進行再発乳がんのホルモン療法
タモキシフェンよりもアロマターゼ阻害剤のほうが効果がある。そして……
埼玉医科大学乳腺腫瘍科教授の
佐伯俊昭さん
進行再発乳がんの基本となる治療指針
進行再発乳がんでは、がん細胞はすでに全身に広がっていると考えられる。そのため、治療法としては、ホルモン療法か化学療法の全身療法が選択される。これらをどう進めていくかを示した治療指針として、「ホルトバギーのアルゴリズム(治療手順)」がよく知られている。
この治療指針では、女性ホルモンに対する感受性の有無が、治療法を選択する重要なポイントとされている。「ホルモン感受性があり、さらに生命を脅かす転移がない」場合には、ホルモン療法から治療を開始する。一方、「ホルモン感受性がないか、生命を脅かす転移がある(あるいは両方に該当する)」場合には、化学療法から始めることになっているのだ。
乳がんには、女性ホルモンに対するレセプター(受容体)を持ち、その働きにより増殖するタイプと、女性ホルモンには関係なく増殖するタイプがある。ホルモン療法は、がん細胞に女性ホルモンが作用するのを防ぎ、増殖力を失わせる治療法。女性ホルモンで増殖する乳がんには、この治療法が勧められるわけだ。
ホルトバギーの治療指針では、第1次ホルモン療法を行って、効果がなければ、化学療法を開始することになっている。いったん効果が現れても、症状が増悪したら第2次ホルモン療法へ。ここでも、効果がなければ化学療法へ移り、効果が現れたものの症状が増悪した場合には、第3次ホルモン療法へと進むことになる。このように、第1次から第3次まで、整然と治療の道筋が示されている。
[ホルモンレセプター発現パターンとホルモン療法の有効性]
レセプターの状況 | 閉経前 | 閉経後 | ホルモン療法の有効率 |
---|---|---|---|
ER+/PgR+ | 49% | 55% | 78% |
ER+/PgR- | 12% | 23% | 34% |
ER-/PgR+ | 9% | 3% | 45% |
ER-/PgR- | 30% | 19% | 10% |
治療の道順はいろいろ考えられる
進行再発乳がんの場合、このアルゴリズムに従って治療していくのが基本とされているが、埼玉医科大学病院乳腺腫瘍科教授の佐伯俊昭さんによれば、この治療指針ですべてが解決するわけではないという。
「ホルトバギーの指針は、基本です。ただ、そう単純にはいかないこともあります。たとえば、生命を脅かす状態などの場合には、ホルモン療法がいいのか、化学療法がいいのか、判断が難しいことがよくあります」
佐伯さんが例として挙げたのは、多発の肝転移や、胸水を伴う肺転移がある場合だ。多発の肝転移があっても、ホルモン感受性乳がんで、全身状態がよく、肝機能にも問題がなければ、治療指針ではホルモン療法となる。しかし、多発の肝転移は、急激に肝機能の低下を招くことがある。そのため、現時点では生命を脅かす転移ではなくても、少し病気が進行しただけで、たちまち生命の危機を迎えてしまうこともある。したがって、このような場合には、化学療法も選択肢の1つとして考える必要があるというのだ。
「ホルモン療法が効けばいいですが、効かなかった場合には、あっという間に生命の危機的状況を迎えてしまうこともあります。治療指針では、ホルモン療法がだめなら、次に化学療法ですが、肝機能が低下してしまうと化学療法を行うのは難しい。そうなるのなら、全身状態や肝機能がよいときに化学療法をやったほうがいいのではないか、とも考えられるわけです」
ゆるく遠回りのホルモン療法
急だが近道の化学療法
佐伯さんは、進行再発乳がんの治療は、登山に例えるとわかりやすいという。ホルモン療法はなだらかな坂道のようなもので、体への負担は軽いが、登るのに時間がかかる。一方、化学療法は急な坂道のようなもので、体への負担は大きいが、比較的短い時間で高いところまで到達できることがある。
「進行再発乳がんでは、目指す頂上は延命です。全体の10パーセント以下ですが、CR(完全寛解)になり治癒するケースがあります。しかし、治療の途上では、中腹にかかる雲で、頂上がどうなっているのか見えません。ホルトバギーの治療指針では、ホルモン療法が可能ならホルモン療法を行い、それで登れなくなったら、化学療法となっています。それが基本ですが、患者さんによっては、体力があるうちに化学療法で高さを稼ぐのがいいかもしれない。それから、ゆるやかなホルモン療法の坂道を行く方法もあります」
化学療法をやった後でホルモン療法をやって効くのだろうか、という疑問があるかもしれない。しかし、それでCRまで改善している症例もあるという。ホルトバギーの治療指針を基本にしながら、現実に則した治療法を選択することが大切なようだ。
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