期間、元気に過ごしている患者さんは決して少なくありません。

ただし、その場合、大切なのは効果と副作用のバランスです。がんの増殖を抑える効果が高くても、副作用が強すぎると、患者さんは日常生活を元気に過ごすことができません。そのため、効果が得られて、しかも副作用の少ない薬が望まれてきましたが、その点で今、注目されているのがゼローダ()です。

[表1 進行・再発乳がんに対するゼローダを使用した治療法]
表1 進行・再発乳がんに対するゼローダを使用した治療法

※HER2陽性であれば、上記の療法にハーセプチンを併用、もしくはゼローダ+タイケルブ()療法を実施する

ゼローダは、がんの増殖を抑える力が強い抗がん剤、5-FU()をもとに開発された内服薬です。がんの組織に多く含まれる酵素によって、がん細胞内で5-FUに変わるようにつくられているため、がん細胞内に濃い濃度でとどまります。その一方、副作用は少なめで、とくに、患者さんに強いストレスを与える脱毛が起こりにくいことが知られています。

ゼローダは、進行・再発した乳がんの標準的な治療薬として世界各国で使われています。日本でも、2003年から保険適応が認められるようになり、現在ではゼローダを使用した、さまざまな治療法が行われています(表1)。

ゼローダ=一般名カペシタビン
5-FU=一般名フルオロウラシル
タキソテール=一般名ドセタキセル
タキソール=一般名パクリタキセル
タイケルブ=一般名ラパチニブ

エンドキサンを加え、相乗効果の高いXC療法

それまで、進行・再発乳がんに対する標準的な治療としては、アンスラサイクリン系抗がん剤が使われ、効果が見られないときにタキサン系抗がん剤が使われてきました。しかし、それでも効果がなかった場合、使える抗がん剤がありませんでした。

そこに、ゼローダが登場したのです。国内外での臨床試験では、当時の標準治療薬で効果が得られなくなった患者さんに投与され、がんの縮小が確認されました。

さらに、その効果と副作用のバランスで注目を集めたのが、ゼローダにエンドキサン()という内服薬を組み合わせた化学療法です。2つの薬の頭文字(エンドキサンは、一般名のシクロホスファミドの頭文字)からXC療法と呼ばれています。

エンドキサンは抗がん剤として長い歴史を持ち、乳がんでも標準治療薬として使われています。エンドキサンにはゼローダを5-FUに変換する酵素を活性化する働きがあり、両剤を併用すると効果が高まることは、早くから基礎実験で確かめられていました。そして実際に、臨床試験でXC療法の効果は次々に確認されています。

エンドキサン=一般名シクロホスファミド

さまざまなタイプの乳がんに高い効果

[図2 XC療法の服用スケジュール]
図2 XC療法の服用スケジュール

[表3 XC療法の国内第2相試験結果]

    田中らa(九州乳癌研究グループ) 平田、岡本b


効果があった割合 35.6%(16/45例) 45.7%(21/46例)
がんの進行が止まった期間 199日 373日
全生存期間 677日 未到達


手足症候群 0%(グレード3) 0%(グレード3)
下痢 2.2%(グレード3以上) 0%(グレード3以上)
悪心 2.2%(グレード3以上) 0%(グレード3以上)
おう吐 2.2%(グレード3以上) 0%(グレード3以上)
脱毛 8.9%(全グレード) 2.0%(全グレード)
副作用による治療中止 3例 0例
※グレード=副作用の重症度
a)Anticancer drugs b)EBCC2010、日本乳癌学会2010

[表4 アンスラサイクリン系の抗がん剤を経験した方の有効性(試験比較)]

  効果の
あった割合
病気が進行
するまでの期間
全生存期間
タキソテール 1~4)
タキソール 1,2,5,6)
23~42%
17~29%
3.5~6.3カ月
3.1~4.2カ月
9.8~15.4カ月
9.4~12.7カ月
XC療法 7-8) 36~46% 6.5~12.3カ月
(199~373日)
22.3カ月
(677日)
1)Jones SE 2)Leonard R 3)Alexandre J 4)Sjostrom J 5)Dieras V 6)Nabholtz J 7)Tanaka M 8)EBCC2010、日本乳癌学会2010

[図5 XC療法のQOL評価]
図5 XC療法のQOL評価

QOLスコアはポイントが高いほど、良好なQOLを示す
※乳腺疾患に特異的な項目=身体症状・疼痛、医療に対する満足と病気に関する対処、副作用など
西川ら 日本癌治療学会2010より一部改変

XC療法は日本で最初に臨床試験が行われ、効果と安全性が確認された治療法です。具体的な服用スケジュールは図2のとおりです。

九州乳癌研究グループが2005年7月~2007年12月、アンスラサイクリン系の薬での治療歴を持つ進行・再発乳がん の患者さん45人に対してXC療法を行いました。その結果、がんが完全に消えた人2名、30パーセント以上小さくなった人14名など、36パーセントの人に効果を認めたのです(表3のa)。がんの進行が止まった期間の中央値は199日、全生存期間の中央値は677日と、その有用性()はタキサン系抗がん剤に劣らないものでした(表4)

報告を詳しく見ると、ホルモン剤が効果を示さなくなったホルモン陽性乳がんに対しては36パーセント、またトリプルネガティブ乳がん(ホルモン陰性のためホルモン剤が使えず、分子標的薬()ハーセプチン()も効かず、予後()が悪いとされるタイプの乳がん)に対しても42パーセントの人に効果が認められています。 この結果はとくに、治療法の限られたトリプルネガティブの患者さんにとって朗報といえます。また、ゼローダ単剤療法で特徴的な副作用である手足症候群の発現が、XC療法では比較的少ないことも報告されました。

この臨床試験は2008年、米国サンアントニオで開催された乳がん国際会議で発表され、注目されましたが、2010年のEBCC(欧州乳がん会議)では、国内の別のグループからも同様に良好な結果が報告されました(表3のb)。

また、その後、札幌医科大学からは、XC療法が高いQOL(生活の質)を保ちながら続けられる治療法であることも報告されました(図5)。

有用性=有効性と安全性の相対的評価
分子標的薬=体内の特定の分子を標的にして狙い打ちする薬
ハーセプチン=一般名トラスツズマブ
予後=今後の病状の医学的な見通し


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